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【PUBLICITY】1760:ブッシュ大統領弾劾告発書(2:解説篇の上)

発行日: 2008/7/10

 
 
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1760 2008/07/10木■■


▼ブッシュ大統領弾劾告発書の解説篇ですね。上下の上。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Date: Thu, 03 Jul 2008 14:18:52
Subject: [TUP-Bulletin] 速報771号 
ブッシュ大統領弾劾告発書(2)解説 

大統領と紳士と弾劾のゆくえ

安濃一樹 著

2008年7月3日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2008年6月9日、午後7時12分、デニス・クシニッチ議
員が下院の議場に立った【1】。ナンシー・ペローシ議長は、
議員たちに静粛を求めてから、下院の形式に従って、クシニッ
チ議員に問いかける。儀式の始まりを告げるような台詞だった。

──何を目的として、オハイオ州のジェントルマンは立ち上が
ったのか。

クシニッチは答える。自分は下院の特権を問う意思を示すため
に立ったと。そして決議案の内容を述べようとしたが、まだ議
場は静まっていない。話し声が続いていた。議場を出入りする
議員たちもいる。オハイオからやってきた紳士は議長に言った。

──The House is not in order.

「静粛を促してほしい」という意味だった。しかし、この言葉
は「いま下院は異常な状態にあり機能していない」という意味
にも取れる。

ブッシュ政権は、過去7年間に、国際法に反して他国を侵略し
、戦争犯罪を重ねてきた。アメリカ合衆国憲法を踏みにじり、
民主主義を蹂躙し、市民の権利を奪い、気に入らない法律は無
効にした。アメリカ合衆国憲法には、大統領をはじめとする政
府高官を弾劾する規定が明記されている【2】。それは建国の
父たちが共和制の危うさを知っていたからではないか。

下院は弾劾の権限を専有する【3】。それは下院の自由な選択
ではなく、気ままに使える権利でもない。まして政治抗争の手
段ではない。弾劾は憲法と国民に対する義務である。ブッシュ
政権の犯罪行為を告発できない下院は機能していない。

──The House is not in order.

クシニッチ議員の声を受けて、ペローシ議長は小槌を9回うち
鳴らした。

議員が発議した決議案は、「ジョージ・W・ブッシュ大統領弾
劾告発書」と題され、大統領に35条項の嫌疑をかけている【
4】。34年前にニクソン大統領を辞任に追いやった弾劾告発
書には3条項しかなかった【5】。クリントン大統領に対して
も4条項に過ぎない【6】。この35条項は、ブッシュ政権に
よる犯罪がいかに広大なものかを明らかにしている。

ただ文書を提出すればいいという勧めを断って、クシニッチは
全65ページ、3万2000語もの決議案を読み上げると主張
した。大統領の罪状を告げるためには4時間半にわたって訴え
る必要があった。こうして議員は米議会の時間と空間を占拠し
、歴史的な告発を議事録に記した。身体をはった実力行使であ
る。

6月11日、弾劾決議案について下院本会議で採決が行われ、
賛成251(民主党227、共和党24)反対166で可決さ
れた。ただし、これで弾劾告発書が上院へ送られ、上院を裁判
所とし上院議員を陪審員とする弾劾裁判が開かれるわけではな
い。

下院は、トーマス・ジェファーソンが起草したマニュアル「議
会慣例と下院ルール」を代々継承してきた。この下院ルールに
よると、弾劾告発書が提出された場合、告発に値する証拠の有
無を調査する目的で、委員会に審議を委ねることができる。1
1日の採決は、弾劾告発書の審議を下院司法委員会に委託する
ことの可否を問うものだった。

なぜ24人もの共和党議員が賛成票を投じたのか。司法委員会
が何も審議をせず、聴聞会も開かないと見越しているからであ
る。事実、2007年11月にクシニッチが提出したチェイニ
ー副大統領弾劾告発書【7】は一度も審議されたことがなく、
司法委員会オフィスのどこかに埋もれたままだ。民主党は全員
が賛成にまわったが、本気で弾劾を求める議員はクシニッチを
含めて数人しかいない。



ブッシュ政権を弾劾する機会は何度もあった。最初の機会は3
年前に訪れている。

2005年5月1日、英サンデー・タイムズ紙が、イギリス政
府の機密文書を公開した【8】。首相官邸がロンドンのダウニ
ング街にあることから、文書は「ダウニングストリート・メモ
」(DSM) と呼ばれるようになる。DSM は、イラク侵略と占領が
ブッシュとブレアの両政権によって共謀された巨大な犯罪であ
ることを証明していた。

