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ベテラン家庭教師が伝える小論文の書き方のコツ 第4回 「課題文を読んだ上で書く」

発行日時: 2008/5/16

 今回は「なぜ勉強すべきなのか」について書いています。

 なお、実際の試験では「課題文」を読んだ上で、そこに書かれた意見や
 主張に対して、自分なりの意見や主張を書け、という出題形式が多いと
 思われますが、著作権等の関係上、このメールマガジンでは「課題文」
 を設けず、大まかな「テーマ」について書いていく予定・・・だった
 のですが、やはり「課題文を読んだ上で書く」というのは大事ですし、
 今回は僕自身が書いた文章(第2回の「解答例」)を「課題文」とし、
 「課題文に対して賛成か反対か」という形で書いてみます。

 では、まずは「賛成」の場合の解答例を御覧ください。



 私も、死刑は廃止すべきであると考える。課題文の作者も書いているが、
 神ならぬ身であるヒトがヒトを正確に裁くなんてことは無理な話であり、
 誤診や冤罪を完全に無くすなんてことは不可能であろう。

 また、法というものは犯罪者や「犯罪予備軍」を律するためだけのもの
 ではない。裁判官や権力者を縛るためのものでもあるのだ。過失ならば
 まだしも、意図的に無実の者に死刑を科すということは、まぎれもなく
 殺人である。このようなことを許すわけにはいかない。無論、法律上の
 死刑を廃止しようと、権力者が敵対する者、気に入らない者を抹殺する
 という行為を完全に抑止することは出来まい。とはいえ、「ハードルが
 上がる」のは確かである。

 また、そもそも私は「どのような理由があろうと、人の命を奪うことは
 許されない」と考えているが、これは「許されない行為であるからこそ
 厳しく罰せられるべき」という考え方と表裏一体であり、課題文が示す
 「死刑に近い」代案でも納得できないという者が出てくるのは当然だと
 言えよう。

 同様に「死刑に抑止力が在るとは言い切れない」というのは、「死刑を
 廃止すれば凶悪犯罪が増えるかもしれない」というのと同じで、所詮は
 推測の域を出ない。他国の例は、あくまで他国の話。条件、環境が違う
 以上、参考程度にしかならない。だからといって、「とりあえず試して
 みよう」というような軽い話題ではない。

 だが、過失や迷信による誤審、あるいは権力者による敵対者の抹殺の為、
 無辜の民が死刑に処されたという事態は、歴史上、何度も実際に起きた
 ことである。いわれなき罪で命を奪われるという最大級の悲劇を、再び
 起こしてはならない。この内の前者を完全に排除し、また後者の強力な
 抑止力と成り得る・・・このことだけでも、死刑を廃止する十分な理由
 と言えると私は考えるのである。



 いかがだったでしょうか。第2回の「解答例」(今回の「課題文」)は
 「代案」を前面に出していましたが、これはあくまで「仮説」に過ぎぬ
 ものであり、「ツッコミ所を減らす」ことに更に留意して、歴史的事実
 を前面に出してみました。

 結論に至る「主たる理由」が課題文から大きく進歩してないというのは
 マイナスポイントと言わざるをえません。「課題文」の作者が僕自身の
 ために別の切り口が思いつかなかったとも言えるのですが、同じように
 「課題文と大して変わらない(単なるイエスマン)」に成りがちである
 というのは、「賛成」の場合の大きな欠点と言えると思います。課題文
 がよく練られたものであれば、そこから大きく進歩させるというのは、
 なかなか難しいものです。

 「全て賛成」と「全て反対」というのは実は同じようなものとも言える
 のですが、「単なるイエスマン」よりは「単なる揚げ足取り」のほうが
 「まだマシ」となる可能性が高いと思われるのです。

 採点者のように、または批評家、評論家のように「ツッコミ所を探す」
 という行為は一定の知的作業で、「ひたすら賛成」と「ひたすら反対」
 という同じ「機械的作業」ならば後者の方が評価が高くなりがちという
 わけです。

 もちろん「(同義語による)言い換え」も一定の知的作業なのですが、
 「賛成」の場合は「課題文とは違う独自の理由や考え方」を前面に出す
 方が良い、逆に言えば独自性を出す自信が無ければ反対する方が良いと
 僕は思います。

 なお、解答例の第3段落の「どのような理由があろうと、人の命を奪う
 ことは許されない」というような「考え方」を前面に出すのも一つの手
 ではあるのですが、思想、信条、情熱のようなものを、あまりに前面に
 出してしまうと、採点者の思想に合うなら高得点、違えば低得点という
 事態も危惧されます。採点者は公平、公正と信じたいところではあるの
 ですが、あえてリスクを冒す必要も無いでしょう。

 さて、では、次に「反対」の場合の解答例を御覧ください。
 


 私は、死刑は存続させるべきと考える。課題文の作者は「回復不可能」
 ということを重視しているが、「だからこそ」殺人は罪深いのであり、
 「だからこそ」死刑は極刑なのであり、「だからこそ」殺人には死刑を
 科すべきなのである。どのような代案を用意しようとも、死刑とは天と
 地ほどの差が存在すると言わざるをえないのである。

 終身刑を導入する、刑務所を「より過酷な場所」とする代わりに刑期を
 短くする、待遇の良い刑務所と待遇の悪い刑務所とを併設する、終身刑
 の中にも幾つかの段階を設ける・・・。どれも結構なことではあるが、
 それはそれとして、死刑も存続させるべきなのである。

 確かに、冤罪による刑死は悲劇であり、「出来るだけ」避けるべきだと
 思われるが、だからといって死刑を廃止するというのはバランスに欠け
 認められない。長所と短所、得られるモノと失われるモノとの見究めが
 間違っているのである。リスクを恐れすぎていては、いけない。

 何の非も無い無辜の人間でも、病気や事故、天災、人災で亡くなるかも
 しれない。これらを全て排除するのは無理な話である。クルマに轢かれ
 死ぬことを避けるためには頑丈な家に閉じこもれば良いかもしれぬが、
 そんなのはバランスを欠いた「杞憂」である。

 犯罪抑止のため、「推定無罪」の原則を覆すことは、バランスに欠け、
 認められない。だが、「推定無罪」の原則の下、それでも「極刑を科す
 べき」と判断された者に対し、死刑を避けるのもバランスを欠く。

 死刑の持つ重大性、それに起因する抑止力、「理想郷」とは言えぬ現状
 とを考え合わせれば、死刑廃止はバランスに欠け、存続させるべきだと
 私は考える。



 いかがだったでしょうか。前半は、「機械的な(反射的な)反対」とも
 言えますし、後半は、あくまで主観、個人の考え方でしかありませんが
 小論文は上の「賛成」の場合の解答例のように「絶対的な事実」のみを
 書くものではありません。というか、「賛成」の場合の解答例にしても
 結論へ至る理由の一部が「歴史的事実」であるだけで、だからといって
 「絶対こうすべき」というものではありません。だからこそ「ハッキリ
 した正解が存在しない」のであり、「書き甲斐が在る(読み甲斐、採点
 し甲斐が在る)」と言えるわけです。

 まあ、「ツッコミ所を減らす」ということで言えば、非常に曖昧な概念
 である「バランス」を前面に出したのは如何なものかとも思いますが、
 「推定無罪」の原則を覆すところまで踏み込まなかったのは、文字通り
 「バランスを取った」と言えるかなとは思っております。



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