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【PUBLICITY】1693:「ちりとてちん」讃

発行日時: 2008/1/23

 
 
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1693 2007/12/15土■■


▼12月13日の「ちりとてちん」で、ヒロインの貫地谷しほ
りが自己嫌悪で泣いているときに、シャンソンの名曲「聞かせ
てよ愛の言葉を」が流れた場面にはマイッタ。

▼書こう書こうと思っていたのだが、NHKの連続テレビ小説
「ちりとてちん」(制作統括・遠藤理史)は素晴らしい。福井
出身の不器用な少女が上方落語の門を叩く、という危なっかし
いお話なのだが、もしかしたら歴史に残る「人情喜劇」になる
のではないか(また大げさな物言いですよ)。

だってさあ、あらすじを聞くだけで危なっかしいと感じるでし
ょうよ。どう特訓すれば20の小娘が上方落語を喋れるように
なるのさ。ましてや、テレビの「画(え)」になるのさ。

と・こ・ろ・が。見事に見せきるドラマになっているんだこれ
が。これまで連ドラを観たことはあんまりないから、他と比べ
られないけど。「タイガー&ドラゴン」といい、落語を扱った
ドラマが成功するのはうれしいことです。


▼「ちりとてちん」は、まず脚本(藤本有紀)が素晴らしい。
演出(伊勢田雅也)も細かい。登場人物の感情の動きと、物語
の時間進行とに、齟齬を感じない。上沼恵美子の語りを挿入す
るタイミングがいい。骨格をつくる段階で、いったいどういう
話し合いがあったのだろう。

ドラマのなかで「寝床」という名前の居酒屋があり、そこで定
期的に行なっている寄席を「寝床寄席」と呼ぶのだが、こうし
た“劇中のみで通じる固有名詞”を登場人物が口にする時、そ
の人物の生活感情がその名詞にこもっている。血が通っている。

また、個人的な好みとしては、登場人物の使うネタ(たとえば
茂山宗彦演じる徒然亭小草若(つれづれてい・こそうじゃく)
の「底抜けにー」とか)を劇中の日常会話に取り込んでいて、
そんなにムリがない。ぐいぐい押し切っていく。

落語の解説を上手に挿入するし、ドラマの展開と落語の世界の
リンクも実によく考えられていて、落語という題材を、視覚的
にも存分に活かしている。“落語の海”に「ダイブ」して、よ
くよく知った人でないと書けない脚本だと思う。毎週のタイト
ルも凝っている。

第1週 「笑う門には福井来る」(10月1日-6日) 
第2週 「身から出た鯖」(10月8日-13日) 
第3週 「エビチリも積もれば山となる」(10月15日-20日) 
第4週 「小さな鯉のメロディ」(10月22日-27日) 
第5週 「兄弟もと暗し」(10月29日-11月3日) 
第6週 「蛙の子は帰る」(11月5日-10日) 
第7週 「意地の上にも三年」(11月12日-17日) 
第8週 「袖振り合うも師匠の縁」(11月19日-24日) 
第9週 「ここはどこ?私はだめ?」(11月26日-12月1日) 
第10週 「瓢箪から困った」(12月3日-8日) 
第11週 「天災は忘れた恋にやって来る」(12月10日-15日) 
第12週 「一難去ってまた一男」(12月17日-22日) 
第13週 「時は鐘なり」(12月24日-28日)

特に徒然亭一門が復活してからは、毎回の15分間に「ドラマ
の神様」が降りてくるかのようだ。藤本有紀は松竹新喜劇(吉
本ではなく)についてどう考えているのか、きいてみたいもの
だ。

▼そして、ヒロインの貫地谷しほりが素晴らしい。彼女の役柄
には、天才・藤山寛美の「あほ」役と相通ずるところがある。
NHKの連続テレビ小説は、だいたい少女の成長物語なのだが
、彼女の場合、もとが「あほ」な分、どこまで化けるかわから
ない感じが出ている。

