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西洋思想の散歩道 No.143

発行日: 2005/11/12

◆◇◆「思想の世界」Vol.2◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
No.143                           2005.11.12
         西洋思想の散歩道
                   -A Promenade of Western Thought-    
                               K. Wiseman 著
                           Assisted by Mai O. 
◆◇Presented by K`s Community◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



読者の皆さんへ: 

 霜月も半ばとなり、初冬の気配が濃くなりましたが、お変わりありませんか。

ずいぶん以前は、枯れ葉が落ちた木々の梢が冬空に枝をぴんと伸ばし、その枯
れ枝の中に脈々と命の流れを保っている姿がとても好きで、しばし冬空を仰い
だものですが、最近は日溜まりがいいなぁ、と思ったりします。

 以前、養護施設の関係で「秋月」という山間の城下町を訪ねたことがありま
す。秋月は、1203年(鎌倉時代の初め)に、源頼家から秋月種雄(たねか
つ)が領地を拝領し、以後400年間、秋月氏の領地だったところです。秋月
氏は古処山に山城を築き、室町時代から戦国乱世の頃には、周囲の領主と合戦
を繰り返して領地を拡張し、勢力を伸ばしていきました。しかし、豊臣秀吉の
天下統一に抵抗した秋月氏は、秋月の領地を没収され、日向国高鍋(宮崎)に
移されてしまいました。

その後、江戸時代には、黒田長興(ながおき)が秋月5万石の領主となり、秋
月に城を築き城下町をつくりました。城に近い下野鳥・今小路(いまこうじ)
・浦泉一帯には身分の高い武士階級の大きな屋敷が建てられ、身分の低い武士
たちは、組ごとにまとまって長屋などに住み、町家が立ち並び、近隣の上秋月
と安川地区は農村として秋月城下町と一体的に発展しました。

黒田氏の秋月藩は、その後、約250年続き、江戸時代の中頃からは、学問や
芸術が盛んになり、著名な学者・医者・画家などが現れました。黒田氏は、よ
く秋月を統治し、学問を奨励し、産業を発達させ、葛や川茸などの名産品を産
みだしました。秋月の葛は特に有名で、今日でも生産を続けています。僕も、
冷やしたくず餅をとてもおいしくいただきました。秋月は、高い教養をもつ人
々が静かに暮らす平和な山間の城下町だったのです。

 しかし、明治になって秋月藩がなくなると、「秋月千軒の賑わい」とうたわ
れた城下町は、人口が急速に減り家屋敷も壊されて衰退していきました。特に
幕末の勤王思想の流れから明治政府に反乱を起こした熊本の「神風連の乱」に
呼応して、1876年、旧秋月藩士約400名が「秋月党」を結成し、「秋月の乱」
を起こし、秋月は血に染まってしまいました。「独立」の気運の高い風土だっ
たのです。

 僕は、今は中学校になっている秋月城址に立った時、今でも、質素な生活の
中で、思想と志を高くもって「自主独立」の気運を掲げた人々の気配を感じま
した。現在の秋月の町並みは「筑前の小京都」と言われ、今も城下町としての
特徴が残り、静かなたたずまいの中にあります。草木染めのネクタイを1本買
い求め、鮎料理を食べて帰ってきました。

 この晩秋の日、もう一度行こうかな、と思っています。
 では、今号は「考えること・思考の科学」の(2)です。
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第5章 知識と言語
          =================================
         1.考えること・思考の科学(2)
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 私たちは、よく、「考える」ということを重要なことだと言います。多くの
ことがマニュアル化されて、マニュアル(指示書)がなければ動けなくなって
いる人々が増えて、自分で考えて創意工夫することができない現象が生まれて
いますので、「考える」ということが大変強調されます。

例えば、教育の分野では、「指示されることではなく、自分で考えること」を
重要な教育目標に掲げます。大学生や院生でさえもマニュアルがなければレポ
ート一つ書けないし、マニュアルを覚えることを学問だと錯覚している学者も
いますから、「自分で考える」ことは、極めて重要なことです。

 しかし、「考える、考える」といっても、いったい何を考えるのでしょうか。
考えることの究極は何でしょうか。ただ考えるだけならサルでも考えています。

 この問題に根本的な示唆を与えたのがソクラテスでした。ソクラテスは、す
べてのことがらから「普遍的真理に至るように考えること」こそが、思考の究
極の目標であることを明瞭に認識したのです。そして、ひとたび普遍的真理を
見出したら、その真理に従って歩むべきことを主張しました。

