恋愛講座 |
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事
(九十九)
実のところ、珠子の心中は穏やかではなかった。珠子にしても、武
蔵におねだりを繰り返してはいる。しかし時として、拒絶されるこ
とがある。が、小夜子にはまるで甘い武蔵だった。
「お前らなぁ、どうしてそんなに、人の恋路を邪魔するんだぁ?俺
の純な想いをだなぁ、踏みにじるよう・・」
「なにが、純な想いょ!下心見え見えょ。」
武蔵の軽口を遮るように、梅子が武蔵の太ももを抓った。
「痛いっ!こらぁ、梅子ぉ。どうせ触るなら、こっちにしろょなぁ。」
スクッと立ち上がった武蔵が、ズボンを脱ぎ始めた。思わず小夜子
は、俯いてしまった。
「こりゃ、いかん。小夜子の前では、俺は紳士でなきゃいかんのだ。」
「小夜子ちゃん、今夜はもういいわ。社長、今夜は大人の遊びをし
たい気分らしいから。」
梅子に促されて、小夜子はペコリと頭を下げて席を離れた。
「おぉ、ご苦労さん!」
武蔵の労(ねぎら)いの声に、小夜子は
「また、食事に連れて行ってね。」と、片目つむった。
小夜子が立ち去ると同時に、梅子が武蔵の傍に陣取った。そして珠
子に対し、
「珠子!新しいボトルを持ってといで。あんたが行くんだょ、おと
こし(ボーイ)を呼ぶんじゃない!」と、珠子を立ち去らせた。
「社長!少し甘すぎるんじゃないかい?あれじゃあ、世の中をなめ
きってしまうょ。贅沢に慣れきった女の末路は、そりゃあ悲惨だ。」
梅子が真顔で、武蔵を嗜めた。
「いいんだょ、あれで。小夜子には、贅沢な女になってほしいのさ。」
「あんたって、人は・・。本気なんだね、やっぱり。単なる気まぐ
れじゃ、ないみたいだね。それじゃあもう、何も言わないけどさ。」
呆れ顔で、梅子は深くため息を吐いた。
「で?珠子は、どうすんのさ。ご用済みにするのかい?その内に。」
「珠子?なんで、別れなきゃいかんのだ!あいつの体は、絶品だ。
まだまだ、味わいたいぜ。それにだ、今すぐって訳じゃない。年が
明けてから、小夜子のご両親の元に行くつもりだからな。今、調べ
させてるんだょ。小夜子の口ぶりじゃ、相当に困窮しているらしい
からな。相場に手を出して、大きな借金を抱えているって話だ。い
ざとなれば、・・」
「お待たせぇ!」
珠子が戻ったところで、話が途切れた。
「ねぇ、社長さん。ホテルもいいけど、たまにはご自宅に行きたい
わ。だって、決まって帰っちゃうんですもの。朝を一人で迎えるの
って、すごく寂しいの。」
ベッドの中で甘えた声を出す珠子に対し、
「あぁ、分かった、分かった。その内にな。」と、武蔵は一顧だに
しなかった。
身支度を済ませた武蔵は、札入れから数枚を取り出して無造作に
テーブルの上に置いた。
「ほらっ、小遣いだ。」
「ありがとうございます。」
気だるそうに起き上がる珠子に、武蔵は
「いい、いい。そのまま、寝てろ。」と、ぞんざいに告げた。
「ねぇ、社長さん。小夜子ちゃんをご自宅に住まわせるって、ホン
トなの?本気で、愛人にするつもりなの?」
何気なく口を滑らせた珠子だったが、突然に武蔵は怒り出した。
「お前が気にすることじゃない!小夜子は、お前らとは違うんだ!」
あまりの剣幕に珠子は、一瞬言葉を失った。
「だ、だって・・」
見る見る内に珠子の目頭が熱くなり、大粒の涙が頬を伝った。
「悪かった、大声を出して。小夜子はなぁ、娘なんだょ。無垢な生
娘なんだ。小夜子も言ってるだろうが、足長おじさんだって。心配
するな、珠子を捨てたりはしないょ。俺はお前の体に、ぞっこんな
んだから。よし、もう二三枚足そう。なっ、これで機嫌を直してく
れょ。」と、札入れを取り出した。
結局小夜子は、武蔵の元に身を寄せることにした。悩みに悩んだ小
夜子だったが、加藤家での居ずらさは増すばかりだった。あの夜以
来、奥方の咳払いが毎夜のように聞こえた。小夜子の空耳かも知れ
ないのだが、どんなに足音を忍ばせても聞こえてしまう。
英会話の授業に支障を来し始めたことも、小夜子の心を決めさせる
一因になった。教室内での会話全てが英語となり、時として疎外感
に苛まれてしまう。簡単な挨拶程度は理解できるのだが、日常の事
柄を語り合う学友の輪に入れなくなることが多くなってきた。
“これじゃ、だめだわ。何のために上京してきたのょ。”
そんな思いが、日々強くなった。
不安がない訳ではなかった。武蔵の言葉に嘘はないと思いつつも、
いつ変心するやもしれぬと言う思いは消えなかった。
“その時は、その時ょ。いっそのこと、処女を正三さんにあげれば
いいのょ。”
そんな思いが、頭を駆け巡った。
それにしても、あの手紙からもう、ひと月余が経ってしまった。以
来、正三からの手紙は来ない。
“まさかとは思うけど、正三さんからの手紙、隠されているので
は・・”
そんな疑念が浮かんでくる。
“それとも・・。ご両親の反対で、正三さん、翻意してしまったの
かしら・・。ううーん。そんなことは、決してないわ!そんな正三
さんじゃない!”
