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インターネットを拠点に「自由な言論」を求め、ニッポン社会における「公共性」の可能性と限界を考える極私的メールマガジン。




【PUBLICITY】1746:希望の関係論2〜「俺達の地獄」

発行日: 2008/6/1

 
 
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1746 2008/06/01日■■


▼『蟹工船』は、「俺達しか俺達の味方はいない」ことを痛切
に認識し、「組織」をつくろうとする物語である。成否は、や
ってみなければわからない、しかし組織をつくらなければ「俺
達」が「帝国」に嬲られ続けることだけは確かである、だから
組織的に抵抗する以外に道はない、という話である。

その舞台設定は具体的事実に溢れ、心理描写の一つ一つもグイ
グイと読ませる。いま「絶対的貧困」に陥っている、陥ろうと
している人が読めば、その多くがそこに「俺達」を発見するだ
ろう。この人たちも同じ「地獄」を生きてたんだ、と。

法律の網の目をかいくぐり、違法でなければ何をやってもOK
な現場で物理的にも精神的にも搾取しまくる資本家のやり口な
ど、まるで一緒だし(いつの時代も一緒だから当然だが)、な
により、同じ国でかつて起こっていた話なんだから尚更だ。

いま『蟹工船』が読まれるのは、読者がそこに「俺達」を発見
したからであり、「俺達の地獄」を発見したからである。それ
らの発見は読者の「生活感情」を大きく振るわせるだろう。

しかし皮肉なことに、この生活感情の共振は、せっかくの「発
見」を単なる「消費」で終わらせてしまう落とし穴ともなる。


▼マルクスは、宗教以外の枠組みによって、一つの世界観を体
系立てようとした。「わたしが生きるこの世界を、どのように
認識し、解釈することができるか」。この問いは、誰がいつど
こで問おうと、問いつめれば、形而上と形而下を貫く「倫理の
体系」になっていく。その体系から日々を意味づける「生活の
論理」が生まれる。

マルクスが言うまでもなく「世界の解釈」は「世界の変革」に
他ならない。それらの問いや答えは、必ず国家と対決すること
になる。そしてあるときは国家を超越し、あるときは国家を相
対化し、あるときは国家と折り合いをつけ、あるときは国家を
強化する。

マルクスの思想は、とにもかくにもこの「倫理の体系」と「生
活の論理」を生み、実に多くの人々の「世界観」そのものを変
えるところまで到った。彼が20世紀最大の思想家と言われる
所以である。

▼彼の思想を適用した文学を「プロレタリア文学」と呼ぶが、
『蟹工船』はいうまでもなくその代表作の一つだ。そして小林
多喜二本人は、言わずもがな、「貧困」の現実(今でいう「ワ
ーキングプア」問題)のみを視野に入れていたのではない。

彼の視野には、「世界をどう認識するか」という問いが含まれ
ている。これは『蟹工船』を読めばわかることで、彼は『蟹工
船』の附記に、「この一篇は、「植民地に於ける資本主義侵入
史」の一頁である」と書いた。

資本主義が侵入すると、どうなるか。「地獄」になるのだ。多
喜二は「なぜ、俺のいるこの場所が地獄になったのか」「地獄
を変えるにはどうすればいいのか」と問うているのである(そ
してこの問いは、「なぜこの俺が地獄にいるのか」というもっ
と動かし難い問いにもつながる)。

▼なぜ「地獄」が生まれるのか。この疑問に囚われた人は、必
然的に「地獄」の仕組みを考え始める。そうして初めて、いま
自分のいる地獄を相対化することができる。囚われなければ、
抜け出せない、人間の業。むむ〜。

「俺達」を発見し「地獄」を発見しただけでは、「地獄」を相
対化することはできない。「俺達」は救われない。感情の共振
は、それのみでは、よくもわるくも「個人的尺度」(「党生活
者」)の範疇で収まってしまうのである。

個人的尺度を超えて、人生を豊かにするためには、つまり人間
が人間として生きるためには、どうしても思想が必要であり、
物語が必要である。

先に、高橋・雨宮対談には事実と感情が豊富であり、しかしそ
れだけでは不十分だということを書いた。なにが不十分だと感
じたのか、これを書いていてわかったが、物語を──希望とい
う物語をつくるためには不十分だと感じたのである。

動かし難い事実と感情を生かすためには、あるときは物語のか
たちへと、あるときは思想の体系へと、「編集」する力が要る。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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