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2009さわやかお受験のススメ<保護者編>

発行日時: 2008/4/4

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         「めぇでる教育研究所」発行
     2009さわやかお受験のススメ<保護者編>
           「情操教育歳時記」
         日本の年中行事とむかし話
     〜21世紀に活躍する子ども達の心を育てる〜
           2008年 4月4日 
              −22−

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第六章(2)桜について
             
日本を代表する花といえば、桜と梅、そして菊でしょうか。
しかし、梅と菊は、たえなる琴の音が流れ、何やら辺りをはばかり、ひっそり
と鑑賞しなければならない風情が立ち込めています。
梅は一輪、一輪が、きりっと咲き、「私は私、人は人」と独立自尊を誇示する
孤独な感じがしますし、大輪の菊は、「きちんと見ないと承知しませんことよ
!」と衣服を改め、居住まいを正して観賞しなければならない雰囲気がありま
す。
しかし、桜とくれば下戸も上戸も無礼講とばかりに、にぎやかに盛り上がる雰
囲気があります。
しかも、桜は、木、そのものが花の塊で、
「全員、集合して、楽しみなさい!」
と博愛の心を大らかに誇示しているような気がします。

しかし、本来、花見は、農耕と結びついた宗教的な儀式で、主役は人間ではあ
りませんでした。
昔の人は、田の神さまは、秋の収穫が終わると山へお帰りになり、春と共に、
再び山から下りて来られると信じていました。
ですから、田の神さまを、桜の花咲く木の下にお迎えして、酒や料理でおもて
なしをし、この年の豊作を祈願する儀式であり、主賓は、神さまであったわけ
です。

「さ」は「田の神」を、「くら」は「神座(神のいる場所)」を意味し、田の
神がとどまる常緑樹や花の咲く木を指し、その代表として「さくら」の木をあ
てたもので、そめい吉野ではなく山桜でした」
       (絵本百科 ぎょうじのゆらい 講談社 刊 P10)

平安時代の貴族には、花見は野山で神様を迎える儀式でしたが、武士の時代と
共に派手になり、例の秀吉の醍醐の花見のように、権力を示すための贅を尽く
した宴に変わり、やがて庶民にも浸透し、いつしか神さまは、主役の座から引
きずりおろされ、今では、はしなくも、夜桜のもとで酒盛りをし、カラオケを
楽しむ行事と成り下がりました。
といっても、昔もあまり変わらないようです。

かの兼好法師も徒然草で、「花はさかりに、月はくまなくをのみ見るものかは」
(百三十七段)と自然の観賞の仕方から人生観を語っていますが、その厳粛な
雰囲気の中で、宴会を開き、大騒ぎをしていたことを紹介しています。
もっとも、そういった人々の教養のなさをこき下ろしていますが、古来、何や
ら人々をその気にさせる花なのですね。

酔って人に迷惑をかける人たちは、無礼講をはきちがえた無礼者ですが、日本
人が桜や桃、梅を愛したのは、いずれの木にも宿る生命力を、分けていただこ
うと考えたに違いありません。
一種の自然信仰であり、外国で行われている森林浴と同じはないでしょうか。
それでしたら、ドンちゃん騒ぎは、桜にとっては迷惑な話です。
ご利益などあるはずが、いや、期待していないでしょうね。

しかし、桜の木は、にぎやかに盛り上がるだけではなく、人生を静かに、深く、
考察の場に導く花でもあります。
いきなり雰囲気は変わりますが、西行法師は、
  折りにあはば 散るもめでたし 山桜 めずるは花の 盛りのみかは
と詠っています。
出家なされた方ならではのお諭しでしょう。
これを真に受け、若い頃は、
「人生、幸せな時ばかりがあるわけないよ。闇夜もあるけど、日は、また、昇
る!」
などといきがっていたものでしたが、何やら勘違いしていたようです。
「人生は、プロセスが大切なのです。一日、一日が人生ですよ」とおっしゃっ
ているのでしょうね、などと何も気取ることはないのですが。

話は変わりますが、育児もプロセスが大切です。
月齢に応じて、一歩一歩、確かな歩みを見守りながら、大らかな気持ちで育て
るべきではないでしょうか。
そして、育児しながら「育自」するお母さんであってほしいですね。

