TRANQUE −夢と病気と恋愛事情− |
バイセクシャルで元精神障害者の佐藤充範がマイノリティな生活の実情を語ります。自己検閲無しで書くので若干アブナイ部分もあるかもしれませんが、日々生き難さを感じる方、心の病に悩む方、また興味本位の方も是非お試しください。
創刊日:2004-08-19
最新号:
2009-06-30
発行周期:月刊
読んでる人:26人
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最新号のみ
発行者サイト:
あり
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─────────────────────────── 2009.06.30 ──
T R A N Q U E 第90号
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ご購読ありがとうございます。
梅雨の時期、湿気が苦手な俺はどうしても気分が沈みがちになります。
それに加えてここ数週間、仕事で面倒な問題に係わっていて毎日憂鬱です。
プライベートでは楽しい事もそこそこ有ったりしますけど。で、その一つ
を今回「最近の事」で書いてみました。
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-- INDEX ------
・最近の事 ‥‥‥‥ 恋
・過去の話 ‥‥‥‥ リョウコ(5)
・フィクション ‥‥ 不意打ち
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最近の事
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< 恋 >
つい最近、久し振りに、ちょっとした恋のようなものをした。
愛情を抱く、というのとは違って、多少ドキドキもするような感情だ。
相手はジョニーではない。仕事で時々口をきく程度の人だ。
きっかけは些細な事だった。その人が俺にとても理解を示してくれた。上辺だ
けでなく本当に分かってくれているように見え、それが嬉しくて俺はその人の
存在を少し意識するようになった。その人は以前から俺に対して好意的であっ
たけれど、それまではただ、いい人らしい、くらいにしか思っていなかった。
しかし、もしかしたら深い所で分かり合える人なのではないかと思い始めた
途端、見る目が変わったのだった。その人のこれまでの言動を振り返ってみて
も、思い当たる節が無いでもなかった。
とは言え、それは俺の勘違いということも有り得る。そして付き合ってみれ
ば、否、もう少し親しくなるだけでも、その真偽が分かるかもしれない。
だが俺は、その人との距離を今以上に縮めるつもりは無い。
俺の恋心は淡いものであって、燃えるようなものではなく、苦しさを伴わな
い、心地の好い感情である為、現状維持が最も望ましいと思われるからだ。
それに、近付いてみたら、その人は俺のことなど何も分かっておらず、好意を
持ってすらいなかった、と判明するようなことになっても面白くない。
だから俺はこのまま、勘違いから始まった恋を楽しもうと思う。
しかしそもそも、恋というのは勘違いから始まるものかもしれない。自分の中
の何かしらの思い込みで相手を美化することこそ、恋そのものなのではないだ
ろうか。
恋した相手と付き合えるようになって、その相手の内面が色々分かってきて、
或る時ふと、自分が思い描いていたような人ではなかったと気付く、という話
はよく聞く。その勘違いの恋が醒めて冷静になってから、愛情を抱けるように
なる、ということも多々有るようだ。
勿論、いつまでも恋心を持ち続けている、という人がいるのも俺は知ってい
る。また必ず恋から愛に変わるというわけでもないだろう。実際、俺自身も
恋愛のパターンは様々だ。
けれども、ジョニーに対してはどうだったろう、と考えてみると、実はよく分
からない。やはり勘違いの「恋」をしたような気もするが、彼に関しては結果
的に勘違いはしていなかったし、初めから、同類に感じるような「愛情」を抱
いていたようにも思う。そうすると俺も或る意味ずっと恋心を持ち続けている
ことになるのだろうか。それとも、知り合った瞬間に恋は愛に変わったんだろ
うか。
何れにしろ、現時点で確かなのは、俺の気持ちは年々落ち着いてきているとい
うことだ。それは別に彼が空気のような存在になったということではないし、
彼に無関心になったのでもなく、今でも、というより益々、彼には強く惹きつ
けられているほどなのだが、心が踊る躍るようなことが無くなった感じがする
