インターネットを拠点に「自由な言論」を求め、ニッポン社会における「公共性」の可能性と限界を考える極私的メールマガジン。
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【PUBLICITY】1763:読者の物語〜西成の暴動
発行日: 2008/7/15
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1763 2008/07/15火■■
▼「合理的な無知」という言葉は、以前目にしたことがあった
と記憶しているのだが、そのときは「んー。ま、そりゃそうだ
よね」と思っただけだった。
ちょっと前に、『メディアが変える政治』(東京大学出版会/
サミュエル・ポプキン、蒲島郁夫、谷口将紀編)という本の、
ジェームス・ハミルトン(たぶんJames T. Hamilton
Charles S. Sydnor Professor of Public Policy, Economics,
and Political Science)
という人の書いた第2章「売れるニュース」を読んで、いろい
ろと考えさせられた。それによると、「合理的無知」という言
葉は、アンソニー・ダウンズ(『民主主義の経済理論』)とい
う人が考えたらしいね。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
個々人の決定が選挙結果に与える影響は微小であるので、政治
について知ることから得られる期待利得は小さいものとなる。
自動車のモデルについて多くを知ることは良いクルマを手に入
れる助けになるが、地球温暖化や民主・共和両党の大統領候補
について勉強したとしても、良い政策や良い候補指名には繋が
らないであろう。
一人が政治に対して与える影響は大変小さいので、知るための
コストを考慮すると、個人は合理的な判断として無知のままで
いることを選択するのである。
p53
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
▼言われてみれば実に当たり前のことなんだが、まさにその通
りで、人は知ってか知らずか、何に興味を覚え、何に興味を覚
えないのかを、経済的に判断しているわけだ。
この「合理的無知」は、個々人についての文脈で使われるが、
マスメディア人も個々人なわけで、この論理が働かないはずは
ないだろう、と思う。合理的無知が、最近のキーワードだ。
マスメディアとのつきあい方、とは、合理的無知とのつきあい
方、なのかも知れない。このテーマはまた今度。
▼次の投稿を読んでぼくは、「合理的無知」について考えさせ
られた。しかし、この合理的無知は、報じる側だけのものなの
だろうか。適宜編集して紹介。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Subject: 投稿・西成の暴動
Date: Tue, 17 Jun 2008 02:49:43
竹山さん。
お久しぶりです。
▼ご存知かと思いますが、大阪では、6月13日から今日(1
6日)で四日間連続、通称「釜ヶ崎」にある西成署前で、警察
と労働者との衝突が続いていて、多数の逮捕者と、また警察側
にも負傷者が出ています。
現場では連日放水車による放水や消化剤の散布、それに対抗す
る投石などが行われて騒然としているようです。
こういうことになった詳しいいきさつは、『「野宿者襲撃」論
』の著者としても有名な「野宿者ネットワーク」の生田武志さ
んのホームページに詳しく書かれています。
http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/thesedays13.htm
