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ホンにご無沙汰さんで……(週刊 自転車ツーキニスト51)

発行日時: 2001/5/11

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【週刊 自転車ツーキニスト】"Weekly Bicycle Tourkinist"
 ご無沙汰してしまいましたの51号

■誰でもそうでしょうけど……

 どうも。ご無沙汰してるしてるしてるぅ、メルマガを出さなくてはっ、週刊という触れ込みはどうなっとるんだ、初めのウチはほぼ日刊だったじゃないかっ、などと思っているうちに日々の自転車通勤、そろそろ汗の心配をしなくては、の季節になってしまいました。いかがお過ごしですか? このままでいくと、そのウチ秋風が吹き出すかもしれません。少年老い易く学なり難し。時間はまことにあっという間に経ってしまいますな。
 さて、汗です。
 この季節、厳冬期と違って、走り出しが快適なのはイイのですけど、10キロもペダルを漕ぐと、ヘルメットから覿面に汗がしたたり落ちるようになりますね。最近は私、はやくもTシャツ一枚状態になってます。んで、会社に着いたらシャツごと着替えるの。
 汗は自転車通勤にとって、どうにも永遠の懸案事項です。
 色々な処理アイディアも今のところコレが決定打、というヤツに出会ったことがありません。もしも「コレだ」がありましたら、私にもお知らせ下さい。

 さて私は最近よく思うんですけど、去年に較べても明らかに増えたと思いません? 自転車ツーキニスト。
 今日は日本橋の近くで、黄色いプジョーに乗った女性ツーキニストと併走してしまいましたよ。イイね、若い女性の派手な色味は。黄色いプジョー、実に似合ってた。
 ステキだっ(竹中直人風)。

 さて上記、タイトルはどういう意味かといいますと、「地雷特番」が終了したのはイイのですが、新部署に配属になりまして、慣れない職場なもので右往左往しつつ、慣れようとしつつ、時間を過ごしておりますと、なかなか時間がとれなくて、HP関連のことなどがおろそかになっているワケです。
 今週末からだんだん慣れ出すことでしょう。
 頑張っていきます。久しぶりの新入生ですものね。

■アンケートのご協力ありがとうございました。

 およそ300の回答をいただきました。
 色々な人がいらっしゃって、ヒキタ感激です。集計が大変なのですが、近く公開いたします。

■「銭湯の時間」番外編

 版元(朝日出版社)から在庫が消えてしまって、ご迷惑をかけています。割合、出足好調らしくてコレまたヒキタ大感激です。ありがとうございます。

 お礼と言ってはなんですが(全然お礼になっていないかも)、収録できなかった章をここにて載せさせていただきます。
 お読みになった方は分かると思いますが「神田川(アナタはもう忘れたかしら♪)の銭湯を探す旅」には実は続きがあったのです。ご笑覧下さい。

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神田川の銭湯はどこに 2
       ……杉並区永福町「湯あみランド永福」

