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西洋思想の散歩道 No.142

発行日: 2005/10/12

◆◇◆「思想の世界」Vol.2◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
No.142                           2005.09.17
         西洋思想の散歩道
                   -A Promenade of Western Thought-    
                               K. Wiseman 著
                           Assisted by Mai O. 
◆◇Presented by K`s Community◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



読者の皆さんへ: 

 今年は9月になっても夏日が続き、世界の各地でハリケーンや台風、洪水
のニュースが絶えず、地球規模での天変地異を実感しまし、国政の是非を問
う衆議院議員選挙が行われて騒がしい日々となりました。そして、もう10月
の声を聞いています。お変わりありませんか。

天変地異を含めた最近のこうした状況を見ていますと、なんだか19世紀初頭
の西欧や日本の状況に似ているなぁ、という感慨を持っています。状況はい
つもメリーゴーランドかもしれませんね。

 しかし、何はともあれ、季節は秋です。秋はいいですねぇ。大好きなコス
モスの花も、もうやがては咲くでしょう。かつて清少納言は「秋は夕暮れ」
と語り、秋の日の夕暮れの素晴らしさをたたえましたが、秋は、本当に夕暮
れが美しいですね。

秋の黄昏時に夕陽の移り変わりを楽しみつつ、ゆっくりと散策をしたり、夜
半の月を眺めたり、日本人は生活を楽しむ術をたくさんもっていました。

 現代人は、生活に追われて、それを楽しむ術を失っているのかも知れない
と、改めて、ススキがなびく河原を散策しつつ思うのです。

 そう言えば、「たのしむ(楽しむ)」という言葉は「らく(楽)」という
漢字を使いますが、「楽しいことは楽である」と言えば、これは、生き方を
示す真理であるようにも思えます。いろいろなことで悪戦苦闘の生活でも、
その一つ一つを「楽しむ」精神をもっていると、苦闘は楽になり、人生は豊
かになりますね。

 良寛が文政11年(1828年)の大地震の被害者に宛てた手紙の一節に「災難
に逢時節には 災難に逢がよく候 死ぬ時節には 死ぬがよく候 是ハこれ
災難をのがるゝ妙法にて候」というのがありますが、苦労の多い中で、身を
天に任せ、「楽しんで生きる」ことを知っていた良寛らしい言葉だと思いま
す。
 「楽しむ」は、また「愉しむ」とも書きます。「愉」は、「心をよしとす
る」と言うほどの意味をもつ言葉でしょうか。たとえそれがどんな環境や境
遇であれ、その中で「心をよし」として生きることができる人こそが、真実、
「愉しい人」であるに違いありません。

 ところで、このメールマガジンは、最初の発行が2000年の9月でしたので、
もう5年も継続していることになりました。前号で、ようやく第4章「人間
と教育」を一応終え、今号から第5章「知識と言語」に入ります。書いてい
ます自分でも、まったく気の長い話だと思いますし、この5年間では、個人
的な変遷や人間関係の変化もずいぶん起こりました。それでも、まだ、最初
の試みが終わりませんので、もう少し続けようと思っています。思想の営為
というのはそんなものだろうと思います。愉しみつつ書きたいと思っていま
す。

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第5章 知識と言語
          =================================
         1.考えること・思考の科学(1)
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 17世紀の天才パスカルは「人間は考える葦である」と『パンセ』の中で語り
ましたが、まことに人間は考えるサルです。多くの動物は(時にはある種の植
物も)見たり、聞いたり、感じたりし、自分の周りの環境から感覚的刺激を受
け、その感覚に従って行動します。その感覚的刺激から行動に移るまでに、動
植物に「思考」というものがあるのかどうかは興味のあることですが、人間は
感覚と行動の間に「思考」というものを働かせます。

それだけではなく、その感覚さえも「思考」に影響されます。同じものを見て
も、それを美しいと感じる人もおれば、何も感じない人もいますし、反対に汚
いと感じる人もいます。その感覚はその人の世界観(考え)に基づくからです。

人間は、なぜ、考えるのでしょうか。人間の『思考」はどこからもたらされる
のでしょうか。

脳科学や生化学は、この問題についての科学的な分析を試みていますが、この
問題は、科学的な問題であると同時に、いや、それ以上に、極めて哲学的な課
題です。なぜなら、科学は現象の分析をしますが、現象の存在の根拠を問うの
は哲学だからです。