(6月14日〜29日の日記)
▼ここでは、報道に関して、問題点を二点書きます。
ひとつは、発端となった署内での暴行事件について、警察側の
発表を鵜呑みにしたような報道しかしていないということ。
産経、読売、朝日の報道は、以下のようです。
−−−−−−
産経/悪夢再び? 200人が騒動 あいりん地区 空き瓶や
自転車投げる2008.6.13 23:19
大阪市西成区萩之茶屋の西成署前で13日夕方から夜にかけて
、飲食店でのトラブルが発端で労働者ら約200人が集まり、
空き瓶や自転車を投げつけるなどの騒ぎになった。
労働者の一部は、署の東側に待機していた機動隊ともみあった
。警官数人が負傷した。
同署によると、12日に近くの飲食店でトラブルを起こした労
働者を署で事情聴取。始末書を書かせて帰したが、13日にな
って労働組合の幹部とともに抗議に訪れた。
労組のメンバーらが「暴力警官を許すな」と書かれたビラを配
るなどしたところ、労働者らが集まり始めたという。
−−−−−−
−−−−−−
讀賣/あいりん労働者ら200人が警察署前で騒動、6人逮捕
13日午後5時30分ごろ、大阪市西成区萩之茶屋の大阪府警
西成署の前に、あいりん地区の日雇い労働者や「釜ヶ崎地域合
同労働組合」のメンバーら約200人が集まり、「西成署の悪
行を許すな」などと叫んで騒いだ。
同8時30分ごろから、空き瓶や自転車、石などを投げつけ始
めたため、府警の機動隊数百人が出動。フェンスを越えて署に
立ち入った労働者6人を建造物侵入、1人を公務執行妨害の現
行犯で、それぞれ逮捕した。
この騒動で、警察官4人が瓶の破片で頭などに軽傷を負ったほ
か、2、3人が軽いけが。
同署によると、12日午後、近くの飲食店でトラブルを起こし
た無職男性(54)から事情を聞いたところ、13日夕方にな
って男性が労組幹部とともに同署を訪れ、「署員に暴力を振る
われた」と抗議したという。同署は「暴力の事実はない」とし
ている。
(2008年6月14日01時04分 読売新聞)
−−−−−−
−−−−−−
朝日/大阪・西成署前、300人騒動 「警察の暴行に抗議」
2008年6月14日1時43分
13日夜、大阪市西成区萩之茶屋2丁目の大阪府警西成署の前
に「あいりん地区」(釜ケ崎)の労働者ら約300人が集まり
、「警官による暴行を許さない」などと抗議して、同署に向け
て空き瓶を投げつけるなどの騒ぎを起こした。
署は入り口を封鎖する一方、府警から機動隊員100人以上が
出動。この騒ぎで8人を建造物侵入や公務執行妨害容疑で現行
犯逮捕した。大阪市消防局によると、警察官を含め7人が負傷
した。
同署などによると、労働者を支援する釜ケ崎地域合同労働組合
が「労働者が警官に暴行を受けた」とする趣旨のビラを配り、
同日午後5時半に署の前に集まって抗議するよう呼びかけたと
いう。署の周囲に集まった労働者らの一部が空き瓶を署に向か
って投げたり、機動隊員らに自転車を投げつけたりした。角材
や鉄棒で警察官を殴ったり、駐車中の車に放火しようとしたり
する者もいた。
同労組幹部は「12日午後、男性が同区内の飲食店員の態度に
腹を立てて抗議したところ、駆けつけた西成署員に署内で暴行
を受けた」と主張。西成署は「取り調べの際、男性に暴行を加
えた事実はない」としている。
−−−−−−
▼生田さんの文章には、
『パトカーに乗せられた労働者は西成警察署の個室に連れて行
かれ、イスに座らされ、4人の刑事に変わるがわる顔を殴られ
、紐で首を絞められ足蹴にされ、気が遠くなるとスプレーをか
がされ、気がつくとまた暴行。挙句の果ては両足持たれて逆さ
吊りにされた、という。』
という記述がありますが、新聞社は、この被害を受けた側に取
材はしたのでしょうか?
