【PUBLICITY】1694:「なぜ安倍政権はメルトダウンしたか」2
発行日時: 2008/1/24
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1694 2007/12/15土■■
▼山口・佐藤対談の2回目は、
■失われゆく「国土」「国民」/■権力集中のハコモノづくり
の2項目。この二人の対談は、「安倍辞任」後の日本社会を考
える上で、非常に有益だ。
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■失われゆく「国土」「国民」
佐藤 9月5日、村上正邦さん(元労働大臣)が主宰する「一
滴の会」の勉強会で、沖縄の集団自決に関する教科書検定に対
して、いま沖縄が保守を含めて大変な状態になっていると私が
話したら、村上さんは、「どうして歴史の真実をねじ曲げよう
とするのか。一般の住民が手榴弾を持つはずがないじゃないか
。なぜ手榴弾を持つんだ。何かあった時には自決しろという意
味だろう。手榴弾を渡したという事例さえあれば、その瞬間軍
の強制性が証明される。なぜつまらない議論をするんだ」と言
う。
そして、この会にいつも出席している右翼の理論家は、「それ
は大変なことだ。沖縄県と沖縄県以外のところでの世論がこれ
ほど違う、温度差が出ているというのは、国民統合という意識
において沖縄が外部になっているのではないか。それは拉致問
題が選挙においても世論においても重要な問題になっていない
のと同根だ」と言うのです。
日本人が一人ひとりバラバラにされてしまって、自分のことし
か考えない。つまりアトム(原子)的に分断されてしまったの
で、同胞についての想像力がものすごく狭い範囲にしか及ばな
い。
だから、拉致問題は右側の、沖縄問題は左側の専管事項といっ
たステレオタイプがあるのですが、その両方に対して一般に国
民が関心を持たなくなっているのは、実は新自由主義を推し進
めた必然的な結果なのです。
新自由主義と親和的なアトム的世界観が浸透することで日本の
国民統合が内側から壊れかけている。ナショナリズムの観点か
ら見ても、小泉、安倍両政権が進めた新自由主義的改革の結果
、日本国家は明らかに弱くなっている。
また、『週刊金曜日』に出ていた雨宮処凛さんと佐高信さんの
対談が非常に面白いのですが、「『丸山真男』をひっぱたきた
い」という寄稿をめぐる議論で、佐高さんが殴る相手が違うの
ではないかと発言すると、雨宮さんは、
〈たとえば30代フリーターで年収100万円。夢は? と聞
くと、「年収300万円になって結婚し家庭を持ちたい」と言
う。そんなささやかな夢さえ保障できない国がおかしい。浮遊
、不安定だけでなくて今の状況は貧困であって、生存ギリギリ
の状態なんです〉(雨宮処凛/佐高信「戦後民主主義に希望は
ないのか」『週刊金曜日』2007年8月10日・17日合併
号)と現状を解説する。
恐るべき事態です。まさに1845年にエンゲルスが刊行した
『イギリスにおける労働者階級の状態』に描かれた、プロレタ
リアートはその最底辺において家族の再生産すらできなくなる
という状況が復元されているわけです。162年前にエンゲル
スが書いたようなことが、いまの東京で起きている。
社会階級、階層という縦の構造の観点からも国家は弱っている
。横の広がりにおいても、拉致問題、沖縄、それから北方領土
や竹島問題は風化し、この国はこの6年の中でものすごく弱く
なった、というのが客観的な事実です。
山口 「国土」という発想は、小泉時代に決定的になくなりま
したね。宮内義彦オリックス会長、規制改革・民間開放推進会
議議長が、公然と「北海道の人口は多すぎる。200万いれば
十分だ」と発言したことがあります。
北海道という広い島に隅々まで人間が住んでいるから行政コス
トがかかる、人がいれば学校も警察も消防も病院も置かなけれ
ばいけない。彼らは「経営」という言葉が好きですが、国土経
営の効率を考えれば、北海道は札幌周辺だけに200万の人間
がいるくらいでちょうどいいんだというわけです。
佐藤 それは先ほど言った、熊のほうが多いところに高速道路
をつくる必要があるのかという論理の延長線上ですね。
山口 まったく同じです。ですから新自由主義には国土という
