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葵マガジン*魔法野菜キャビッチ 5

発行日: 2008/9/13

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年9月13日号◆◇◆◇

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 私は我が脳内におけるドーパミンの大量一斉放出を感知した。
「ちょっと、坂本」ルルドールが横目で私を睨んだ。「あんたすごい、嬉しそ
うな顔してるわよ。いい加減にして」
「別に、嬉しそうな顔など」
「してるわよ。でもきっとそうね。これから始まる話はきっと、あんたが涎を
垂らして飛びつきそうなことよ。つまりとんでもないトラブルって事」 

●葵マガジン文庫
『スペースドライヴァー坂本』
http://aoi.peewee.jp/aomagabunko/sakamoto/sakamoto.htm

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         ◇◆◇◆魔法野菜キャビッチ◆◇◆◇

              第5話(全22話)


「お前たちは誰だ」どろどろした、気味の悪い声がそう訊ねる。
 そう訊かれても、私たちに答えられるわけがなかった。
「ひゃあああ」
「いやあああ」
 ただ、泣きべそ声を挙げるばかりだ。
「ちょうどいい」鬼魔は続けて言った。「ドードーさまに捧げる生贄にしてや
ろう」
 鬼魔は両手を私たちの方へ差し伸べた――その手は、何かの薬で溶かされた
みたいにどろどろのぐじゅぐじゅで、真っ黒くて、おまけに湯気まで発してい
た。
「きゃああああ」私たちの悲鳴はますますもって甲高くなった。
 けれど鬼魔はお構いなしに、片手に一人ずつ、私とヨンベをつかみ上げた。
 私は必死でもがいた。
 そしてその時初めて、自分がキャビッチを持っていたことを思い出した。
 私は迷わずに、それを鬼魔の鼻先めがけて思い切り投げつけた。
「うがああ」キャビッチはみごとに命中し、鬼魔は叫んで後ろにのけぞった。
 私はその手から、すとんと下に落とされた。
 急いで立ち上がったけれど、もうそこには鬼魔はいなかった。
 そして、ヨンベも。
「ヨンベ」私は叫んだ。
 ベベロナおばさんの家の中は、しーんと静まり返っていた。
 ――ママに、知らせなきゃ!
 私は入り口の方に振り向いた。
 するとそこには、一人の男の人が立っていた。
「!!」私の心臓はまた飛び上がって、脚はびくっとすくんだ。
 男の人――十八か十九歳ぐらいの人で、髪が長くて緑色で、ほっそりとして
いて――目が、赤かった。
 私は口をあんぐりと開け、瞬きもしないでその人をただ見ていた。
「ふうーん」男の人――人? いいや、それは鬼魔(キーマ)だ――は、腕組
みして片手を顎に当てて私を見下ろし、言った。「こんな子どもが?」
「え?」私は思わず訊き返してしまった。
「お嬢ちゃん」男の人は、にっこりと笑った。「キャビッチスローを、誰に教
わったんだい?」
「――ママ」私は糸のように細っちい声で答えた。
「ママの名前は?」男の人の眼が一瞬光ったのを、私は見逃さなかった。
「――」私は、答えてはいけないような気がした。
「もしかして――ガーベラ?」男の人はその名を口にした。
「ううん、それはおばあちゃん」私はつい正直に答えてしまい、それからはっ
と口をつぐんだ。
「おや、そうなんだ。君はガーベラの、お孫さんなんだね」男の人は眉を吊り
上げて、了解したという風に頷いた。「なるほどなるほど、道理でゴーブの鼻
を打ち砕く力を持つわけだ。でもねえお嬢ちゃん」それから――
 男の手が突然、私の喉をつかんだ。
 こめかみが膨れる感じがして、私はぎゅっと目を瞑った。
「悪いけど、君には死んどいてもらわないとね」
 男は指先にほんのわずか力を込めた。
 死ぬ。
 そう感じた時。
 ゴツッ、と音がして、男の手が私からふっと離れた。
 ハッとして目を開けると、さっきまでカッコつけてたその鬼魔は、白目を剥
いて口をぱかっと開けて、みっともなく気絶していた。
「ポピー」母の叫ぶ声がしたかと思うと、私はぎゅっと抱き締められた。「ケ
ガはない?」
「う」私は、締められていた首をさすって、ゲホッと咳をした。「ケガはない
けど……死ぬところだった」
「ああ」母はおろおろ声を出し、私の首を撫でた。「なんてことを」眉をしか
め、首を何度も振る。
「ヨンベが」私は改めて、起こったできごとを思い出した。「すごく気味の悪
い鬼魔がいて、ヨンベをさらっていっちゃったの」
 私たちと一緒に引きずり込まれてなくなった窓のところから、大人の男の人
たちが次々に入ってきた。同時に、玄関のドアの鍵も壊され、そこからも大人
たちがやってきた。
 中には、ヨンベのおじさんとおばさんもいた。
「おじさん」私は、泣きべそ顔になってしまった。こんなところに、来なけれ
ば――「ごめんなさい。ヨンベが」
「いや」おじさんは、とても辛そうな顔をした。「私がちゃんと、言っておけ
ばよかったんだ――ベベロナの家には来るなと――君たちがこっそり覗きに来
ることまで、予測しておくべきだった――君が無事だっただけでも、よかった」
 私の目から涙が溢れた。怒られるよりも、優しくされる方が辛いときもある
んだと、このとき痛いほどわかった。
 気絶した鬼魔はロープでぐるぐる巻きにされた。そいつの左眼の横には、赤
黒い痣ができていた。母のキャビッチがそこに当たったのだ。
「相変わらずすごいな、フリージアのキャビッチスローは」鬼魔を運び出しな
がら、ショーンおじさんが笑った。
「ほんと、大したもんだよ」鬼魔の足の方を持ったジョバンニおじさんも、そ
う言った。
「あの鬼魔、どこに連れて行かれるの?」私は母に訊いた。
「裁きの陣に、連れて行かれるのよ」母は相変わらず私を抱き寄せたまま、答
えた。「ルドルフ祭司さまが、神のお告げを伝えて下さるわ――それからあの
男が、海に流されるか、生贄とされるかは、わからないけど」
「生贄――」私の心臓が殴られた。ヨンベ。
「ヨンベを助けに行かなくちゃ」私はがばっと、母から身を離した。「ドード
ーの生贄にされちゃう」


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v

            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

ヘッダに、ひさっっしぶりに「スペドラ」の宣伝を載せさせていただきました。
今でも、たまにお買い上げ下さる読者様がいらっしゃるということが、本当に
ありがたい限りです。

ぜひともお応えをしてばしばし葵マガジン文庫を出していきたいなぁ……と願
う気持ちは胸いっぱいに占めているのですが、現在わたくし葵は、産業カウン
セラーという資格を目指して、勉強中の身なのであります。

上の「スペースドライヴァー坂本」をちらりとお読みいただけるとおわかりか
とも思うのですが、わたくし「産業」「企業」「社会」というものどもが大変、
「スキ」であります(←他に言葉を思いつきません……)。

なので、本作りたいけれども、今はお勉強の方に、少しだけ、時間と費用と、
キモチとを、傾けさせていただきたく、わがままにも求めていたりするのです。

でもいつか、そうきっといつか、『スペースドライヴァー坂本』に続く、

         ◇◆◇◆葵マガジン文庫◆◇◆◇

を出していきたいと思いますので、どうぞご期待くださいませ。

ご購読、本当にありがとうございます。お風邪めしませぬよう。

*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v

           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
         http://murasaki.aoi.peewee.jp/

*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v
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