加害が疑われている側、しかも警察当局の言い分だけを記事に
する態度は、まったく納得がいきません。
▼もうひとつ、問題だと思うことは、そもそもこの連日の衝突
が、新聞やテレビではほとんど満足に報道されてないというこ
とです。
一日目以後は、大阪でもほとんど報道がなくなりました。
これだけの逮捕者が出る衝突が連日続き、群集が放水車で放水
を浴びるという事態になれば、ふつうは大きな注目を集めそう
なものですが、地震等の大ニュースがあったので仕方ない面は
あるとはいえ、出来事自体が報道の上から抹殺されているかの
ような印象を受けます。
ぼくはそこに、西成の日雇い労働者に対する世間全般の差別的
な眼差しを感じるのですが、その他に、こういう事柄が拡大し
ているという事実を知らせたくないという意図が働いているの
かもしれません。
ともかく、はっきりした理由は分からんのですが、報道される
ことが異様に少なく、またその報じられ方も歪んでいると感じ
られます。
社会の表面に、暴力を伴った大きな亀裂が露呈し始めているの
に、それがなぜか真っ当に報じられない。
そういう気味悪さを覚えます。
▼今回の暴動の根底にあるのは、生田さんが上の文の中に書い
ておられたような、警察の積年の差別的な対処・管理や腐敗に
あるのだろうと思います。
一言で言えば、この地域の労働者は、人間として扱われてこな
かったということです。
それはもちろん、突き詰めれば、警察だけでなく、その制度の
上に乗っかってきた社会全体の問題でしょう。
その旧来の枠組みに、警察もマスコミも、世間の大部分も、ま
だしがみつこうとしていて、それが虐げられてきた人たちの怒
りの爆発を見ないままにしよう、蓋をしてしまおうという態度
につながってるのではないかと思います。
こうした態度が、やがて、歪んだ凶暴な形での、個人的・集団
的な暴力の噴出につながることを、とりわけ怖れます。
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▼さらに詳しい情報について、送っていただいた。
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Subject: Re: 投稿・西成の暴動
Date: Thu, 19 Jun 2008 15:12:27
ネット上の情報ということになってしまいますが、ご紹介した
生田さんのサイト以外では、暴動が起きている所の近所で「コ
コルーム」というスペース・飲食店を経営しておられる詩人の
上田假奈代さんという方が、ご自分のブログで状況報告や感想
を書いておられます。
http://booksarch.exblog.jp/
とくに以下の記事では、たまたま西成に取材に来ていたイタリ
ア国営放送が撮った現場の映像が見られます。
http://booksarch.exblog.jp/7221955/
ぼくはイタリア語は分からないのですが、怒ってる側の人たち
の声を直接聞いているところが、日本のマスコミとは全然違う
と思いました。
▼それから、野宿者支援の左翼系の運動団体のブログである「
釜パト活動日誌」にも、いくつか関連記事が載っています。(
14日、15日、19日分)
かなり詳しいものもあります。
http://kamapat.seesaa.net/
また、映像に限ってはですが、MSN産経ニュースが、いくつか
生々しい写真を載せています。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080616/crm0806160000000-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/photos/affairs/crime/080615/crm0806150009000-p1.htm
▼テレビですが、ぼくが知ってるなかでは、唯一、朝日放送の
『ムーブ』という平日午後の番組で、生田武志さんのコメント
を含めて詳しく紹介してました。ゲストの鈴木邦男が、とくに
労働者に好意的な(警察に批判的な)コメントをしていて、横
で勝谷誠彦がビビッてたのが面白かったです。
鈴木はまさに、「こういう行動がちゃんと行われてれば、秋葉
原の事件のようなものは起きない」(大意)というようなこと
を言ってました。
この映像は、「ユーチューブ」で探したのですが、見つかりま
せんでした。
また、何か目に付くか、思いついたらお知らせします。
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▼大変にありがとうございます。イタリアの放送は、いい内容
ですね。カットバックが効いている。鈴木邦男は、いま最も熟
達した文章表現者ではないだろうか。彼の文章、大好きですよ。
▼西成は「明日のない町」だ、と言う人がいる。「暴動」を一
時的に取り上げても、西成全体を、いや、西成と、西成に自分
たちの歪みを押しつけた西成以外の住人との関係を(そういう
関係はあちこちに遍在していよう)、根っこから問い直すこと
はできない、そう諦念している記者もいる。
しかし、何故、こんなに大きな、しかも「絵」になる「暴動」
を、マスメディアは大々的に取り上げなかったのか。ぼくはそ
う思う。そもそも、格差格差とテーマにあげるのなら、騒ぐ何
十年も前からニッポン社会の構造的貧困の象徴である西成や山
谷などのスラム街を、何故正面から取り上げないのか。
もしかしたら、ニッポンにスラム街があるということを、【ぼ
くたちは】認めたくないのかも知れない。マスメディアは、そ
の意を汲んで異物排除してくれたのかも知れない。
freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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