ここは地の果てアルジェリア 技術移転奮闘記 |
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│ フランスの食卓 1│
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日本人ビジネスマンの苦手な中に横飯がある。かなり外国語に堪能なビジネ
スマンでも、テーブルスピーチから始まって、食事中に延々と続く、多岐に渡
る話題を楽しみ、ジョークからウィットに富んだ小話に座が盛り上がる文化を
満喫するなどは至難の業である。
その段階ではもはや語学力の問題ではない。知識と教養、時事への関心といえ
ば何かしら国際評論家でもなければ太刀打ちできないように思われるが、彼ら
の会話を聞くと実にくだらない事を討論している場合が多い。
ただし、まじめなオピニオン(意見)は1つ2つ持っていればそれに越したこ
とはない。逆にいろんな話題にいちいち口を挟む者がいるが、かえって嫌みで
ある。話題は次々と出てころころ変わっていく。
初めの頃はついていくのが精一杯だった。
不思議と仕事の話はほとんどしない。せいぜい受け持つクラスの生徒がどうし
たとか、彼らのお祈りの時間こんな事があったとか、元請け会社の日本人担当
者達の言行や、一般的な日本人について話題になるときがある。
仲間の一人が私に尋ねた。
「日本人はノーと言わないと聞いたが、ではノーの時はなんて言うんだい」
「そんなときは『難しい』というのさ、その言い方にもいろんなニュアンスが
あって、難しいがやってみようというのもあるし、重苦しそうに
『それはー、ちょっと難しいですねえー』とか言えば
十中八、九“ノー”だと思えばいい」
「日本人がノーと言わないのは言えないからでなく、そのような躾をされて
いるからだし、直接的な断りは生活風習に合わないからだと思う。
はっきり断るのは失礼だとされているが、このため外国では誤解を受ける。
特に女性はね」
しかし外国に長く住み、彼らのそうした文化を十分に理解している日本人が、
わざとノーの代わりに、『それはちょっと難しいなー』と言うようなら、
かなりの高等戦術にちがいない。可能性を含んだ断りの返事である。
それから話は飛び、イスラム教の戒律や、彼らの食生活、羊の丸焼きやその残
りを使ってどんな料理にすれば美味しいとか、その言葉尻をとらえてアルジェ
リアで使われているフランス語で、フランス人は絶対使わない言い回しがある
とか、果ては比較言語学まで話題となるが、皆きちんとした研究、学問に基づ
いているわけでもなく、独断と偏見による思い込みで話は流れていく。
「いやそうじゃないだろう」と誰かが反論すると、
「俺はその意見には納得しない、これはこうだ」と、とにかく聞き流さない。
ある話題が議論され、発言しなかったらそれに賛成又は認めたものと解釈され
る。だからそうでない者は、たとえ判断の材料がなくても、納得していない意
志表示が必要である。
夜8時頃から始まって、夜中1時2時まで続く。体力も必要である。料理と酒
の話題は必ずでる。そうなるとソースやスパイスの使い方、それら原産地と、
できた料理がどの酒に合うか侃々諤々の議論となる。
フランス料理と中華料理はいつも比較の対象にされる。それにしばしば日本料
理が話題となる。
「日本ではなんと魚を生で食べ、海草まで食べるんだってね」
と誰かがからかうように、少々軽蔑の意味を込めて私に言う。
今更何を言う田舎者、と軽蔑したいが、逆にフランス人の管理職クラス、知識
層は日本料理の良さを十分知っており、見た目の鮮やかさ、味の繊細さ、素材
の味を生かした料理法、そして健康的であることを述べ、今のような質問に対
しては逆に冷ややかな眼差しで逆襲する。
頃合を見て、私は柔らかく切り出す。
「そこが文化の違いだよ。フランス人は兎を食べる。エスカルゴを食べる。
中国人だって蛇や犬や猿を食うが、自分等が食わない物を食うからといって
驚いたり、軽蔑したりしていては相互理解にならない」
「あんたらフランス人は極端にアメリカ人を嫌っているが、それは彼らが
彼らの価値観を皆に押しつけるからだろう、そうじゃないのか」
「うん、そうだそうだ」
「だったら刺身や海草を美味しそうに食べる連中を変だと決めつけるのは
同じ事じゃないか」
「うーん、そうかもしれんな」
追求はそこでやめて話題を変える。
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