そのために、彼が見出した思考の方法は、まず第一に、すべての誤った観念を
排除することでした。あらゆる事柄だけではなく、その事柄の前提になってい
ることさえ「疑ってみる」ということでした。そして、第二に、よく観察をす
るということでした。そして、観察したことからすべての人にとって普遍的で
疑問の余地のない論拠を見出すという作業をすること。これが「考える」こと
の中身だったのです。

 たとえば、卑近な例で申し訳ないのですが、「お金がなければ生きていけな
い。人が生きるのにお金を必要とする」という考えが合ったとします(事実、
ありますが)。まず、本当にそうか、と疑ってみるのです。そして、人の生活
や生涯、社会の中でのお金の役割などをよく観察してみるのです。

そうしてみると、「お金」というものが、ただ、人が生きるのに必要なものを
購入する社会的道具に過ぎないことがわかってきますので、「お金がなければ」
ではなくて、実は、「食べ物や衣類、住むところなどがなければ」ということ
になってきます。

では、人はなぜ食べ物を必要とするのでしょうか。それをよく考えてみると、
それが人の生命活動や行為のために必要だということがわかります。では、人
の生命活動とは何でしょうか。行為とは何でしょうか。

こうして次々と考えていくことによって、ついには、「人間が生きるとは何か」
ということに到達します。

ソクラテスは、こういうことをしつこいくらいに尋ね、質問し、まわりの人々
が言う言説や主張、思想やものの考え方を注意深く検討し、定義を確立する作
業にとりかかったのです。そして、その定義に従って、他の原理を打ち立てる
という方法をとりました。こうしてソクラテスは、帰納と演繹の論理法を自然
に打ち立て、思考過程の道筋をつけたのです。

 近代的思考の祖となったデカルトが、このソクラテスの方法を再登場させて、
近代思想の幕開けを作ったのではないかと、僕は思っていますが、ともあれ、
ソクラテスは「考えること」を「普遍的真理に至る道」として位置づけました。

 プラトンは、このソクラテスの思考方法を受け継ぎ、独自の認識論を提示し
ました。認識論というのは、簡単に言えば、ソクラテスの言う「観察と再考」
に他なりません。「認識」を意味する英語の「recognition」という言葉は、
「再び考えてみる」というほどの意味です。

 プラトンにとっても感覚的な知覚は真の認識をもたらすものではありません
でした。たとえば、私たちは木々の葉の色を「緑」だと知覚します。しかし、
色弱の人にとって(色弱と呼ぶのは抵抗がありますが)、その色は「茶」に見
えます。では、木々の葉の色は、真実には何でしょうか。光の屈折率が違う他
の天体では、また、異なった色に見えるでしょう。従って、木々の葉の色を
「緑」だと知覚する感覚は、木々の葉についての真の認識ではないのです。

知覚するものを越えてイデア(本質)に到達しなければ、真の認識には至らな
い、とプラトンは考えたのです。そして、そのイデアは、さまざまな知覚の経
験からもたらされるものでも、経験に依存するものでもないと言います。イデ
アは「魂」に植えつけられて誕生してくるものだ、と言うのです。

カントの言葉を借りて説明すれば、イデアは「先験的に(ア・プリオリに)」
人間の認識の能力の中にあり、人が、そのイデアを思い起こし、その意識の正
面を見て再考する時に、真の認識が得られると主張しました。それを「感覚的
認識」と異ならせて、「概念的認識」と呼びます。事物の本質の認識は、「感
覚的・経験的認識」ではなく、「概念的認識」によってもたらされるというの
が、プラトンの主張だったのです。

 プラトンの弟子であり、プラトンとは異なって現実認識を科学的に行ったア
リストテレスは、それをさらに発展させました。

 アリストテレスの「思考方法と認識論・論理法」は、近代から現代にも大き
な影響を及ぼしていますので、これは次回取り上げることにしましょう。

   ============================================================

☆先日、動物園に出かけゴリラや象などを見てきました。動物園は、生きるこ
 との悲しみが充ちているようで、あまり好きではありませんが、食べて、眠
 り、繁殖をする存在そのものに大きな価値があることを、大あくびをするラ
 イオンを眺めつつ再考させられました。コーヒーショップの日溜まりで、僕
 も負けずに大あくびをして帰ってきました。

☆最近、図書館から司馬遼太郎の本を借りてきて読みあさっています。文体は
 剛で、展開も荒いのですが、とにかくおもしろいですね。小説はおもしろい
 のがなによりです。耽読しています。

☆寒くなってきました。近所では風邪も流行っています。ご自愛のうちにお過
 ごしください。ではまた。

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発行者   :K. Wiseman
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関連HP「思想の世界」  http://homepage.mac.com/berdyaev/
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