「今週も行くわよ。私、分かったの。早稲田は間違い。本当は杉並区よ、杉並区。歌に出て来るみたいな貧乏なカップルが都心に住んでるワケないじゃない」
 またしても週末に妻が言う。例の神田川だ。先週は自分で「早稲田だ」と断言してたのに。
「いい、これ見て」
 妻がバサリと広げたのは詳細なる東京地図。赤いサインペンで何やら蛇行線が書き込んである。
「これが神田川よ。今まで知らなかったけど、神田川って井の頭公園からスタートするのね。そして杉並、中野を抜けて、早稲田やお茶の水に至るってワケ」
 そして地図の一点を指差して、こう言った。
「どう、この辺り、いかにもって感じがするじゃない」
「何がいかにもなんだよ」
「ほらほら、よく見て。細い道がくねくねと入り組んでて、明大前駅も近くにあるし、あの辺りって三畳一間がありそうって感じ。それっぽいじゃない」
 何がそれっぽいんだか。
 妻の言うことはいつもながらに、よく分からないのだが、特に反対する理由もないので、行ってみることにした。妻が指差した一点は京王線「下高井戸」。
 でも、京王線には乗らないのだ。我々は東急新玉川線の三軒茶屋駅で降りた。
「なんで?」
 キャロットタワーなる高層テナントビルの下で私は妻に聞く。
「へへへ、私、乗ってみたかったのよ。世田谷線。前にテレビでやってたの。チンチン電車」
 キャロットタワーのぐるりをめぐると、なるほど、深緑色の二両電車を発見した。東急世田谷線だ。三軒茶屋と下高井戸を結ぶ東京、山の手の最後のチンチン電車。レトロだ。
「見てコレ。一日券。コレ買えば、一日中乗り放題よ。ヨロレイヒ。コレもテレビに出てたの。割り箸も割り放題。ヨロレイヒ」
 ヨロレイヒは焼き肉食べ放題の歌だそうだ。テレビで大評判だという。妻はすぐにテレビに影響されるのだ。テレビマンの私としては泣きそうにありがたい客ではあるが、コレでは、おバカになり放題なのだ。ヨロレイヒ。
 しかし、その一日乗り放題券が、一人三〇〇円。これは安いと言わざるを得ない。でも、その理由も乗ったらすぐに分かる。一駅一駅の間隔が、えらく短い。
 乗ったらすぐに駅。電車と言うよりバスだ。三軒茶屋から三つ目の松陰神社前(駅名までバス停風)まで五分。ちょっと乗ったらすぐに駅。それも飛び降りてもケガさえしないであろうスピードだ。我々はそこで降りる。
 吉田松陰をまつる松陰神社は、まずまず閑静で落ち着いた神社であった。その静けさの中、幕末の巨人、吉田松陰について、私は妻にとくとくと知識を披露する。
「吉田松陰はだね、あまり知られていないことだが、山口県の萩だけでなく、ここ東京の新宿でも塾を開いていたのだよ」
「へえ」
「吉田松陰新宿塾開く」
「?」
「さらに吉田松陰はだね、いつか海外に日本人が雄飛することを夢見て、シンドバッドの本ばかりいつも開いていたと言うんだ」
「シンドバッド?」
「吉田松陰シンドバット開く」
「??」
「また、薩長の動きを苦々しく思う時の大老、井伊直弼は何とか吉田松陰の居所をつかもうとしていたんだが、松陰は意外に身が軽く、もう少しというところで逃げられてばかりいた。
 幕府側は、拙速では捕まらないと、慎重に追うことにしたんだ」
「ねえ、何それ? いったい」
「吉田松陰慎重に追う」
「???」
 ヨシダを抜いて、音読してみれば分かります。前の二つが(C)ツぼいのりおで、ラストの一つはオリヂナル。オリヂナルは少しコギャルテイストを入れてみました。
 妻は三分後に意味を理解すると、死にそうに大笑いして、しかる後に「バッカじゃない?」と私を罵倒した。
 まったく、これでは夫婦揃ってバカになり放題なのだ。ヨロレイヒ。
 でも、松陰先生に申し訳ないと思いながらも、私はなおも吉田松陰について考え続けていた。シングルは使えないかとか、新玉川線は駄目かな、とかね。
 すると、しばらくして妻が突然言う。
「ねえ、こういうのは? 吉田松陰は念願の外国人と、やっと会うことが出来たんだけど、その人がたまたま歌手だったんで、一緒に歌うくらいしかできなかったのね、それで……。
 吉田松陰、シンガーと口開く」
 瞬間、境内を突風が吹き抜け、ケヤキの木がゴウッと啼いた。
 嗚呼、高杉も久坂も伊藤も草葉の陰で悲憤慷慨せよ。非業の死を遂げた先生の墓前にして、平成のバカ夫婦どもは、もはやそんなことしか考えることが出来なくなってしまったのだ。

 さて乗り放題ヨロレイヒなんで、今度は上町駅で世田谷線を降りる。
 代官屋敷跡などを巡ってから、歩いて北上すると豪徳寺。これまたご立派な寺院だ。さすがに小田急線の駅の名前になるだけあって、大きい。敷地内の墓地には江戸時代に建ったお墓が林立する。
 苔むした墓にツクツクボウシの声が降りかかる。
 さらに歩いていくごとに、私は何だかイヤな予感がしてきた。街並みが、前回に引き続き、またしても高級なのだ。うーむ三畳一間などありそうにもない高級住宅地。
「神田川まだ?」
 私は妻に聞く。
「まだよ。下高井戸の駅の先」
「今度も、ちょっと違わない?」
「んー、まだ分かんないでしょ」
「そうだけどさ。でもこの辺の家って大きいね」
「ねえ、少し弱いんだけど、こういうのどう? 歌舞伎の演技やっててね、吉田松陰、真に迫る」
「……」

