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こんにちは。河内 保明(こうち やすあき)です。
春の季節真っ只中の5月ですね。おかげさまで、先のゴールデン・
ウィークも、いそがしくさせていただきました。
さて、職人の世界で長く生きておりますと、さまざまな方たちに
お会いします。その中に、元銀行マンという電気屋さんがいらっし
ゃいます。今日は、そんな一風変わった方のお話をします。
元銀行マンと聞いて、「そんなエリートが、なぜ職人の世界に…
…?」と思いました。いやらしい話、銀行マンのほうが、職人より
も年収が高く、花形職業のはずです。
そして、よくよく話を聞いてみると、最近、企業でよく行なわれ
ている「早期退職者募集」に応募したということでした。このよう
な措置は、そのぶん、退職金を多くもらえるという、「リストラ候
補募集」のようなニュアンスを含む、「早期退職優遇制度」のこと
です。
はやい話、その方は、目の前のそのお金が欲しいがために、長年
勤めてきた銀行をあっさりと辞めたというのです。なんとも単純な
発想でしょうか……。
そして、辞めたあとのことは考えておらず、50代半ばでいきな
り生活苦になってしまったそうです。もちろん、退職時にもらった
そのお金だけでは、老後の生活は無理です。やむえず知り合いのツ
テで、今の電気屋さんの会社へ就職したらしいのです。
華やかな(でもないらしい)完全週休二日制の銀行員の日々から
一転、無愛想で無骨な気質(かたぎ)の職人の世界へトラバーユで
す。
はじめは、職人の気風についていけず、対人関係で悩んでおられ
ました。
一年後、ふたたび調子をきくと、むかしの銀行員よりも、今の職
人の世界がいいと言っていました。
慣れてきたというのもあるのでしょうが、精神的にきついノルマ
地獄の営業職よりは、肉体的につらくても、気兼ねのない職人のほ
うが、今は楽だそうです。
職人の仕事というのは、自分に与えられた仕事を、うまく仕上げ
ていけばいいのです。フリーなら、やったぶんだけ収入も上がり、
また形に残る仕事でもありと、非常にやりがいのある職種といえま
す。
官僚なら「天下り」という“保険”を持っており、退官しても、
お抱えの下請け企業の役職に就けます。しかし、一般企業の幹部や
社長などの役職の方は、会社を辞めれば「ただの人」となり、残り
の余生をいかに過ごすかが問題になってきます。
しかし職人は、腕に職を持っている限り、生涯職人でいられ、動
けなくなるまで働き続けられます。
この「手に職を持つ」という意味ことを、その元銀行マンの電気
屋さんは語っておられました。ある種、自分に言い聞かせていたの
かもしれませんが……。
還暦前の年齢から、職人としてスタートするということは、並み
の人間ではできません。年下に命令されたりして、プライドもズタ
ズタです。それに、周りから見れば、みじめに思われるかもしれま
せん。
しかしその人は、これが自分の決めた道だからと、むしろ生活の
ためであると、前向きで明るい考えで仕事に取り組んでいます。い
つも明るく私に話しかけてきてくれます。相変わらず、仕事のミス
で怒られていますが……。
いつか引退して仕事をやめても、仕事をおぼえた以上、立派な職
人さんです。関係者から見れば、素人よりも役に立ち、長い付き合
いで顔見知りという、知らない人よりも安心できる人材です。いつ
か、お呼びがかかったり、重宝される時がくるかもしれません。
「じいさんになってまで、働きたくないよ」「ヨボヨボのわしを、
コキ使いやがって」と、ぶつぶつ文句を言いながら現場に出て仕事
をしている職人さんも、結構います。
昔の馴染みから呼ばれたりすれば、断れないということも含めて
も、案外本人は仕事が好きだったりします。そして、文句は裏腹だ
と思います。
国民年金受給もあやしい今、死ぬ(?)まで働かなければならな
い時代がやってくるかもしれません。そんなとき、そんな職人でい
ると、仕事の心配がないかもしれませんね。
河内 保明
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