発想はない。小さな政府をつくりたい人たちから見れば、田舎
にしがみついて生活している人、つまり国際競争力もないくせ
に農業や漁業あるいは中小企業をやっている人間は、邪魔でし
かないのでしょう。だからこそ今回の参議院選挙で、地方の一
任区で人々は新自由主義に復讐した。
小泉時代というのはものすごく大きな政策の変化が起こったと
きで、政策決定の中枢部、経済財政諮問会議や規制改革会議、
あるいは官邸にきわめて単純なイデオロギーが一気に浸透して
、ほかのファクターを考慮に入れる視野の広いリーダーが本当
にいなくなってしまった。驚くべきことです。
佐藤 中央にグーッと集中していって、今回安倍さんに起こっ
たのは、原子炉がメルトダウンしたのではないですか。日本の
政権が中枢から自壊して溶けてしまったような感じがします。
■権力集中のハコモノづくり
山口 そこが実は一つの重要なテーマですね。
最近政治学では、小選挙区制や政党助成金の導入、内閣制度の
改革といった90年代の制度改革によって日本の政治の装置が
変わったという議論をよくしています。
政党も内閣も非常に制度的には求心力が高まって、権力が一元
化・集中化し、責任や権力の所在が明確になった。トップリー
ダーが大きな力を発揮することによって、かつてのようなヤマ
タノオロチのような自民党の体質が、いわば粛正され、非常に
早い意志決定やダイナミックな政策展開が可能になった。
結果として民意を背景としたダイナミックな民主政治が実現し
得るようになったと、比較的肯定的な文脈で一元化・集中化と
いう現象をとらえているわけです。
たしかに制度のハコモノづくりという意味では、一元化・集中
化が進んだことは確かです。小選挙区制では、党の公認がもら
えなければ選挙には勝てない。
佐藤 党の公認をもらわずに選挙に出ると、ものすごく金がか
かりますからね。
山口 政党助成金が入っているから、幹事長や経理局長という
党の中枢部には逆らえない。さらに小泉時代に、小泉という人
気者にぶら下がることによってラクして選挙に勝てるというか
、風が起こったら自分自身はたいしたことなくても自民党公認
というだけで選挙に勝てるという、非常に幸運な思いをした。
そうすると個々人の政治家がどんどん脆弱化し、非常に同調主
義が強まる。その結果、一元化、集中化が進んでいるというの
が実態なのです。
自立した力のある政治家が活発に議論して党の意志を形成し、
そこで話し合って決めたことを協力して推進していくという、
本来想定していた一元化ではなくて、個々の政治家が非常に無
力化してリーダーにぶら下がるという消極的な動機で同調主義
になって一元化していくという現象がいま起こっている。権力
集中、一元化のハコモノをつくったけれど、その中は空っぽだ
ったということが今回明らかになりました。
佐藤 私はゴルバチョフ改革(ペレストロイカ)を連想します
ね。ソ連という国家は疲弊してしまったので、最初は「加速化
」、規律強化で体制の強化を図った。「共産党の前衛的な地位
の強化」を言っていたけれど、あまりにも共産党がひどい状態
だったから、党の前衛的役割、指導的役割を放棄して、今度は
大統領に権限を集中しようとした。
そうすると、ゴルバチョフのお墨付きさえあれば何でもできる
という感じになり、それで人事刷新をするので、ゴマすりが横
行するのです。旧来のマシンというのは弱体化する。しかし新
しいエリートはいまだ生まれてこない。
偶然生まれてきたエリートは、急に能力以上のポストに就いて
、権限を得たということが何となく自分でわかっているから、
旧来のエリートよりも特権にしがみつく。
それで縮小再生産して、最後は内側からクーデターが起きてし
まった、というプロセスなのですが、ソ連共産党の末期の、官
僚が書記長や大統領の言うことを聞かなくなり、閣僚をバカに
し始めていたときの雰囲気と、いまとても似ていますよ。
当時も、共和国独立採算制のような地方権力の強化を非常に言
いながら、実態としては地方に金が行かなくなってしまった。
それで地方では分離主義が出てくるのですが、あえて誇張して
言えば、現在の沖縄の様子は、91年の独立につながる「歌い
ながらの革命」を言い出した88年頃のエストニアの雰囲気と
似ている。
山口 おそらく一党支配システムの末路とは、資本主義であれ