 古代ギリシャの哲学者たちは、この人間の「思考」、人間が「考える」とい
うことの本質を「イデア」という言葉で表しましたが、彼らは、この「イデア」
という言葉を使うことによって、「人間が考える」ということの謎に一つの解
答を見出しました。

彼らは、イデアは人間を取り囲んでいる神や神々の本質からもたらされるもの
で、神や神々が人間には「善のイデア」を与え、邪悪なものには「悪のイデア」
を与え、そのように人間の思考は、すべてを統制している神や神々の力から来
たものであると考えたのです。思考は聖なる行為だったのです。

ヘラクレイトスは、理性(考える力)は、感覚の知覚作用よりもはるかに確実
な知識の源泉であり、理性的生活こそが、もっとも神々に近い最高の生活であ
る、と考えていたようです。彼にとって理性とは、人間の中で神性がほとばし
ったもので、理性を欠いている人間には与えられない方法で真実を見る力とな
るものでした。

 このような「考えること」や「思考」についてのイデアとしての思想は、そ
の後長く近代に至るまで西洋思想の中で支配的でした。

 初期ギリシャ哲学者たちの中で、「思考」や「認識」に関して特筆すべき思
想をもっていたのは、エンペドクレスでしょう。

 エンペドクレスは、「愛」についても興味ある考察をしていますが、彼は、
人間が世界(宇宙)を構成している元素についての知識を持っているというこ
とは、人間の中にも世界(宇宙)を構成している元素と同じものがあるという
ことに違いないと考えていました。人間が「水」を知っているのは、水の粒子
が水から飛び出て目に届き、目の中に備わっている「水」の粒子に出会うから
だというのです。水の粒子と水の粒子の接触によって人間は「水」を認識する
ことができる、という論理を展開したのです。世界(宇宙)を認識することが
できるのは、水と同じように、世界を構成する粒子を人間があらかじめもって
いるからです。

 このエンペドクレスの認識論は、後に、18世紀の終わりにI.カントが、認
識の「先験性(ア・プリオリ)」という概念で展開しますが、「人間は知って
いるものを知る」のであり、知らないものは知覚も認識もしないのです。

 原子論を展開したデモクリトスにとって感覚的な体験は曖昧な認識に過ぎま
せんでした。真の認識は感覚的な知覚を超越したところにあり、感覚的な知覚
が終わったところから始まると考えていました。彼の認識論は、「禅の悟り」
を彷彿させます。

 いずれにしても、初期ギリシャ哲学者たちは、人間は本質的に思考のイデア
をもち、それによってまわりの世界を認識するという能力をもつ、と考えてい
たのです。

 極めて個人主義的で実存的な思考パターンをもっていたソフィストたちは、
人間の認識力の普遍性ではなく、認識が全く個人に立脚するものであることを
主張しました。つまり、物事を認識することができる人とできない人がおり、
その人のイデアはその人の真理であり、別の人のイデアは別の人にとっての真
理であり、すべての人に通用する客観的な絶対の真理などありえないと考えま
した。すべての尺度は、あくまでも個人に属することがらなのです。

彼らはそれによって普遍的な知識の可能性を否定しましたが、個人が物事を認
識し、思考することを注意深く検証する必要を唱え、「思考の科学」を発達さ
せたのです。

 この「思考の科学」の必要性をもっとも深く感じ、しかも、ソフィストたち
と異なって、普遍的真理の到達を試みたのがソクラテスでした。


 次回、そのソクラテスの認識論と思考の科学について少し触れてみたいと思
います。


   ============================================================

☆今号は、その序文を9月に書き始めたのですが、所用が重なって、書き終わ
 ったのが10月の半ばになってしまい、発行がずいぶん間延びしてしまいまし
 た。どうしたのかと心配してくださるメールもたくさんいただきましたが、
 例によって、ぼちぼちと散歩をしている次第です。

☆秋は何かと気ぜわしいのですが、庭の大銀杏が少し黄色くなり、夕暮れの茜
 空に慰められますね。来年の4月に転居の話があり、どうしようかな、と思
 ったりしています。

☆先日、幼稚園の運動会に招かれて出かけてきました。にこにこして走る小さ
 な子どもたちを見て、こちらも本当に嬉しくなりました。「競うのではなく
 自分の力を出す運動会」でした。

☆大好きなコスモスが咲き始めました。いい季節です。秋を楽しんで、よい日
 々を。ではまた。

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発行者   :K. Wiseman
E−メール :wiseman@hamal.freemail.ne.jp
関連HP「思想の世界」  http://homepage.mac.com/berdyaev/
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