【PUBLICITY】1734:「軍事ケインズ主義の終焉」下
発行日時: 2008/4/13
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1734 2008/04/13日■■
▼春名幹男の名著『秘密のファイル CIAの対日工作』(新
潮文庫)上下巻は、日米関係について何か言おうとする人は、
ということはニッポンの政治的境遇について何か言おうとする
人は、必ず読んでおいた方がいい本だ。しかも無茶苦茶面白い。
しかし、そんな上下巻なんて読んでる暇ねえよ、という不心得
な人には、原幹恵演じるキューティーハニーがお仕置きしちゃ
うゾっ。じゃなくて、今号の末尾にある安濃さんの解説をオス
スメしておく。
軍事ケインズ主義の終焉。いい表題だ。骨太で明快で権力を真
っ向からぶった切るこういう論文は大好きです。なぜ、こうい
う論調がニッポンには少ないのだろう。いや、多いのか? ア
メリカでも少ないのか? よくわかりませんが、とりあえず、
「下」をどうぞ。
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軍事ケインズ主義の終焉(下)
チャルマーズ・ジョンソン
▼このイデオロギーの誕生は冷戦の初期にさかのぼる。
1940年代後半、合衆国は経済の先行きを悲観していた。1
930年代の大恐慌は第二次世界大戦の特需という僥倖で切り
抜けたが、平和の訪れと兵士の帰還につれて、恐慌の再来に対
する不安が広がってゆく。
1949年にはソ連が核実験に成功し、中国共産党が内戦での
勝利を目前にしていた。さらに国内の不景気に加えて、ソ連の
衛星国が結束し東欧に鉄のカーテンが降ろされた。危機感を募
らせた合衆国は、来るべき冷戦に備えて、基本戦略の策定を模
索する。
こうして、国務省の政策企画室長だったポール・ニッツを中心
に、軍国主義的な国家安全保障会議報告書68(NSC68)
が作成された。1950年4月14日付けで報告書は提出され
、同年9月30日にハリー・トルーマン大統領が署名している
。この文書が、今日まで続く公共経済政策の根幹を決定した。
▼NSC68は結論で次のように述べている。
「アメリカ経済は、効率を十分に高めれば、民間消費以外の目
的にも膨大なリソースを提供することが可能であり、同時に高
い生活水準も維持できる。これが第二次世界大戦の経験から得
た最も重要な教訓のひとつである」
この結論に基づき、アメリカの戦略担当者たちは、大規模な軍
需産業の構築に向けて舵を切った。目的は、(常に過大評価し
ていた)ソ連の軍事力に対抗すること、完全雇用を実現するこ
と、そして恐慌の再来を回避することだった。
その結果、ペンタゴンの主導で、大型航空機・原子力潜水艦・
核弾頭・大陸間弾道ミサイル・監視衛星および通信衛星などを
製造する新しい産業が続々と生まれた。
この変貌を目の当たりにしたアイゼンハワー大統領は、196
1年2月6日の退任演説で、こう警告している。「巨大な軍隊
と大規模な軍需産業が結合した。アメリカが、かつて経験した
ことのない出来事だ」。軍産複合体の台頭である。
▼1990年には、武器と機器と軍需専業工場が持つ資産価値
の合計は、アメリカ製造業全体が有する資産価値の83%を占
めるようになる。
1947年から1990年までの軍事予算は累計8兆7000
億ドルだった。ソ連が崩壊した後も、軍事ケインズ主義への信
奉はむしろ強くなったろう。軍の内外に既得権益が網の目のよ
うに張り巡らされているからだ。
政府は、軍需産業と民需産業をともに発展させるつもりでいた
。だが、この計画は、時とともに脆くも崩れ去る。軍需産業が
民需産業を圧倒してしまったために、アメリカ経済は深刻な弱
体化に陥った。軍事ケインズ主義を信奉することは、経済にと
って、ゆっくりと死に至る自殺行為に他ならない。
▼2007年5月1日、首都ワシントンにある経済政策研究セ
ンターは、軍事支出の増加が経済に及ぼす長期的な影響につい
て、ある研究論文を発表した【2】。
この論文は、同研究センターが、経済予測を専門とするグロー
バル・インサイト社に委託した調査の報告書で、研究の中心と
なったのは経済学者ディーン・ベイカーである。
論文によると、軍事支出の伸びは当初こそ需要を刺激する効果
をもたらすが、その効果は長く続かず、6年もすればマイナス
に転じる。言うまでもなく、アメリカ経済は、過去60年以上
にわたり、増え続ける軍事支出に苛まれてきた。
ベイカー博士は、高い軍事支出を10年間つづける経済モデル
を作り、軍事支出を低く抑えた基本モデルと比較している。そ
の結果、前者は後者よりも、雇用が46万4000件も少なく
なることが分かった。
ベイカーはこう結論する。
「戦争が起こり軍事支出が増えれば、経済が活性化すると一般
に考えられている。しかし実際には、ほとんどの経済モデルが
示すように、軍事支出が増加すると、消費や投資などの生産的
な目的に使われるべきリソースが軍事産業に流れ、結局は経済
成長が鈍り雇用が減る」
これは軍事ケインズ主義の悪しき影響の一端にすぎない。
■アメリカ経済の空洞化
▼合衆国には巨大な軍隊と高い生活水準を同時に維持するだけ
の財政的な余裕があり、完全雇用実現のためには、この両方が
必要だと信じられてきた。しかし実際には、そうはいかなかっ
た。