アメリカ市民は、いくつものグループを組織して、ブッシュ大
統領が弾劾に問われる犯罪を行ったかどうかを調査する独立審
議会を設けるよう議会に訴えはじめた。活動グループが集めた
署名簿には54万人の名前が連ねられた。

同年6月16日、下院司法委員会のジョン・コンヤーズ委員(
民主党)の呼びかけによって、メモに関する非公式の公聴会が
開かれる。このとき、シンディ・シーハンも証人として招かれ
て、ブッシュとチェイニーの弾劾を訴えている。彼女はこの2
カ月後に「反戦マム」と呼ばれ、消えかけていた反戦運動の火
を燃え立たせることになる【9】。

さらに、2005年12月17日、裁判所の許可を得ずに国民
の電話と電子メールを監視してきたことをブッシュ自身が認め
た【10】。国際情報監視法(FISA)に違反して、アメリカ国内に
通じる国際電話と電子メールをすべて吸い上げ、巨大なコンピ
ュータのデータベースに入力するという犯罪行為である。ニク
ソン大統領が命じた盗聴などとは、まったく比較にならないほ
ど壮大な盗聴事件だった。しかし民主党は弾劾に動かない。

2006年の春を迎え、11月の中間選挙で共和党の敗退が予
想されるようになると、民主党の首脳部は弾劾運動を抑え込も
うとした。同年5月10日、下院少数党院内総務だったナンシ
ー・ペローシは、選挙で民主党が多数を取っても、大統領の弾
劾を考えるつもりは一切ないと同僚らに打ち明けている【11】
。民主党は政治目的で弾劾を利用していると共和党に言わせた
くない。相手に攻撃材料を与えたくない。だから弾劾はしない
。そう説明された。

民主党は中間選挙に勝利した。下院議長に選出されたペローシ
は、無用な対立を避け、議会の時間をより有益な目的に使うた
めに「弾劾は考慮しない」と誇らしげに宣言している。コンヤ
ーズも、司法委員会の議長に就任してからは、民主党の首脳部
に同調して、弾劾を否定するようになった。

ブッシュ政権が、国際条約と国内法に違反して、拉致と拷問と
虐待を繰り返していたことが判明しても、民主党は弾劾に動か
ない。こうしてブッシュ政権は、その犯罪行為を議会とメディ
アに容認されながら、大統領の権力を拡大していった。



2008年1月29日、ブッシュ大統領は、議会を通過した防
衛に関する法律に署名する際に、4つの条項が憲法で規定され
た大統領の権限を侵害していると指摘する署名声明を付記し、
大統領として従う必要を認めないことを示唆した【12】。

この法律は、イラクに恒久的な基地を建設するために、あるい
はイラクの石油を支配する目的で、税金を使うことを禁じてい
た【13】。法律を無効にするブッシュ大統領は、法にも議会に
も縛られない絶対的な権力を誇示したに等しい。

これは法治国家の根幹を揺るがす大事件だったはずなのに、す
でに数百回も繰り返されてきた大統領署名声明を見逃してきた
アメリカのジャーナリストはもう何も報道しない。ボストング
ローブ紙のチャーリー・サビッジ記者が唯一の例外だった【14
】。

6月5日、上院情報特別委員会が、ブッシュ政権と情報に関す
る報告書を提出した【15】。報告書は、大統領以下、ホワイト
ハウスとペンタゴンの高官たちが、不確かな情報や何の根拠も
ない情報を元に、イラクの脅威を過大に喧伝し、アメリカを戦
争へ導いたと結論している。

それでも、そんなことはもう分かっていることだと受け流され
て、大きなニュースにはならない。とてつもなく異常なことが
当たり前になってしまった。報告書の意義を認めて立ち上がっ
た議員はクシニッチただひとりである。

ブッシュ政権の犯罪を、共和党は認めようとせず、民主党は追
認する。議会は、大統領の言うがままに、戦争と占領の継続に
必要な予算を差し出してきた。

6月19日、下院は、過去最高額となる1620億ドル(17
兆4250億円)の戦争予算を承認した。これでブッシュ政権
は、来年1月にホワイトハウスを引き払うまで、二つの戦争を
続けられる。同時に議会は、戦争について議論する機会と責任
を放棄することになった。

6月20日、下院は国際情報監視法修正法案を賛成293反対
129で可決した。過去に遡って違法な盗聴行為を合法化する
新法である。電話通信企業は、大統領の依頼を受けて、国家安
全保障局(NSA) の盗聴プログラムを援助してきた。新法は犯罪
に加担した企業に特赦を与える。


【1】C-SPANが下院会議を中継した。ビデオを次のリンクから
ダウンロードできる。
http://www.rawprint.com/media/2008/0806/cspan_kucinich_impeachment_articles_080609a.flv