  願はくば 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月の頃
これも西行法師の歌ですが、古来「花」といえば、奈良時代は「梅」のことで
したが、平安時代から「桜」になったようです。
俗界から逃れ、出家された中世の隠遁者が、かくも桜の花に心を寄せているの
ですから、古くから人々に愛されていたことがわかります。
 
古今和歌集から一首、好きなのです。

  ひさかたの 光のどけき 春の日に しず心なく 花の散るらむ
                              紀 友則 
 
この和歌を口ずさむたびに、宮城道雄氏の秀作「春の海」の調べを思い浮かべ、
桜の花の散る、日本ならではの詩情豊かな情景が浮かんできます。 
昭和七年に共演されたフランスのルネ・シュメーのヴァイオリンと箏(琴)の
二重奏ですが、世界に誇ってよい素晴らしい演奏だと思います。
音はよくありませんが、パソコンで検索すると聴けます。
宮城道雄氏は、広島県は福山市鞆ノ浦の出身だそうで、学生の頃に訪ねたこと
のある仙酔島から眺めた春の海が、印象に残っていました。
♪ターンタ タタタタタンー ターンタ タタタタタンー♪
曲想は、瀬戸内海の春の海なのですね。
その時は知らなかったのですが、最近、厳島に出かけたとき、バスガイドさん
から教えてもらい、「さもありなん」と納得しました。
しかし、バスガイドさんの中には、本当に物知りの方がいますね。

さらに、もう一首。
  春の海 ひねもすのたり のたりかな  与謝 蕪村

俳句が出たところで脱線します。
学生時代に読んだ雑誌の対談に出ていたと記憶しますが、五木寛之氏は、こう
おっしゃっていました。
「短歌はリズム、和歌はメロディー、物語はハーモニー」と。
横文字を漢字に置き換えると「律動・旋律・調和」となり、もう40数年前に
なりますが、今でも納得できます。
「さらばモスクワ愚連隊」を読んだ、当時の自称、文学青年であった私は、潔
く、作家の道を断念しました、冗談ですが。(笑い)
                                
よく耳にする、「花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」は、文豪、
井伏鱒二先生が、中国の詩人、于武稜の作「勧酒」を翻訳されたものです。

  勧君金屈巵(きみにすすむきんくつし)     
  満酌不須辞(まんしゃくじするべからず)     
  花発多風雨(はなひらいてふううおおく)     
  人生足別離(じんせいべつりにみつ)     
                     
これを井伏先生は、

  コノサカヅキヲ受ケテクレ     
  ドウゾナミナミツガシテオクレ     
  ハナニアラシノタトヘモアルゾ     
  「サヨナラ」ダケガ人生ダ     

と訳されています。
僭越ながら翻訳をはるかにこえた、名作だと思います。

ところで、桜は、日本の灌漑治水に大いに貢献した木でもあるのです。
かつて日本は農耕民族でしたから、水との関わりは、大変に深いものでした。
その水を運ぶ川は、普段は静かですが、豪雨などで水かさが増すと氾濫し、田
畑を水浸しにして、丹精こめて作った作物を駄目にしてしまいます。     
そこで昔の人々は、知恵を働かせ、堤防を作るときに、桜の木を植えたのです。
桜は、根を張り、しっかりと土を抱きます。
春になると花を咲かせます。
そこへ人々が花見に出かけてきます。
大勢の人が歩くと土手の地盤が固まり、桜の根もしっかりと張り、強い堤防が
できます。人間もかくありたいものです。
人望のある人のもとには、自然と人々が集まるものでしょう。
                         
そういえば、桜の名所は、お侍さんの勤め先である城と寺社、そして川に多い
ですね。
面白いことに、私たち日本人は、なぜか、桜の下に陣取り、宴会を開きがちで
すが、まったく縁のない所もあります。
学校の校庭ですね。
たびたびお世話になります樋口清之先生の監修された本に、桜について見過ご
せない話がありましたので、紹介しましょう。