国内の大手製造業をことごとく国防総省の専属企業にして、何
の投資価値もなく消費もできない武器という製品を作らせ続け
たために、民間の経済活動が停滞していった。60年代には、
この事実が明らかになってゆく。
▼歴史家のトマス・ウッズ・ジュニアは、50年代から60年
代にかけて、国内の優秀な研究者の3分の1から3分の2が軍
需産業に流出したと見ている。こうして民間が資金や頭脳を失
った結果、どれだけの技術革新が実現されなったことか。
もちろん、それを知るすべはない。しかしアメリカは、60年
代になって、日本が生産する家電や自動車など種々の消費財が
、デザインも品質もアメリカ製より勝っていることに気づくよ
うになる。
▼核兵器の例を見れば、ことの異常さに息をのむだろう。40
年代から1996年まで、合衆国は、核兵器の開発・実験・製
造に5兆8000億ドル以上を費やした。備蓄がピークに達し
た1967年には、3万2500発もの配備可能な原子爆弾と
水素爆弾を保有していた。結局、幸いながら、1発も使われる
ことなく無駄になった。
このように政府は、雇用の維持だけを目的に、不必要な仕事を
作り出すことができる。軍事ケインズ主義の本質がここに見事
に示されている。軍事上の秘密兵器だった核は、アメリカにと
って経済上の秘密兵器でもあった。2006年になっても、な
お9960発が保有されている。正気を失わないかぎり、今日
いかなる使い道もない代物だ。
ここに費やされた何兆ドルもの資金は、さまざまな問題を解決
するために使うことができたはずだった。社会保障を充実させ
、国民皆保険を導入することもできた。教育の質を高めて、誰
もが高等教育を受けられるようすることもできた。高度な技能
職がアメリカ経済から流出することも、きっと止められたに違
いない。
▼軍事ケインズ主義の弊害については、コロンビア大学のシー
モア・メルマン教授(1917年〜2004年)が先駆的な研
究を残している。
産業工学と生産工程を専門としたメルマンは、冷戦が始まって
から軍備増強にかまけてきたアメリカが、思いがけない窮状に
追い込まれることを予見していた。
1970年に出版された著書
(Pentagon Capitalism: The Political Economy of War
仮題『ペンタゴン資本主義 戦争の政治経済』)
から引用しよう。
「1946年から1969年にかけて、合衆国政府は軍備に1
兆ドルを越える支出を行った。その大半がケネディからジョン
ソンへ続く両政権下での出来事で、この時代に[ペンタゴンが
主導する]国家管理体制が正式な制度として確立された。
1兆ドルという金額は、想像を絶する規模(1兆個の何かをイ
メージできるだろうか)に違いないが、軍備のために国民にか
かる負担の総体を計る目安とはならない。
真のコストは、失われたものの中に潜み、国民生活が諸方面で
荒廃してきた度合を集積することによって計られる。[際限な
く軍備を拡張する]人間の愚かな行為を長期にわたって正せな
かったために、この荒廃がもたらされた」
▼トマス・ウッズが、メルマンの分析はアメリカ経済の現状に
よく当てはまるとして、貴重な解説文を書いている【3】。
「米国防総省によると、1947年から1987年までの40
年間に、7兆6200億ドル(1982年のドル価値で換算)
が資本資源として軍備に支出された。
一方で商務省は、1985年に、国内の工場設備やインフラの
総価値を7兆2900億ドル強と推定している。つまり、この
40年間に支出された資本資源を使っていれば、アメリカの資
本ストックは2倍に増えていたことになる。あるいは、既存の
設備を一新して近代化することもできた」
▼21世紀に入って、アメリカの製造基盤はほぼ消滅してしま
った。その主な原因のひとつが、設備や器材などの資本資産を
近代化または交換しなかったことにある。
特に、メルマンが専門としていた工作機械の分野で、投資を怠
ったことによる弊害が顕著に表れた。1968年11月、5年
にわたる設備調査で次のことが明らかになる。
「合衆国で使われている金属加工用の工作機械は、その64%
が使用年数10年を越えていた。主要な工業諸国のなかで最も
古い工業設備(ドリル・旋盤など)を使っていることになる。
これは、第二次世界大戦が終わってから、ずっと老朽化が続い
てきたことを示している。資本と研究開発能力が軍需産業に偏
っているために、アメリカの産業は衰退と劣化の一途をたどっ
てきた。産業構造の基盤となる金属加工業の現状が、この事実
の証左となる」
1968年以降も、産業の衰退に歯止めをかける取組みは何ひ
とつなされていない。今日では、放射線治療に用いる陽子加速
器(おもな生産国はベルギー・ドイツ・日本)などの医療機器
から車やトラックにいたるまで、あらゆる機器を大量に輸入す
る事態に陥っている。
■「唯一の超大国」の終わり
▼アメリカが「唯一の超大国」でいられた束の間の時代は終わ
った。ハーバード大学経済学部のベンジャミン・フリードマン
教授が次のように述べている【4】。
「いつの時代でも、政治・外交・文化の諸分野で絶大な影響力
を持つ国家は、例外なく世界最大の債権国だった。アメリカが
英国から盟主としての役割を引き継いだ時期は、英国にかわっ
て最大の債権国となった時期と一致している。
これは何も偶然の出来事ではない。もうアメリカは世界第一の
債権国でないばかりか、実状は最大の債務国である。世界への
