葉桜の季節(週刊 自転車ツーキニスト150)
発行日時: 2003/12/12----------------------------------------------------------
【週刊 自転車ツーキニスト】"Weekly Bicycle Tourkinist"
どうやら数え間違いだったようで、今回が150号
■感謝感激であります
いやどうも、前回メルマガの反響として色々な人から「こういう名前はどう?」というのをいただきまして、未来の父・ヒキタは感謝感激しております。予定日までもうあと2週間。うひょーだ。
コトが私でありますから、輪太郎(サイクル野郎だなぁ)とか、環(エコだ)とかが、わりと重なっていたのですが、傑作なのが、「智"」でした。智に点々(読点)。これで「サドル」と読む。私の名前が「智」だからして、いや、こりゃまさに傑作。座布団一枚もってこい。マジで心がグラグラ揺れました。
ただ、江東区役所を無事に通過する可能性がほぼゼロなのと、私の智はホントは「さとる」でなく「さとし」と読むがゆえに「サド師」と読まれる可能性の方が高いことで、涙を飲んで不採用。申し訳ないっす。私の名前巡りはまだまだ続くのだ。もう顔を見て決めようと思っとる。
そういえば「壽限無」というのもあったな。パイポパイポのシューリンガンか。これフルネームで申請したら、区役所通るのかなあ? いわば伝統的な名前ではあるんで、いつぞやの「悪魔ちゃん」と同じような扱いは受けないと思うけど。
■井の頭線の下には
渋谷駅前の風景が変わって久しいわけだが、随分キレイになったよね。ハチ公口の方。
首都圏の話で申し訳ないんだけど、かつてはハチ公口って随分汚かったと思いませんか? 駅前すぐのビルも正面にデカポスターがベタベタ汚く貼ってあってあるばかりだったし、公衆電話ボックス群も交番前も何だか薄汚かった。渋谷っていう「若者の街」イメージとは裏腹にね。
中でも汚かったのが、ハチ公から交差点を渡って向こう側、井の頭線の出入り口、現在の「渋谷マークシティ」がある方だ。
そこが一番キレイキレイになっちゃった。
おー、見違えたよ。ちなみに、このメルマガを出している"melma!"の会社もこのマークシティの中にあったりするのだ。
■かつての井の頭
で、その井の頭線のあるビルが汚かったころの話。
私が大学生だったとき、ビルの1階には「陣馬そば」という立ち食いのラーメン屋があった。そばとうどんとラーメンとを売る、いわば普通の立ち食い蕎麦屋なんだけど、このラーメンが旨くてね。誰もが頼むのは必ずラーメン。250円だったと思う。そばやうどんは全く売れない。売れ筋はひたすらラーメンだった。
およそ20年前だ。あの頃の渋谷をご存じの方なら、覚えてないだろうか。円形のカウンターの中にオッちゃんが4、5人いて、そのまわりをたくさんのサラリーマンや学生が取りまいているという立ち食い屋。
地味で薄らボウッとした何か「戦後」を引きずってるような印象の店だったよ。メニューも筆文字の手書きだったし。時は既に80年代だったのに。まあ、しかし、だいたいが井の頭線ビル1階自体がトンデモなく汚くてね。壁なんかもすべて薄汚れてて、中途半端な立ち食い寿司屋と、穴蔵のようなお好み焼き屋があって、50円ゲーセンがあって、んで、この「陣馬そば」だ。
旨かった。
シンプルな醤油鶏ガラ東京風ラーメンだったんだけど、何か後を引く激しい旨味とエグ味があった。そこを訪れる幾層にも取りまいたサラリーマン諸氏はその旨味と、それに比しての安さを知っていた。そもそも「待つ」立ち食い蕎麦屋なんてここ以外に聞いたことがないよ。
だから、井の頭線ビルの第一期工事に伴って、あっという間に姿を消してしまったのが意外だったのだ。あんなに繁盛していたのに。陣馬そばは、ある日突然なくなってしまい、二度とそこには復活しなかった。陣馬そばがなくなったときには、私は既に社会人となっていたワケなのだが、何かその欠落感が拭えなかったよ。
残念だ。だが、あの味はどこに行ったのだろう。あのスープのダシをとり、絶妙の配分で化学調味料をぶち込んでいた、オヤジは(見たことはないけれど)、今もどこかで同じ味のラーメンを作っているのだろうか。
実は「陣馬そば」自体は京王線の系列立ち食いそば店の名前なので、看板は京王線の駅に行けば残ってる。だけど、何度か食べてみたけど、あのラーメンの味とは全く別物だった。
誰か知らないだろうか。井の頭線の渋谷駅下にあった「陣馬そば」のラーメンの味の行方を。
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【ヒキタ解釈のオススメ本(たまに非オススメあり)】
「葉桜の季節に君を思うということ」歌野晶午著(文藝春秋)
年末恒例の「このミステリーがすごい!」の国内ミステリー1位がこの作品だ。2004年版。
さっそく読んでみたわけだが、やっぱり「まあまあ面白い」よね。読んで損はない。だが1位としてはかなり小粒だと思ってしまうのだ。
たとえば92年、93年頃の「砂のクロニクル」は出るわ、「火車」は最高だわ、高村は「マークス」だわ、「ホワイトアウト」にもぶっ飛ぶわ、とランキングの上位を占める作品が、いずれも傑作大作、読めば溜息、という状況とはやはり少々変わってきてると思う。ちなみに去年の1位「半落ち」も、かなりの傑作ではあるのだが(私は横山ストーリーのファンであります)、やはり小粒感が否めない。
1つには「火車」の頃から、ちょうど10年が経ち(私27歳→37歳)私の「感受性」のようなものが、鈍磨しているからなのかもしれない。それは確かにあると思う。だが同時にここ3,4年というもの日本ミステリーに「冬の到来」を感じるのも確かなんだな。
さて、本作。
主人公の成瀬は自称「何でもやってやろう屋」だ。ガードマンから探偵、その他、色んなことをやりつつ、とある霊感商売の犯罪を暴くことを依頼される。
現在、過去、そしてまた現在、と、場面がゴロゴロ変わり、めまぐるしい筈なのに、全く混乱なく読めるのは、やはり著者の巧さだろう。そして、最後に待っている大どんでん返しは、これまでの色んなミステリーの中でも類例がなく(ないと思う)、ちょっと驚く。で、もう一度読み返してみると、そのラストのために、色んな伏線が引っ張ってあり、矛盾しそうなところはうまく誤魔化してあり、で、うまく作ったなぁと思う。
そうそう、このミステリーらしからぬタイトルも、読み終わった後なら「なるほどー!」だ。
歌野晶午は、88年に島田荘司に見いだされてデビューした。また渋谷に「陣馬そば」があった頃だ。長いこと「地味なミステリー作家」という地位に甘んじていたけれど、これで一気にスターダム。今後の活躍を期待したい。
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