日本人が桜を愛したのは桜の生命力を享受するという自然信仰からであったが、
これが明治時代から少しおかしなことになった。
それは、国学者平田学派が、明治政府の文教政策の中枢にいすわるとともに、
本居宣長の「敷島の大和心を人問はば朝日ににほふ山桜花」という桜を詠んだ
歌がもてはやされ、桜こそ日本精神の象徴であるといったとらえ方が生まれて
きたからである。
さらに、桜は日本精神の象徴から発展して、ぱっと散るその散りぎわが美しい
という美学が結びつけられ、いさぎよく散る軍人精神の象徴にされた。つまり、
死の美学に結びつけられたわけだ。このため陸軍を中心にさかんに兵舎に桜を
植えたのである。やがて軍国主義は学校にも及ぶようになり、校庭にも桜が植
えられるようになった。
関東では桜の開花と入学式が重なるので、桜が新学期の象徴となっている。も
ともとは、生命力の象徴だったのだから、現代の我々はそうした気持ちで校庭
の桜を眺めればいいのだが、一方で、学校の桜が軍国主義の死の美学から広ま
った歴史の皮肉な一コマも知っておいて損はないだろう。
(樋口清之の雑学おもしろ歳時記 樋口清之 監修 三笠書房 刊 P48)

「大和心」とか「大和魂」は、右翼的な考え方や国粋主義から生まれた言葉だ
と思っていましたが、違ったようです。
右翼、国家主義を表す言葉になってしまったのは、先生のご指摘のように、明
治以降の国家権力により利用されただけなんですね。
そういえば、大和心を表したものに、皆さんよくご存知の名作がありますね。

 いにしえの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂いぬるかな 伊勢 大輔

「大和心」は、こういうものではないでしょうか。
とにかく桜は、日本人にとって、何はともあれ、春に咲かなければ落ち着きま
せんし、承知できない花であることは確かです。
名優、渥美清のはまり役、「寅さんこと、車 寅次郎」の妹の名は、「さくら」
でなくてはおさまらないだろうなと思っているのは、私だけでしょうか。
山田洋次監督の笑顔が浮かんできそうです。

ところで、ワシントンのポトマック湖畔の桜は、大正元年に、時の東京市長で
あった尾崎行雄が、日米親善のために寄贈した染井吉野のほか10種、3千本
の苗木が成長したものだそうです。
そして、またしても驚きですが、私も、てっきりそうだと信じていましたが、
事実は違うのです。
有名な話ですから、皆さんも誤解していたのではないでしょうか。
こういうことだそうです。

このワシントンの地名は、初代大統領ジョージ・ワシントンからきている。
この人物が少年のときに、桜の木を切った過失をわびた正直さが立志伝の挿
話として有名だが、ポトマックの桜がその桜だと思い込んでいる人がかなり
いるそうだ」
    (新々ちょっといい話 戸板康二 著 文藝春秋 刊)
 
最後に、日本最古の桜は、どこにあるかご存知でしょうか。
何と推定樹齢千八百年から二千年にもなる古木で、しかも、今、なお、可憐な
薄紅色の花を咲かせているとなると、ちび丸子ちゃんではありませんが、目が
点になりますね。
その桜とは、山梨県の北杜市、甲斐駒ヶ岳のふもとに建つ日蓮宗の古寺、実相
寺の境内に根を張る「山高神代桜(やまだかじんだいざくら)」だそうで、日
本武尊(ヤマト タケルノミコト)が自ら植えたと伝えられています。
神話の時代から花を咲かせ続けている姥桜(罰が当たるかな!)、インターネ
ットで見ましたが、「どうも、これは、いや、はや……」と椎名誠風ですが、
襟を正さずにいられませんでした。
白一色の駒ヶ岳(標高2967m)もすばらしく、いつかたずねてみたいと思
っています。
なお、日本の三大桜は、福島県三春町の三春滝桜(樹齢千年)、岐阜県根尾村
の薄墨桜(樹齢千五百年)と山高神代桜で、黄門様の印籠と比べるのもなんで
すが、ただ、ひたすら、畏れ入るだけですね。

   世の中に絶えて桜のなかりせば 
          春の心はのどけからまし  在原 業平
日本に生まれ、この時代に生かされていることに、感謝せざるをえません。
四季折々の息吹を味わえる家庭から、親子の断絶はありえないと信じている一
人です。
何といっても大切なのは、「親子の絆」ではないでしょうか。
(次回は、「入園、入学を迎えたお母さん方へ」についてお話しましょう)

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