 山下駅でみたびチンチン電車に乗ると、終点、下高井戸までは、すぐだった。意外ににぎやかな商店街を抜け、甲州街道を渡ると、神田川が目の前に現れてきた。そして、その神田川にも、あれあれ、やはり街路樹が適当に茂り、舗道が沿い、川には大小の鯉が泳いでる。
「前回と同じだね」
「そうね」
 川の上にはそろそろ秋になりかかった風が通り過ぎる。所々に古い樹木を残し、武蔵野の面影をほんの少しだけ漂わせつつ、河畔にはただ一軒、独身者向けのアパートが建っていた。
 でも、それは恐らくバブル時代に建ったであろう「ワンルームマンション」ってヤツだ。普請にも結構お金がかかってる。アーリーアメリカン調に造られた意匠。そこに「メゾン何とか」と金色に輝くプレートが貼られている。
 現代版の「三畳一間の小さな下宿」と言えば言えなくもないが、家賃恐らく七万円以上。うーん、やっぱり何かが違うよなあ。
 まあいい。このワンルームを起点としよう。これがかつて古かったとき、ここに歌の二人は住んでいたのだ。ここから赤い手拭いをマフラーにして、二人で洗面器を持って歩いたんだ。な、妻よ。
「……」
 歩いて七、八分。永福町の駅を越え、行列で有名なラーメン屋、大勝軒の横を通り過ぎると、本日の銭湯「湯あみランド永福」はあった。
 わはは、一目で分かる。歌の二人が来たのは、完璧にココじゃない。
「湯あみランド永福」は実に個性的な外観を持っていたからだ。
 一言でいうと古代ギリシャ風。恐らくは伝説の風呂、カラカラ浴場に範を求めたのであろう。エンタシス風の柱が立ち、石造り風のタイルが張られている。
 中に入っても、その様子は変わらない。あちこちにピカピカと鏡が張り巡らされ、待合いロビーの柱もエンタシスだ。改装の際に相当に気合いが入ったことは想像に難くない。しかし、しかしだ。
 そのロビーは、どう見てもソープランドのそれに見えた。
 お風呂場に西洋風のゴージャス感を取り込むと、それは必ずそうなるのだね。私は笑いをこらえながら、それでも、そんなことは妻には言わず、「じゃあ一時間後ね」と言った。
「うん……」
 浴室に入っても、湯あみランドは気合いが入りまくっていた。
 壁には天使の絵(巨大)が古代ギリシャ風(?)に描かれ、浴槽も色々。洗い場は複雑な形に折れ曲がり(わざとだ)、カランが効果的に配置されている。
 色々な泡風呂とサウナは現代の銭湯の文法通りだが、露天風呂もあるし、森林浴風呂と称する個室がユニークだ。浴槽の上から微細な霧が降り、フィトンチッドが充満しているのだそうだ。これが意外に気持ちがいい。
 浴室内に大画面のテレビがあって、長居していても退屈しない配慮がなされているし、清潔。ふと気づけば、人々の浴室内の滞在時間が長い。老若合わせて人も多い。つまりは繁盛している。
 意余って、ロビーがソープランド風になってしまったのはご愛敬だが、居心地は間違いなく良く、私は少なからず感動した。
 この線で中華楊貴妃風、アメリカ西部風、フランスアールデコ風なんてのを造っていけば、そんなのが出来るかどうかはさておき、結構、繁盛するかも知れない。
 満足しつつ、ロビーに出てくると、妻は先に上がっていた。
 そして、私を見つけると、すぐにこう言った。
「ねえねえ、シンプルイズベストって感じで、こういうのどう? 吉田松陰、信じる」
「はあ?」
「汁よ、汁。お味噌汁の汁」
「……」
 彼女は今の今に至るまで、そればかりを考えていたのだ。道理で無口になっていた筈だ。
「難は今までの中でも、最ッ高に下品ってことよね」
 この話に品の上下などあるものか。
 我々の本日のコースは間違っていた。我々は神田川に着いたとき、神田川なんて見ちゃあいなかった。アタマの中はただひたすら吉田松陰。
 あの駅に降りたときから、間違いなく我々は吉田松陰の霊に取り憑かれていたのだ。


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