日曜の夜、小夜子は加藤夫妻と対峙した。こんな事態を望んだわけ
ではなかったが、武蔵の元に身を寄せる為には避けて通れぬことだ
った。
「短い間でしたが、本当にお世話になりました。改めてお礼方々、
ご挨拶に伺わせていただきます。」
畳に頭を擦り付けて、小夜子はお礼の言葉を述べた。突然の小夜子
の申し出に、加藤は驚くだけだった。奥方は女の勘とでも言うべき
か、小夜子の微妙な変化に気付いてはいた。
しかしまさか加藤家を辞することになるとは、思いも及ばなかった。
加藤よりの援助を懇願してくるもの、と考えていた。
「考え直さないかね。都会での一人暮らしは、色々と問題が多いょ。
茂作さんだって、許さんだろうに。第一、生計は成り立つのかね。
茂作さんからの仕送りを期待しているのなら、それは無理だょ。」
困惑顔で、加藤は小夜子に翻意を促した。
「そうですょ、小夜子さん。宅の言う通りですょ、ご実家にお帰り
になると言うのならまだしも・・。でもまぁ、決心は固いみたいで
すね。」
奥方は口でこそ小夜子を引き留めるが、その目の中には“厄介払い
が出来る”と、安堵の色が見えた。
「ご心配をおかけしまして、申し訳ありません。でも一人暮らしと
言いましても、会社の寮に入りますので。学校に通いながら時間の
空いた時に、事務のお手伝いをさせてもらうことになっております。
卒業後は、その会社で通訳のお仕事をさせて頂けることになりました。」
凛とした小夜子の態度に、加藤は驚いた。上京し立てのおどおどと
した態度が微塵もない。それどころか、自信に満ちた表情を見せて
いる。
“何があった、と言うのだ。まさかとは思うが、正三君との間に何
か約束事でもあるのか?”
加藤は小夜子の顔をまじまじと見つめながら、
「その、なんだ。正三君とは、連絡を取り合っているのかね?」と、
問い質した。
「いえ・・。正三さんには、まだお話をしていません。それでお願
いなのですが、もし手紙が届きましたら、この会社宛に転送して頂
きたいのですが・・。」と、武蔵に渡された名刺を、加藤の前に差
し出した。
「なになに。雑貨品卸業 株式会社富士商会 代表取締役 御手洗
武蔵 この方が・・。通訳とか言ったね?貿易関係の仕事でもなさ
そうだが、どういうことかね?」
舐めるように名刺を見ながら、加藤は怪訝そうな表情を見せた。
“クラブの客だろうが、まさかパトロンではないだろうな・・”
“正三ではなく、この御手洗某にそそのかされたのか・・”
加藤の頭の中を、そんな思いが駆け巡った。
“年端も行かぬ小夜子を蹂躙するのか!”と、怒りの思いが昂じ始
めた。
「小夜子ちゃん。もう少し考えてみては、どうかね?その、なん
だ・・。どうも胡散臭さをだね、おじさんは感じ・・」
小夜子は加藤の声を遮るように、武蔵に教えられた通りに淀みなく
答えた。
「GHQ相手のご商売をされています。これからは、貿易品も手掛
けられるとか、仰っています。で、通訳が必要になるとかで・・。
後日に、社長がご挨拶に伺いたいと申しておりました。」
「まぁまぁ、そうなの。GHQがお相手ならば、しっかりした会社
なのね。あなた、心配するような事じゃありませんわょ。それは、
良かったわ。」
奥方の言葉によって、やっと小夜子は解放された。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〔 つぶやき 〕
矢部未華子ちゃん、可愛いですね。ファンなんです。実は
小夜子=未華子ちゃん ,アーシァ=リア・ディゾンちゃん
と、頭に描いて書き綴っています。武蔵ですか?・・それは、私。
皆さんも、好きなキャストでお楽しみください。
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事