共産主義であれ、似たような形になるのですね。政治権力の担
い手を育成していくということは、そう簡単な話ではない。い
わゆる西側民主主義の国の多くは、複数の政党が競争する中で
、特に野党の側から、次に自分たちが権力をとるためには、何
をしなければいけないかについて考える動機があります。
ニューレイバーをつくったブレアやブラウンがその一例であり
、いまアメリカでは大統領予備選挙に向けて、民主党が権力を
とるためには何が必要かについて1年半かけて延々と議論して
いる。そうやってリーダーが鍛えられていくわけです。
一党支配システムはチャレンジャーが権力にぶつかることによ
って自分を鍛えていくというシステムを内包していないから、
とても脆い。
自民党が強かった時代は、派閥が擬似的な競争メカニズムを提
供することで、そこからリーダーが育ってきたという面もあり
ますが、皮肉なことに選挙制度改革や政党助成金によって派閥
そのものの土台も崩してしまった。人材供給が先細りになって
いくのは必然ですね。
政治家と新自由主義の問題については、選挙──選ばれるとい
うことの意味が、政治改革をはさんで変わってきたことも感じ
るのです。民主政治というのは一体何なのか。人々はどういう
意味を込めて代表者を国会に送り出すのか。
「9・11」選挙がもっとも顕著な例ですが、個々の地域での
選挙民と民意との紐帯を一切断ち切って、上から「改革」とい
うシンボルが降ってくる。この地域に郵便局がなくなると困る
という人もいっぱいいるけれど、やはり民営化だという「正論
」が、個別の地域事情をなぎ倒していくという暴風雨が吹いた
わけです。
たしかに田中・竹下派政治は、地域地域のインプットが強すぎ
て、公共事業予算をばらまいて、無駄な投資が多かったのは事
実です。
それに対する反動で、今度は地域の個別の声を一切聞かずに、
非常に巨視的な正論が個々の地域や個人個人の選挙民の意志や
悩みを全部吹き飛ばすという方向に行ってしまい、小選挙区制
あるいは首相主導といったような現象がそれを加速したという
ことが、小泉時代における政党政治の変容だと思います。
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▼「国土」という視点がなくなっている、という指摘は、言わ
れて気づいた。そう言われるとわかりやすい。
▼教科書問題を巡る沖縄と沖縄以外の世論の断層については、
また稿を改めるが、ここでもマスメディアの問題が大きい。
▼政治家は「市場」に振り回されて「国土」を忘れるのか。尤
も、「国土」と口にする時の「国土」の実体が、いま果たして
存立しているのか、という大問題があるが。これはもしや「人
情喜劇」人気にも繋がる話かも知れない。
社会における情報の価値、という厄介な問題がへばりついてい
る。
▼新自由主義と社会民主主義とが対立するわけだが、国土=国
民の安全・生活を守る社会民主主義的政策と、弱肉強食の新自
由主義の政策と、ハッキリと分かれて政策論議が行われるわけ
ではない。
現に、あの小泉を担いだ自民党が、いまは社民的政策に色気を
出すわけだ。このままだと民主党は勝てないね。全面戦争でき
る体力があるわけでもない。どこかで「一点突破」するしかな
い。マスメディアを利用する「一点」はどこか。与党はどう防
ぐのか。これは、注目せざるをえない。マスメディアの利用の
仕方で国勢が変わってしまう時代だ。
▼現在の沖縄は、あえていうならば88年のエストニアに似て
いる、という視点は、そのときその場にいた人でないと持てな
いだろうねえ。
「国家は壊れるものだ」という前提で考えることと、「国家は
壊れないものだ」という前提で考えることとでは、「考える」
という言葉の意味がまるで違う、ということについて考えさせ
られる(わかりにくいよっ!)。
▼今年の夏の参院選は「新自由主義への復讐」という要約が、
いいと思う。内政における失敗に対する復讐なわけだが、内政
の延長が外交である以上、遠からず「バカの壁」ならぬ「アメ
リカの壁」にぶつかろう。この壁の周辺に、買弁層が蠢く。
freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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