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黄土高原だより(NO.419)

発行日: 2007/6/26

 
  中国山西省大同市の黄土高原の農村での緑化協力活動のなかでの体験を
 書きつづっています。不定期の発行です。
 バックナンバーは緑の地球ネットワークのウエブページとブログにあります。

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  黄土高原だより(NO.419)
     (2007.06.26)
            高見 邦雄(緑の地球ネットワーク事務局長)

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  耕して天に至る

 前回、オケラについて書きました。
 いつもより、たくさん感想が返ってきました。
 会員総会のあとの懇親会で、松井浩さんに叱られました。
 万年昆虫少年です。
 「あなたはオケラを軽んじてるけど、なかなかすごいんです。
 あのヘラのような前脚を、外に押し広げる力は、ものすごく強い」
 その力で、土のなかに潜っていくんですね。
 そのようにいわれると、自分をオケラにたとえるなんて、
 僣越だったんでしょうね。
 なにかひとつ、人さまにないものを身につけるために、
 オケラを手本に、私もがんばらないといけません。

 黄土高原との最初の出会いは、飛行機の窓からのものでした。
 北京から西安に飛ぶときです。
 1970年代の初めですから、もう35年にもなります。
 最初は、なにか、わかりませんでした。
 山や丘陵に、ちょうど地図のように、等高線がはいっているんですよ。
 地上でみる光景と重ねて、段々畑であることがわかりました。

 そのころも、中国の農村に、けっこう行っているのです。
 最初は1971年のおおみそか、河北省の沙石峪村の農家に
 ホームステイしました。
 いま地図でたしかめると、唐山市遵化市にあります。
 石山を切り開き、麓から少しずつ土を運んできて、
 畑をつくっていました。
 当時はよく知られた、刻苦奮闘のモデル村でした。

 中国の年越しは、旧暦で祝うのですけど、
 私たちのために、餃子(ギョウザ)をつくってくれました。
 私たちも、包むのに参加したんですけど、
 年越しの餃子を破裂させると、破産するとかいうことで、
 えらく緊張したものです。
 水餃子だけを、どんぶりで一杯食べました。
 ほかにはありません。
 当時は、餃子が、大のごちそうだったんですね。

 「農業は大寨に学べ」といわれた山西省の大寨にも、
 そのころ何度もいきました。
 大寨の刻苦奮闘の意味が、それなりにわかったのは、
 大同の農村に通いだしてからです。
 あそこも、水土流失とのたたかいなんですね。
 局地集中的な、夏の豪雨によって、畑の土が浸食される。
 なんかと、それを軽減しようと、
 傾斜していた畑を、水平な段々畑に、基盤整備します。
 そのために、徹底的に、労力をつぎこむわけです。
 しかし、せっかくつくった段々畑が、あぜごと、
 雨で流されてしまう。
 あきらめないで、くふうを加えて、それをまたつくりなおす。
 その繰り返しです。
 そのような映画も、みせてもらいました。

 私は、その刻苦奮闘ぶりに、すっかり感動しました。
 ほんとに偉大な人たちだと思ったのです。
 大寨生産大隊の副主任だった、賈来恒さんから、
 いろいろと紹介を受けました。
 彼は、激しい労働で腰を傷めたので、
 座るのより、立っているほうがラクだといって、
 いつも立ったまま、説明してくれました。

 同じ時期に、大寨を訪れたひとりの友人が、
 帰国後、私に話したことがあります。
 「大寨では小鳥の声をきけなかった」というのです。
 恥ずかしいことに、私は当時、
 彼がなにをいっているのか、理解できませんでした。
 しかし、そのことばは、記憶から消えないで、
 ずっと残っていました。
 彼が指摘したのは、大寨には森林がない、ということです。
 土壌浸食を止めるのを、土木工事でやろうとしたんですね。

 「農業は大寨に学べ」は、毛沢東の呼びかけでした。
 傾斜した畑を、段々畑につくりかえる作業は、
 多くの農村で展開されたようです。
 なかには行き過ぎもあったようで、
 東北の平原では、もとは平らな畑を、
 わざわざ段々畑につくりかえるという、
 笑い話のようなことも、あったそうです。

 その後、私は日本国内で、環境問題に関心をもつようになりました。
 同じ光景でも、みる人の目線しだいで、
 まったくちがうものに、みえるものです。
 緑化協力を計画して、1992年に大同の農村を訪れたとき、
 かつて英雄的な刻苦奮闘の成果にみえた、耕して天に至る段々畑が、
 自然の大破壊と、貧困の象徴に思えてならなかったのです。
 
 とにかく、徹底してますからね。
 人の手の届くところは、どこも畑になっています。
 政府は、傾斜角25度以上の急斜面は、
 農耕を禁じているそうですけど、すでに畑になり、
 それに頼って生きている人がいるいじょう、
 簡単にやめさせることはできません。
 大同では、渾源から霊丘にいく途中が、すごいですね。
 北岳恒山から、望めるところです。

 ここは、かぶっている黄土が、薄いんです。
 そのために、段々畑に改造することができません。
 急角度に、傾いたままの畑です。
 なにかにつかまっていないと、転げ落ちそう。
 長時間、同じ方向をむいて、作業していたら、
 左右の脚の長さが、ちがってこないか、心配なくらい。
 
 そういう畑のかなりの部分が、「退耕還林」の対象になりました。
 耕作をやめて、森林に還す、というわけです。
 政策的、意識的にそのようなことがなされるのは、
 中国の歴史のなかでも、画期的なことでしょう。
 理念からいえば、諸手をあげて、賛成したいところです。
 もともと、人間がはいるべきでないところまで、
 深入りしていますからね。
 そういうところに、森林が再生すれば、
 全体としての環境が、改善されるでしょう。

 そのような村では、最近、急速に過疎化がすすんでいます。
 若者が村を離れ、年寄りだけが残るばあいが多いのです。
 ですから、退耕還林にもあまり抵抗がなく、
 食糧や金銭による補償が、十分かつ確実であれば、
 賛成する農民も少なくないと思います。
 これからの推移を、見守りたいものです。

 6月28日から7月9日まで、私は中国です。
 今回は、JICAと中国林業局が共同実施する
 日中林業生態研修センターのプロジェクトで、
 太原、銀川、内蒙古のアラシャン、ウルムチなどを回ります。
 大同で緑化協力をスタートさせてから、
 私は、大同と往復の北京以外に、行ったことがありません。
 他のプロジェクトをみるのも、はじめてのようなもの。

 いろいろみて、見聞を広めるのがいいと、
 以前もすすめられたんですけど、
 へそ曲がりの私のことですから、問題があります。
 人と同じことをやりたくない、人のやっていることをやりたくない、
 そういう思いが、強烈なんですね。
 ほかのすぐれたプロジェクトをみれば、
 そのぶん、自分のやれることが、狭まります。
 それが、こまる。
 個人としてはそれでよくても、組織の人間としてそれでいいんですか、と
 人さまから、叱られることもあったんですけど、
 「いいわけないんですね、損をしているでしょう」と答えながらも、
 やっぱり、そうするしかなかった。
 このたびは、どういう結果になるんでしょう?
 
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