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斎藤吉久メールマガジンNo.397「慰霊とは誰に向かってするのか」
発行日: 2008/5/13 今月10日、神奈川県戦没者慰霊堂(横浜市港南区)で県が主催する戦没者追悼式が行われ、1300人が参列した、と毎日新聞が伝えています。
http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20080511ddlk14040193000c.html
▽まぼろしの神奈川県護国神社
案外、知られていないことですが、神奈川県というところは非常に面白いところで、47都道府県にはたいてい少なくとも1社は護国神社があるのですが、唯一、この県だけは護国神社がありません。
正確にいうと、戦時中に護国神社が建設されたのですが、完成直前に空襲で灰燼に帰したのです。地元高校の教師をしている坂井久能先生の論考(「神道研究」所収)によると、昭和14年に1府県1社の護国神社創立が許可されたあと、県は神奈川区三ツ沢町に造営を進めます。上棟式は18年11月。しかし竣功を目前にして20年5月29日、横浜大空襲で社殿は焼失します。
『横浜市史』によると、517機のB29が襲来し、東京空襲の1.5倍に当たる2571トンの焼夷弾が投下され、7万9000戸が全焼、死者3649人を含む30万人以上が被災し、旧市街地が焼き尽くされたといわれます。
坂井先生によると、22年6月、県は境内地を横浜市に無償で払い下げました。いま神社の跡地はスポーツ施設が並ぶ三ツ沢公園の一部となり、現代的なデザインの横浜市慰霊塔が建っています。
▽慰霊塔建設を打ち出したクリスチャン知事
この記事に出てくる県慰霊堂が建設されたのは日本が独立を回復したあとのことでした。
ご存じのように、20年暮れ、占領軍はいわゆる神道指令を発しました。「目的は宗教を国家から分離することである」と明記され、駅の門松や注連縄までが撤去されました。
しかし占領後期になると、占領軍は指令の解釈を完全ぶり主義から緩やかな分離主義に改め、松平参議院議長の参議院葬は神式で行われ、吉田首相の靖国神社参拝も認められました。
26年4月に講和条約が発効すると、公葬の緩和が進み、県や市町村による慰霊塔建設が展開されるようになりました。
神奈川県では26年11月に遺族会が主催し、市町村が後援する合同慰霊祭が、横浜市鶴見の曹洞宗大本山・総持寺で行われました。
当時の県知事・内山岩太郎はクリスチャンといわれ、戦災で破壊されたフィリピンの教会を復興した人物としても知られます。そして慰霊塔の建設を打ち出したのも内山知事でした。
▽お寺の境内地を無償譲渡
慰霊塔は慰霊堂へと計画が変更され、紆余曲折の末、真言宗の千手院から無償譲渡された港南区大岡台に建設されることになります。
住職は明治生まれの芯の強い人物だったようで、檀家の思わぬ反対に遭うと、「命の尊さが分からないものは檀家でなくてもいい」とまで語ったと聞きます。
こうして慰霊堂は28年11月に竣功し、秩父宮妃殿下の御臨席のもと、慰霊祭が行われました。
非常にユニークなのは、ここの慰霊祭が諸宗教合同で行われていることです。坂井先生によると、28年の慰霊祭に先立って県宗教連盟から県に対して合同で奉仕したい旨、申し出があり、県が快諾したのだそうです。
官民が一体となり、しかも一宗一派によらず、神道、仏教、キリスト教合同の慰霊祭が行われるのはきわめて異例で、「神奈川方式」と呼ばれています。
▽変質する慰霊追悼
しかしやがてこの方式に大きな変化がもたらされました。昭和49年、民間の奉賛会が主催する宗教的な「奉賛行事」と行政が主催する非宗教的な「慰霊祭」が分離されたのです。
この3年前、津地鎮祭訴訟の第2審で、名古屋高裁は「津市が神社神道式の地鎮祭を行ったのは政教分離違反」と断定する判決を下したことが影響しているのではないか、と推測されています。
この毎日新聞の記事にあるように、「戦没者追悼式」と名称も変更されました。「慰霊祭」が「追悼式」に変わったのは57年でした。宗教性を排除するという絶対分離主義的な発想からのようです。
私が現地を取材したのはもう何年も前のことですが、面白いことに、民間の追悼奉賛行事に知事は参列しません。このあと追悼式は国歌斉唱、知事の式辞、黙祷と続くのですが、「知事は戦没者の御霊(みたま)に対してではなく、遺族に向かって話をする」のだそうです。
戦没者の御霊を慰めるという素直な気持ちより、憲法の政教分離原則なるものが必要以上に重視された結果です。政教分離が、信教の自由を確保するためという本来の目的を外れ、政教分離それ自体が目的化した結果、死者の慰霊という目的を見失っているのです。
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