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◇◆◇◆葵マガジン 2008年8月9日号◆◇◆◇
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今までのお話はこちらでお読みいただけます☆
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◇◆◇◆魔法野菜キャビッチ◆◇◆◇
第2話(全22話)
「んーと、あたしは五個」
「えーっ五個もお!? いいなあー、いいなあー」ヨンベは大声を出して、本気
で私のことをうらやましがった。
「でもでも、何に使うかっていうのは、厳しく決められてるよ」私は慌てて弁
解した。「今は“投げる”か“食べる”しか、ダメなの」
「ああ、そうなんだ」ヨンベの表情は、今度は私への同情のようなものに変わ
った。
同情――ってことは、やっぱり、十二歳でまだ“投げる”と“食べる”しか
させてもらえないなんて、遅れているってことなんだ。これは帰ったら早速、
母に抗議しなければならない。私は頭が、かーっと熱くなるのを感じた。恥か
しいのと、母への怒りのせいだ。
「えー、ヨンベは、キャビッチをどう使うとこまで、やらせてもらえるの?」
私は恐る恐る聞いた。
「今はもう“煮る”のも“植える”のも、やってるよ」ヨンベはたぶん、それ
が自慢に聴こえないように注意しながら言ってくれたんだろうけれど、それで
も私は充分すぎるほど、床にたたきつけられた。私は、というか、私の心は、
だ。
「ふええ」私の口からは勝手に、情けない声が洩れて出た。「いいなあー」
「でもでも、全っ然うまくない」ヨンベは手を振り、眉を八の字にして苦笑し
た。「まだ、十二歳になってから始めたばっかりだし……それに、なんせ週に
三個、までだし」
「ねえ、それで“芽”は、出たの?」私は気を取り直して、ヨンベの植えたと
いうキャビッチの様子を訊ねた。おべっかのつもりではなく、本当にそのこと
に興味があったのだ。
「うふふ」ヨンベは、気をもたせるように含み笑いをしてから答えた。「出た
よ」
「えーっ! ウソー!」私は叫んだ。「見せて、見せてえ! ねえお願い」
「うん、いいよ」ヨンベはさっと立ち上がり、私を連れて階下へ降りて行った。
キャビッチ畑から少し離れたところに、ヨンベは自分専用のプランターを置
くことを許されていた。
本当に、なんて寛大なご両親なんだろう。私は心底、ヨンベがうらやましか
った。
そしてそのプランターの土の真ん中に、黄緑色の、小さな“芽”が、吹いて
いた。
「うわあー……可愛い」私は感激した。
「二十日目で、やっと出たんだ」ヨンベは、ちょっと不満そうに、でもやっぱ
り愛しそうに、そう言った。「遅いでしょ?」
「そんなことないよ」私は首を振った。「だって、初めて“植えた”んでしょ?」
「んとねえ、実は二回目――最初のは、腐っちゃった」ヨンベは白状して、舌
をペロッと出した。
「ああ、そうなんだあ」私は残念そうに答えたが、そのこともやっぱり、私に
はうらやましかった。もう、二回も“植えた”んだ……「難しい?」
「うん、難しい」ヨンベは少し表情を引きしめた。「最初はとにかく、セレア
の水をたくさんやらないといけないの。でも、そのキャビッチごとに、好きな
水の量って、違うのね」
「えっ、そうなの? ひとつひとつ?」
「そう」ヨンベは頷いた。「だから、様子を見ながら、少しずつ増やしたり、
減らしたり――父さんは"キャビッチと会話しながら"水の量を決めていくんだ
って、言ってた」
「すごい」私は囁いた。本当にすごい。私なんて、そんなことちっとも知らな
かった。ひとつひとつのキャビッチで、与える水の量が違う、なんて。ヨンベ
が、すごく大人に見えた。それに引きかえ、私は――
「はあ……」思わず、ため息が出た。
「たぶんポピーもすぐに、植えさせてもらえるわよ」ヨンベは慰めてくれた。
「そうかなあ……いや、うちのママはたぶん、させてくれないよ」私は暗い声
で、否定した。
「えー、なんで?」
「だってうちのママったら、魔女の癖に魔法攻撃より物理攻撃の方が好きなん
だもん」私がそう言うと、ヨンベはあはははは、と明るく笑った。私自身も、
改めて母のことを"ヘンな魔法使い"と思い、なんだか可笑しくなってあははは
は、と笑った。
笑いって、不思議だと思う。 ほんの少しの間、ヨンベと一緒に笑ったとい
うそれだけで、私の心はなんだか明るく、軽い感じになったのだ。
「でも確かに、うちの父さんも言ってたよ、ポピーのお母さんのキャビッチス
ローに叶うダガー類はいないって」
「えー、そうかな」
「うんうん。もしかしたら最高レヴェルのニイ類だって、よけきれないかもっ
て」
「それは誉めすぎだよぉ」私はくすぐったくて身をよじった。
でも心の中では、嬉しかった。
私の母は本当に、キャビッチを投げて鬼魔(キーマ)を倒すそのテクニック
とパワーにかけては、村一番と言われている。
考えてみたらだからこそ、彼女は私にも基本としてキャビッチを“投げる”
ことを、とことん覚えさせようとしているのだろう。
でも、私に母ほどキャビッチをうまく"投げる"力が、あるんだろうか?
「おお、ポピー、いらっしゃい」その時、キャビッチ畑の方からだしぬけに、
ヨンベのおじさんの声がした。
「あ、おじさん。こんにちは」私はヨンベの頭の上から顔をのぞかせて、あい
さつした。「ヨンベのキャビッチの芽を、見せてもらってたの」
「そうかい。可愛いのが出てるだろ?」おじさんはにっこりした。ヨンベも嬉
しそうに笑った。「うまく育つといいんだけどね」
「“復活の実”って、いつ成るの?」私はきいた。キャビッチは、土に“植え
て”正しく育てると、復活の実をつけるのだ。
「うーん……」おじさんは笑った顔のまま、ヨンベをじっと見た。「それは状
況と、ヨンベのがんばり次第だけど」
「あたし、最高がんばる」ヨンベはおじさんを睨みつけるように見ながら、大
声で言った。「最高がんばって、一番早くつくとしたら、いつ?」
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
皆様はこの夏、花火をご覧になりましたでしょうか。
わたくし何年振りかに、ほんのさわりだけ(?)駆け足状態で、見ました。
それでも大きいのが上がると思わず拍手してしまうんですね。駆け足しながら。
今はとにかく「忙しい」のひと言に尽きる毎日ですが、いつかまた、浴衣着て
団扇パタパタしながらビールと焼き鳥を手に(手何本あるんだ)、ほとんど真
下からでっかい花火を見上げて「たまやー」とか叫べる日が来ることを信じ……
駆け足はつづくのであります。
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それでは次回をお楽しみに。
発行者:葵むらさき
aoi@xi.peewee.jp
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