影響力を保つためには、強大な軍事力を盾とするしかない」
アメリカが被った損害をすべて回復することはできないだろう
。しかし、緊急に実行すべき対策がいくつかある。
▼まず、ブッシュ政権が2001年と2003年に実施した高
額所得者に対する減税策を廃止する。さらに、この帝国が世界
各地に築いた800を越える軍事基地を撤去する事業に着手す
る。
防衛予算から、安全保障に何の関係もないプロジェクトをすべ
て切り捨てることも必要だ。そして、防衛費をケインズ主義の
職業プログラムに使うことを止めなければならない。
このような対策を取れば、危機をどうにか切り抜けられるかも
しれない。もし何も対策を取らないなら、おそらく国家は破産
し、長い恐慌の時代を迎えることになる。
△△
月刊『世界』誌、08年4月号掲載
原文: Chalmers Johnson, "Going Bankrupt: Why the Debt
Crisis Is Now the Greatest Threat to the American
Republic," the TomDispatch.com (Jan. 22, 2008).
URL:
http://www.tomdispatch.com/post/174884/Tomgram:%20%20Chalmers%20Johnson,%20How%20to%20Sink%20America
▽訳注
【2】Dean Baker, "the Economic Impact of the Iraq War and
Higher
Military Spending," Global Insight (May, 2007).
http://www.cepr.net/documents/publications/military_spending_2007_05.pdf
【3】Thomas E. Woods, Jr., "What the Warfare State
Really Costs,"
LewRockwell.com (Sept. 12, 2007).
http://www.lewrockwell.com/woods/woods81.html
【4】記録映画「時限爆弾」でのインタビューより。
"TIME-BOMB: America's Debt Crises, Causes, Consequences
and Solutions," directed by John F. Ince (2007).
【解説】1957年6月、渡米した岸信介首相は、首都ワシン
トンの郊外で、アイゼンハワー大統領とゴルフを楽しんだ。
2006年11月、ベトナムでジョージ・ブッシュ大統領に会
った安倍晋三首相は、50年前に祖父がパットを決める瞬間を
撮った記念の写真を手渡している。その写真に、プレスコット
・ブッシュ上院議員も半ズボン姿で写っていたからだ。
二人の孫たちは、それぞれ家の伝統に思いをはせたかもしれな
い。しかし、写真が冷戦を反映していたとは考えもしなかった
ろう。
チャルマーズ・ジョンソンによると、アメリカはソ連との冷戦
に備え、日本の民主化をあきらめて衛星国とする方針に切り替
えた。まず対策として、財閥と保守勢力を復活させ、犯罪組織
と繋がりを持つ極右勢力を解き放つことにした。
これらの勢力がもともと反共だったからである。1948年1
2月、東条英機らが処刑された翌日に、A級戦犯だった岸は、
児玉誉士夫とともに巣鴨から釈放されている。
政界に復帰した岸について、ジョンソンはこう言う。ナチス政
権下で軍需相を務めた「アルベルト・スピアがドイツ首相にな
っていたら、ニューヨーク・タイムズ紙もさすがに黙っていな
かったろう」。
アメリカは、児玉などを介して、鳩山一郎や河野一郎に資金を
渡し、自由民主党の結成(1955年)を助けた。CIAは、
対日工作に関する機密文書を保管しているはずだが、合衆国の
法に反してまで、半世紀を過ぎた今でも公開を拒否している。
朝鮮半島に残る冷戦の傷跡は、誰の目にもよく見える。駐留す
る米軍。半島を分かつ三八度線。しかし自民党による一党体制
と、孫子の代までアメリカに追従する政策が、冷戦の置き土産
だと知ることは難しい。
アメリカが冷戦の勝利を信じ、唯一の超大国だと誇ったとき、
驕りや過信を罰する女神ネメシスが降り立った。ソ連と同じよ
うに、アメリカも冷戦に敗北したとジョンソンは訴える。
広大な帝国を維持しようと、過激な軍国主義と無謀な経済政策
を続ければ、いずれ破綻するしかない。カエサルがルビコン川
を越えたとき、ローマは共和制を捨てた。アメリカは帝国を捨
て民主制を守れるか。いま選択の時が迫っている。(安濃)
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▼長い恐慌の時代かあ。なにがどうなんのかさっぱりわからな
いが、アメリカを絶対化する道や、アメリカ化する道だけは避
けた方がいい、ということだけはわかる。
善悪ではない。損得だ。どう考えても、割に合わねえ。しかも
いよいよイラン攻撃か、という情報が増えてきている。
freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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