のだ。大雑把に言えばこれもやはり、恋が醒めて愛が深まった、ということな
のかもしれない。
だとしても、醒めてしまってジョニーにはもう恋しないから他の人にするしか
ない、とは考えない。俺は元来、恋など求めない人間だ。恋なんて面倒臭いも
のはしないに越したことはないと思っている。それでも、こうして時々他の人
に恋したりすると、新鮮な感覚が気持ち好くて、こういう刺激もたまには必要
だ、などと思うから不思議なものだ。
ジョニーとの関係でも、違う種類の刺激なら充分有るのだけれど。
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過去の話
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リョウコ(5)
だが途中、彼女の言葉にギクッとしたこともあった。長いキスの後、涼子さん
がポツリと言った。
「ジョニー……、みたい」
俺が「え?」という顔をすると彼女はこう続けた。
「似てるのかしらね、貴方達。なんだかジョニーとしたみたい」
俺は絶句した。動揺してしまい、適当な返事が思い付かなかったのだ。況して
言い訳などをするのもおかしいと思った。涼子さんは、俺がうろたえたのを
瞬時に察した。けれどもそのワケについては違う解釈をしてしまったようだっ
た。
「あ、やあねえ、あたし。気にしないでね。深い意味は無くて、ちょっと勝手
にそう感じちゃっただけだから。比べたりもしてないのよ。変なこと言ってご
めんね」
俺は胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。謝らなければならないのは俺
の方だと思った。ジョニー以外の人とは殆ど経験が無かった俺は、いつの間に
か彼とのやり方が普通になっていて、それで無意識に同じ事をしていたから
だ。
本当のところ、涼子さんが、俺とジョニーの何を同じだと感じたのかは、聞い
ていないから分からないのだが、この時俺は「やり方」以外には思い付かな
かったのだ。
そして、無論言葉には出せないが、心の中で、
「悪いのは、ジョニーと同じキスしかできない俺の方なのに、誤解させてし
まってごめんなさい」
と言いながら、涼子さんの優しさに感激し、彼女を力強く抱いた。それをどう
いう意味に受け取ったかは分からないが、涼子さんも俺をぎゅっと抱き締め返
してくれた。
事が済んだ後、俺がベッドに腰掛けて煙草を吸っていた時、涼子さんは背後か
ら抱き付いてきて俺の肩越しに言った。
「ねえ、ホントに童貞だったの? 嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ。どうして?」
「何だか自然だったから。初めてとは思えないほど」
涼子さんにそう思って貰えたのはとても嬉しく、誇らしくもあったが、俺は
正直に言った。
「そうかな、結構必死だったけどな」
「そうは見えなかったわよ。普通はもっと……」
彼女がそこで言葉を切って暫く黙ったので、俺は先を促した。単純に、自分は
何処が違ったのか、知りたかったからだ。
「普通は?」
でも涼子さんは、また俺と誰かを比べていると思われた、と思ったのかもしれ
ない。あるいは別の理由かもしれないけれど、その先を言ってはくれなかっ
た。
「知らないけど、もっと大変なのかと思ったの。童貞の人と寝たの初めてだも
の。あたしだって緊張したのよ。そんなに経験豊富じゃないんだからね」
彼女は笑顔で、しかし、誰とでも寝る女だと思って貰っては困る、とでも言い
たげな目をして、頭で俺を軽く小突いた。
「ありがとう、涼子さん。ホントに感謝してる。俺、一生忘れない」
この程度のことしか言えなかったが、言葉では言い表せないくらい俺は感謝の
気持ちでいっぱいだった。彼女の仕種、言葉、目、全てが思い遣りに満ちてい
て、俺に自信を持たせてくれるものだった。本当は全然下手糞だったに違い
ない、と後に気付くのだが、涼子さんがこうして俺を自惚れさせてくれなかっ
たら、俺はそれこそ二度と女性を抱くことは無かっただろうと思う。
ちょっと神妙な顔をしてしまった俺に、
「なあに? もうこれっきりみたいな言い方しないで」
と涼子さんは笑ってくれた。
涼子さんとの二回目は、ノリコとの初体験の日の僅か数日後だった。何と彼女
の方から誘ってくれて、豪華なラブホテルに行った。俺にとっては、設備の充
実したその手のホテルは初めてだったので、大変興味深くはあったが、俺は
涼子さんとの二回目が実現したことだけでも夢のようで、その場所を活用する
ことには気が行かなかった。それでも雰囲気は味わえたので、決して無駄では
なかったのだが。