議場に立つクシニッチ議員、最初の十分間のトランスクリプト。
http://rawstory.com/news08/2008/06/09/kucinich-presents-bush-impeachment-articles/

【2】アメリカ合衆国憲法、第2条第4節「大統領、副大統領
および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他
の重罪および軽罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場
合は、その職を免ぜられる」。
http://tokyo.usembassy.gov/j/amc/tamcj-071.html

【3】アメリカ合衆国憲法、第1条第2節5「下院は、その議
長および他の役員を選任し、また弾劾の権限を専有する」。
http://tokyo.usembassy.gov/j/amc/tamcj-071.html

【4】ジョージ・W・ブッシュ大統領弾劾告発書。
http://chun.afterdowningstreet.org/amomentoftruth.pdf

【5】リチャード・ニクソン大統領弾劾告発書
http://www.historyplace.com/unitedstates/impeachments/nixon.htm

【6】ウィリアム・クリントン大統領弾劾告発書
http://www.historyplace.com/unitedstates/impeachments/clinton.htm

【7】リチャード・チェイニー副大統領弾劾告発書
http://kucinich.house.gov/UploadedFiles/int3.pdf

【8】"The secret Downing Street memo," The Sunday Times -
Britain(May 1, 2005).
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2087-1593607,00.html

安濃一樹「イギリス政府の機密文書が証明するイラク侵略とい
う巨大な犯罪」
http://japana.org/peace/japana/secret_memo.html

TUP速報499号
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/542

【9】安濃一樹「シンディーの戦い──ひとりの母親が大統領
を追いつめた:ダウニングストリート・メモからキャンプ・ケ
イシーまで」。
http://japana.org/peace/cindy/cindys_war.html

TUP速報560号
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/606

【10】国家安全保障局は、ブッシュ大統領の指令を受けて、9
11事件の数ヶ月後から、国際電話と国際電子メールを監視す
るプログラムを立ちあげた。

2005年12月15日、この事実をスクープしたニューヨー
ク・タイムズ紙が記事をオンライン版に掲載し、翌16日に紙
面で報道している。

James Risen and Eric Lichtblau, "Bush Lets U.S. Spy on
Callers Without Courts," The New York Times (Dec. 16,
2005).
http://www.nytimes.com/2005/12/16/politics/16program.html?_r=1&oref=slogin

2005年12月17日、タイムズ紙の報道を受けて、ブッシ
ュ自身が盗聴プログラムの存在を認めた。

しかし他の新聞社が追跡取材をすると、タイムズ紙は、200
4年11月2日の大統領選挙の何週間も前から用意していたス
クープ記事の公表を、1年以上も遅らせていた疑惑が浮き上が
ってくる。2006年8月13日、タイムズ紙は、ホワイトハ
ウスの要請を受け、デスクの判断で記事を差し止めた事実を認
めた。

Bayron Calame, "Eavesdropping and the Election: An 
Answer on the Question of Timing," The New York Times 
(Aug. 13, 2006).
http://www.nytimes.com/2006/08/13/opinion/13pubed.html

【11】Charles Babington, "Democrats Won't Try To Impeach
 President,"The Washington Post (May 12, 2006).
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/05/11/AR2006051101950.html

【12】"President Bush Signs H.R. 4986, the National 
Defense Authorization Act for Fiscal Year 2008 into Law
," News & Policies, The White House(Jan. 28, 2008).
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/01/20080128-10.html

【13】H.R. 4986: National Defense Authorization Act for
 Fiscal Year 2008.
http://www.govtrack.us/congress/billtext.xpd?bill=h110-4986

【14】Charlie Savage, "Bush asserts authority to bypass
 defense act:Calls restrictions unconstitutional," The 
 Boston Globe (Jan. 30, 2008).
http://www.boston.com/news/nation/washington/articles/2008/01/30/bush_asserts_authority_to_bypass_defense_act/

【15】US Senate Select Committee on Intelligence, 
"Report on WhetherPublic Statements Regarding Iraq by 
U.S. Government Officials Were Substantiated by 
Intelligence Information".
http://intelligence.senate.gov/080605/phase2a.pdf


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
配信担当 古藤加奈

TUP速報の申し込みは:
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/
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▼社会がおかしな具合になっているということを知っている人
と、知らない人とでは、どちらが幸福か。これはなかなか難し
い問題で、映画「マトリックス」を観て熟考する必要がある。

アメリカには「知っている人」がいて、公共圏で発言できる、
ということが、この解説を読んでわかる。たとえ底知れない冷
笑主義者に囲まれていたり、彼等と背中合わせであっても、そ
の冷笑主義を相対化する力を持っているかどうかが、結局、そ
の国の「国力」と比例しているのだろう。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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