ここは地の果てアルジェリア 技術移転奮闘記 |
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│ フランス語マスターの道 │
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語学をいかにしてマスターするか、どうやったらうまくなるかという話は、
語学の学習法や参考書にごまんと書いてあり、そんなことを改めてここに述べ
る気はない。
とくにフランス語については、多くの女性の憧れと羨望の眼差しを受け、少し
話せるだけで特別な扱いを受け、ちやほやされる。
しかしフランス語を話していて、女性からそんな憧れの眼差しで見られる、
といったことは私には全くなかった。私自身フランス語は憧れでも何でもなく、
単に仕事の道具であった。
初めてフランス語圏に行ったのが、フランス人が嫌う、日本でも地の果てと
思っているアルジェリアだったからだ。
憧れを抱けなかったもう1つの大きな原因は、彼等の顔かたちや格好からして、
アラン・ドロンやカトリーヌ・ドヌーブを連想させるものは何もなかったと
いったこともある。
ここで彼らが怒鳴り立てるフランス語は、映画にみられる歌うような、あるい
は小鳥が囁くような愛の言葉とは無縁のものである。
それに加え、毎朝毎晩多くのアルジェリア人家政婦達が、廊下といわず宿舎の
内外といわず、大声を張り上げ罵りあう言葉が、アラブ語混じりのフランス語
であり、そこには命令や、自分の欲求を押し通す手段の言語としてしか感じら
れない。
ともあれ、ここはフランス語圏。まあ彼等と仕事するには、知っておくに越し
たことはないと思い、日本で入門書を買い求めてきた。朝晩10分か15分ず
つ練習する。
毎日1つ2つの言い回しをおぼえては翌日使ってみる、といったことの繰り返
しであった。このとき同じ現場にいた日本人の数は2、300人、いやそれ以
上いたろうか。
そこでは通訳以外でフランス語をまともに喋るのはまずいない。
通訳は20人くらいいた。どうしてそれが分かるのかといえば、フランス語に
興味のある者はだいたい通訳連中と付き合い、通訳達はかたまっているからよ
く目立つ。
私の同僚や先輩もアルジェリア勤務が最初から予定されていた者は、会社でフ
ランス語の授業を受けていた。月日が経ち、だんだん分かってきたが、語学は
センスと情熱が必要である。
3ヶ月も経たないうちに、私のフランス語の方がずっとアルジェリア人に通じ
ているし、同僚や先輩のフランス語は全く何の役にも立っていないことに気づ
いた。しかもそのレベルは止まったままである。
彼らはフランス語の必要性も感じなければ、興味もない。確かに現場事務所や
工事現場に行っても、フランス語は得に必要ない。必要なときは、「あれ」
「これ」「よし」「だめ」「コピー」といった程度で済む。
加えて日本で習うフランス語は、日本人にはほとんど馴染みのない文法で、
非常にうるさい。
動詞の活用が1人称、2人称、3人称の単数、複数と有り、時制だけでも、
現在形から半過去、大過去、単純過去、複合過去、未来ともうそれでちんぷん
かんぷんである。
加えて直接法、条件法、接続法と、はじめにそれを聞かされれば9割方の人間
は間違いなく逃げていく。
しかも日本ではどこでも初めにやるレッスンが、イラ、エラ、ヌザボンといっ
た、お経の呪文に近い言葉の繰り返しである。これで大半が興味を失い脱落し
てしまう。
次にやっかいなのは数字である。アン、ドゥ、トロワくらいは誰でも言える。
それでも20まで憶えられればひと山越す。
それを過ぎると30、40、50、60と順調に行くが、69から70に移っ
たとき、60+10、60+11・・・となって少し戸惑う。うまくそれを越
えたとしても、80になるとここで残りの大半が脱落する。
脱落する人は、80をなんと「4の20」といった言い方になると考える。
実際、4と20の単語を続ければ、それがフランス語の80である。
だから4の20+10が90、4の20+11が91ときて、99となると
混乱は絶頂をきわめる。
4の20+19のとなって、それまでの複雑怪奇な数え方が一気に爆発し、
脳味噌は膨張し、言語中枢と算術の神経回路が錯綜して呆然となり、本を閉じ
て布団をかぶり、寝るのみとなるのである。
だから、彼らの勘定は引き算でなく、「足し算」という言葉が使われるのでは
ないかと思える。
レストランの勘定で、例えば115フランだったとする。500フラン札を出
すと、給仕はまず偽札でないかどうか透かしを見る。次に5フラン硬貨を出し
て、120という。10フラン硬貨を足していき、130、140、150、
そして50フラン札で200としたら、後は100フラン札で300、400
500となって勘定が済む。状況によって初めの5フランか、15フランを勘
定の皿に残し、おつりを受け取る。これが慣れるまで、いや慣れてもまだるっ
こしい。(つまり支払い金額を引いた残りの額を足していく)
ゆえにフランス語マスターの道は、ここまで述べたようなことをやらないに
尽きる。
もう一つよく言われるのに、その国の異性と仲良くなることが上達の早道だと
いうことがあるが、これには異論がある。
友達になって色々話をしたり理解を深めようとか、口説こうとかやっているう
ちは語学にも熱が入るが、それを過ぎあるいは一足飛びに、男と女の関係に
なってくると、言葉は要らない。
お互いが肌の温もりやボディーランゲージに没頭した日には、フランス語の甘
いささやきもとたんに不要となり、色あせてしまう。よって語学堪能者で美男
美女は少ないと言ったら怒られるか。
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