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2004年に夭折した小説家鷺沢萠。作品はいくつか映画化されました。いま彼女の作品を読み返して、サギサワ文学の魅力を、未熟ですが自分なりに探求してみます。

  • 最新号:2008-04-23
  • 発行周期:信頼できない不定期便
  • 読んでる人:13人
  • 創刊日:2007-12-20
  • Score!:-点
  • コメント数 : 0
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  • バックナンバー:全て公開
  • 発行者サイト:なし
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サギサワ作品を読み返す  第6号

発行日: 2008/2/14

鷺沢 萠(さぎさわ めぐむ 本名、松尾めぐみ)の文を初めて読んだものは、女子校生
が主人公の、とっても清純でさわやかな小説の断片だった。
以来、彼女の作品をしっかり読みたいと思うようになったが、2004年4月11日(1968年6
月20日生まれだから享年35歳)に逝去してしまった。
解説書を読むと作品を読む前からファンになってしまいそうな生い立ちである。
中学生の頃、父の会社が倒産。裕福な家庭から窮迫した家庭に陥り、お嬢さん学校の退
学を迫られた。
しかし、親を説得して、高校は自宅から近い都立雪谷高校に進学。カルチャーショック
に悩むも、アルバイトをして卒業。
このアルバイトがすごい。スナックに勤めていたというから都会の女子校生は怖いよ、
みたいな、凄味を感じる。
それは序の口。スナックを引けてからファミレスで小説を書き続ける。
これが、1987年の第64回文學界新人賞になっていくのだ。
しかも、上智大学に一発合格。いつ勉強したんだよ!
受賞の発表は大学生になってからなので「女子大生作家」と銘打たれたが、実質は女子
校生の間に書き上げられたものだったのだ。
その後、女子校生の芥川賞受賞などがあって、早熟デビューがやや影薄らいだが、先駆
けであり、選者たちの意識を考えれば、この時の「文學界新人賞」は芥川賞に匹敵した
ものだろう。これらのことを知るだけで、尊敬の念が沸き起こる。
しかも、鮮烈な文壇デビューをした後もすごい。
デビューまもなく、取材中に知った出生の秘密。自分が在日韓国人3世だったというこ
とを知り、韓国の延世大学校付属語学研究院に留学。以来、韓国づいている。
しかも! そんな活躍がマスコミを通じて流れて、鷺沢 萠の作品に早く手をつけた
い、と思っているうちに、彼女の逝去が報道されたのだ。心不全という報道だったが、
まもなく、自殺という真相がネットを通じて流されるようになった。
なぜだ! という無念さが沸き起こった。
さっさと作品に接触もしないでいうのはおこがましいが、現在を生きている作家の作品
を追いかけたいと思っていたのだ。次作品の発売を待ちわびるような、大昔していた体
験を鷺沢で再び味わいたいと思っていた。
と、同時に、不謹慎なことだが「これで彼女の全作品を読むことは可能になった」とい
う思いも出た。
短命で著作が少なければ、全作品に目を通すことの可能性が高くなる。
鷺沢は短命で謎を残したが、同時に、掴みやすくしてくれたのだ。


「川べりの道」

1987年「川べりの道」で文壇デビュー。
この作品、女子校生が執筆したとは思えない老成な文体で綴られている。

姉弟二人で生活している。月一、弟は愛人と暮らしている父のところに生活費を受け取
りにやらされている。二人の母は死んでしまっている。
こんな設定でドラマは繰り出されるが、いわれているほどそんなに暗くも重くもない気
がする。
愛人と暮らしている父のことを、姉ほど弟は嫌悪していない。それは男と女の感性の違
いから来るのだろう。姉と弟は異母関係だが、仲は悪くなく、姉は母親代わりに家事を
きちんとこなしており、弟の看病を当然のようにやっている。しかも、姉は高校を卒業
し働いており、決まった収入はある。
ただ、こんなフワフワした夢のない世界を女子校生が書くものかという観念からすれば
恐ろしく暗いものと感じられるのだろう。
姉の時子はたぶん二十歳を過ぎたばかりだろう。きっと現実のこの日本にも、このよう
なしっかりしたお姉さんは多くはないだろうが実在しているだろう。
作者の鷺沢もまたそんな女性ではないだろうか。
ただ、文壇デビューしてからはおくびにもそんなダサイ女性は登場させないように努め
たかもしれない。

主人公の吾郎は熱に浮かされて夢を見た。この夢は悟りのようなものだ。
夢の援用は「駆ける少年 1989年」「ユーロビートじゃ踊れない」(少年たちの終わら
ない夜 1989年)」にもある。特に「駆ける少年」では幻想的で、ヴィジュアルな描写
だ。本作品の夢の描写はこれと違ってヴィジュアルでも幻想的でもないが、感覚的な把
握を説得的にするための方法として彼女の体得した手法であろう。
ほとんどの人々は、悩みを調節して生きているのではなく、あきらめ、ただ生き長らえ
ているにすぎないのだ、という諦念に行き着くのだ。

出生の秘密を嗅ぎ取ろうとする年頃がある。
中学に上がる前などによく捉われるのが「自分は今の親の本当の子どもではないので
は」という疑いである。
そんな貴種流離譚のような思いは自立しようという成長期に襲われる一時的な妄想とし
て、やがて忘れられることが多い。しかし、いつまでも尾を引くこともある。事実、そ
うであったり、親の意識が影響させたり、統合失調症の始まりだったり。
鷺沢の場合は、親の意識が子である鷺沢に影響を与えていたようだ。親は「在日」であ
ることを娘に隠し通し、本人自らが見つけ出してしまうという事件がこの作品の発表の
後に起きる。
自分の親の正体がよくわからないまま現在まで来てしまっている自分。その基盤の不安
定さ。
じつはわたし自身、父親が何一つ自分のことを語らず、逆に母親が過剰なまでにわたし
に語り続け、おかげで自分の基盤(アイデンティティ)はまずますの安定を得ていると
いうことがある。

謎解きが壁にぶち当たったとき、ただただ、壁の前で時間を過ごすしかないのだ。
カフカの「審判」の冒頭の寓話を思い出す。
われわれは閉ざされた門の前で何一つ進展しないまま死を待つだけなのだ。


「かもめ家ものがたり」
これは軽く、しかも安心して楽しく読める物語である。
「かもめ家」という名称は前の住人の使用していた屋号をそのまま店とともに居ぬきで
使用したものである。それがドラマのきっかけになろうとは。
一人でその店を任せられ、店の二階に寝起きしているコウちゃんのところに女の子が転
がり込んできた。事情が分からないままいっしょに店を切り盛りしていくようだ。
しかし、あるときコウちゃんは気づいたのだ。店に残された前の住人の本棚の引き出し
に残されていた写真に幼い彼女が写っていたのだ。
お客の中に元学生運動活動家が登場しているのが、発表された時代を感じられて懐かし
い。
鷺沢が父の会社の倒産と同時にそれまで住んでいた豪邸を引き払うことになったと思う
が、懐かしんで元の家を見に行くという体験があったのだろうか。そんなことを連想さ
せられる。

 
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