だからというわけではないが、三回目は涼子さんのマンションだった。ジョ
ニーのいない時、二人きりでいて、どちらからというのでもなく互いに何とな
くそういう感じになって、部屋でしてしまった。
その頃には、俺は以前とは別のアパートに移っていたが、涼子さんとジョニー
の住むマンションにも相変わらず出入りしていたのだった。
1980年の夏に初めて独り暮らしを始めた家賃二万の部屋から、更新時期を待た
ず1981年の11月に、もう少し交通の便の良い家賃三万の所に引越したのだが、
アパート自体は前と同レベルの依然フロ無しで、俺の生活は殆ど変わらなかっ
た。
但し、身体を洗う場所は増えていた。実家へこっそり帰ってシャワーを使うこ
とも続けていたが、涼子さんの所以外にも、バンド仲間や、バイト先の先輩な
ど、独り暮らしをしている人の所で度々拝借した。またノリコやコハラや他の
誰かと寝ることがあればその時にもシャワーを浴びることができる。(尤も自
分の部屋でもガス湯沸し器は付いているので部分的に洗うことはできたが。)
そうやって、フロ無しアパートに住みながら銭湯に全く行かずに暮らせたの
だった。
・・・つづく
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フィクション
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小説[凛ノ転性(仮題)]
不意打ち
咄嗟の出来事に、ただ突っ立ったまま、言葉も出ないでいた俺に、背後で彼女
が囁いた。
「ちょっと、どういう事? なんで鍵なんか持ってんの? まさか、あれアン
タの男?」
「……まあ、そんなとこ」
と答えるのとほぼ同時に、準備も何もする前に、
「おい、リン」
と少し怒った口調で上がり込んできたトオルと、俺は対面してしまった。だが
彼は俺を見るなりにこやかな顔になった。
「あれ? 君、もしかして、ランちゃん? ……あぁ、俺トオルです、今朝の
電話の。いや、すぐ分かったよ。そっくりだから」
「ラン? って、それ誰?」
彼女は俺の肩に手をかけて後ろから覗き見ながら小声で俺に訊いた。が、距離
的にトオルに聞こえないわけがなかった。
「お前の妹だろ?」
当然彼は俺ではなく、俺の姿をした彼女に話しかけた。
「妹!?」
「しっ、ちょっと、お前黙ってろ」
俺は殆ど息だけの声で彼女を制したが、それもトオルに聞こえていたに違いな
い。
「リン……? どうした?」
と怪訝そうに言う彼に、俺は電話の時と同じように妹として応対した。こう
なったらここは適当に遣り過ごしてしまうしかないと思った。
「あ、いえ、そうです。私、蘭です。どうも、はじめまして。あのー、すみま
せん、これには事情が……、えっと、兄は具合が悪くて」
「兄って……」
「今は何も言うな」
再び口を挿んできた彼女を俺はすかさず制した。トオルは彼女を見て言った。
「悪いって、どこが? 普通に買い物してたけど」
「私が頼んだんです、ワケ有って、今、着る物が無いから」
「頼んだって、具合が悪いリンに? どうして君が自分で買いに行かなかった
の?」
「それは……(確かにそうだよな)、あっ、こんな格好じゃ出られないし、
ノーメイクだし(とか、さっき言ってたよな)、それで仕方なく」
「ふうん、そうなのか。でも、元気そうに外歩いてたぞ。なあ、リン」
トオルがまた彼女に話しかけるのを俺は遮った。
「あー(意外にツッこむな)、その、カラダが具合悪いんじゃなくて……(そ
うだ、いい事思い付いた)、実は、兄は記憶喪失なんです!(これしか無い。
そういう事にしておけば一応は色々と辻褄を合わせられる)」
「ええーっ!? 本当に? そんな、どうして……。昨日まで何でもなかった
のに、一体何があったんだ、リン! じゃあ、俺のことも分からないのか?」
トオルの反応を見て、俺は安直な考えだったと後悔した。これは立て直す必要
が有る。だけど少し時間が欲しい。先ずは落ち着きたかった。
「待って、トオル、さん、落ち着いてください。分かりました。今、状況を説
明しますから、そこに座ってください。……えーっと、取り敢えず、お茶でも
入れますね」
・・・つづく
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TRANQUE 第90号 2009.06.30 発行(月刊)
発行者:佐藤充範 noveltreacle@gmail.com
ホームページ: http://www.geocities.jp/noveltreacle/
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