あと、観てる人は誰でも思ってるだろうが、師匠役の渡瀬恒彦
と母役の和久井映見が素晴らしい。他の登場人物も軒並みいい
。皆、水を得た魚状態。脚本が優れているからだろう。

▼しかし。なんといってもカメラが“底抜けに”素晴らしい。
これを書きたかった。どうということもない平凡な風景や登場
人物の会話を映しているだけなのに、ただ美しい、ずっと観て
いたい、と思わせる場面が、多いのだ。

たとえば13日の放送では、泣いている貫地谷しほりの横顔か
ら大阪の街並みに替わるのだが、街の遠景がなんともキレイに
映っていた。

あまりに素晴らしいのでNHKのホームページを観てみたら、
なんと「撮影」で10人、「照明」で10人もスタッフがいる
のね。黒川穀という人が撮影の筆頭になっている。この人の腕
が抜群にいいのではないだろうか。誰だかわからないが、あの
カメラに拍手。

市川準監督の「大阪物語」や「トニー滝谷」で、なんでもない
風景が実に美しく撮られていた。あの画面の質感に似てるのか
なあ。よくわからんが。


▼人情喜劇、と書いたが、ぼく自身が人情にも喜劇にも飢(か
つ)えているのかも知れない。

広い家に稽古場があり、お師匠さんが住み、お弟子さんが住ん
でいる。すぐそばには居酒屋があり、地域の人たちがしょっち
ゅう顔を見せ、大事な会話を皆が共有する。その居酒屋で定期
的に寄席が開かれ、物語の節目が刻まれる。その節目も皆が共
有する。

「ちりとてちん」の舞台設定のなかでは、濃厚なコミュニティ
ー、地域共同体が息吹いているわけだ。あの稽古場兼住宅の空
間、居酒屋の空間、実家の空間──「空間」こそが、なにもの
にも代え難い贅沢である。

あの空間は、もはや現実にはありえない。しかし、ありえない
という現実は、ありえないものをリアルに感じられるように、
造型する知恵を、妨げる障壁にはならない。

▼また、大阪や福井という「場所柄」「言葉」が、“扇の要”
になっている。

物理的に手を伸ばせば届く範囲に、他人の生活感情や息遣いが
感じられ、ちょっとお節介だが乾いてもいる、という、身の周
りでは探すのに苦労する「他者との関係」(家族の関係)を、
「ちりとてちん」にぼくは観る。いや、「観たい」のだろう。

観ているとせつなくなる。せつなくなる理由は、「人情」を、
「関係の潤い」を感じるからだ、あの美しいカメラを通して。
それは、余分なものではない。乾いた体が水を欲する、そうい
う類のものだ。

「ちりとてちん」の魅力の秘密は、笑いの質ではなく、恋でも
なく涙でもなく(もちろんそれらは大事な要素)、一にかかっ
て、喜怒哀楽を全開させる主人公、を支える周囲の人々、を支
える「人情喜劇の土台(舞台)」を、現代的にお膳立てした、
脚本の力量に拠っている。

▼ああした他者との関係の瑞々しさ、コミュニティーの太い輪
廓を描くドラマを、東京を舞台にしてつくるのは、困難なのだ
ろうか。空間にも、場所柄にも、言葉にも、困難さがつきまと
う気がする。

はっ、つい長く書いてしまった。もう8kbかよ。東京を舞台の
人情喜劇も観てみたいわけです。ぼくが知らないだけで、どこ
かできっとやっているのだろうけれど。

▼「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画が流行っているそうで、
生憎ぼくは観ていないんだけど、おそらく人情喜劇であり、人
間讃歌の要素が強いのだろう。現代ニッポンが「人情喜劇」を
求めているのなら、「ちりとてちん」もさらに人気を増してい
く可能性がある。

前半戦は気分上々、大いに盛り上がった。後半戦も楽しみたい。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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