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◇◆◇◆葵マガジン 2008年8月2日号◆◇◆◇
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今までのお話はこちらでお読みいただけます☆
ケータイ書庫-BooksLegimo(ブックスレジモ)-
http://blegi.jp/
(「葵むらさき」でご検索ください)
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◇◆◇◆魔法野菜キャビッチ◆◇◆◇
第1話(全22話)
「もおおおおう」私は、叫んだ。「やだあああ。もおおおおう」
「ええー?」ハサミを持った母は、手鏡の中で眉毛を八の字にして笑っている。
「でも、かわいいわよ?」
「もおおおおう」私はまた叫んだ。「あたし、肩につくぐらいに切ってって、
いったのよ」それから、たった今切り裂かれたばかりの髪の切断面と、自分の
肩の間に、手刀をスパスパと差し入れて見せた。「ついてないじゃん。スカス
カ開いてるじゃん」手鏡に映る私の眉毛——これも、たった今切り落とされ"す
ぎた"前髪の下で、恥かしくも丸見えになっている——は、母のそれとほぼ対称
の形を成している。つまり、怒りに逆立っているってことだ。
「ええー? ついてるわよう」母は苦しまぎれに、大ウソ開き直り作戦に出る
つもりだ。
「はあ? どこがよ?」私は、首をぐりんっと左に九十度向けた。
「あほらほら、今ついてる」母は、私の肩に"辛うじて"触れた左サイドの髪の
束を、逃すものかとばかりに引っつかんで必死に訴える。
「こっちはどうなのこっちは」私だって負けてはいない。反対側の肩と髪の間
をスパスパやる。もう十二歳だもの。ごまかされる、もんかー!
「でもでも、かわいいって」母は今度は"かわいいわよ作戦"に切りかえた。
「髪なんて、すぐまた伸びるし」
「もおおおおおう」私はみたび叫んだ。「ママったらいっつも切りすぎるんだ
から。なんでそうなの?」
「なんでなんだろうねえ〜」母は大きな、ダボン鳥の尾の羽ぼうきで、私の顔
や肩についた髪の毛を払い落としながら首をかしげた。
母のその疑問だけは、嘘いつわりない本物だ。
つまり母は、いつもいちおう、私の注文通りの長さに切るつもりで、私の髪
を切りはじめる。
けれど切り終わってみると、なぜかわからないが、私が頼んだ長さより必ず
五センチ短いのだ。
「誰かがママに、魔法をかけてるんじゃないの?」私は両腕を少し持ち上げて、
あいかわらず不機嫌な声で言ってみた。
「う〜ん」母は、おつき合いで唸ってみせた。「そういえばこの前、ベベロナ
がいいキャビッチを手に入れたって、喜んでたっけ」
「えーマジ?」私はびっくりして振り向いた。もうその瞬間には、惨めな姿に
なった自分の頭部のことは忘れ去ってしまっていた。「まさかほんとにそれで、
魔術を?」
「あはははは」母は、心底おかしそうに笑った。
「何がおかしいの」私は口をとがらせた。せっかく人が、すこーしだけ心配し
てやってるのに。
「だって、ベベロナだよ」母は、必要以上に目をむいて私に顔を近づけた。
「あいつが何したって、たかが知れてるさ。キャビッチを、投げようが、煮よ
うが、植えようが」
「まあ、ね……」私はちらっと上を見て、納得した。確かにベベロナおばさん
の魔力では、どんなにいいキャビッチが手に入ろうと、それを有効に活用する
なんて無理だろう。
結局母がいつも私の髪を切りすぎる理由は、彼女が「下手糞」だからってこ
とだ。
私は荒く溜息をつきながら、ツィックル箒にまたがった。
ツィックルの木でできたこの箒は、とってもツルツルしていて、握り心地が
好い。私のお気に入りだ。
私は、ヨンベの家まで飛んで行った。
遊ぶ約束をしていたのだ。
髪が切られすぎたとしても、友達との約束は大事だ。
それにヨンベは、私の悲惨な髪型を決して笑ったり、下から払い上げたりし
ない。
「やっほーう、ポピー」ヨンベは彼女の家の二階の窓から手を振ってくれた。
「やっほーう」私も返しながら、彼女の部屋にするりと飛び込んだ。
「あれえ、髪、切ったのね」
「もうさあ! 聞いてようちのママ!」
私はさっそく、ヨンベにひとしきり不平をぶちまけて、ヨンベのおばさんの
箒が運んできてくれたプィプリプの実クッキーを頬張った。
「あははは、でも可愛いってほんと」ヨンベは私を前から見たり後ろから見た
りして、そうほめてくれた。
やっぱり、持つべきものは優しい友達だ。
私はクッキーを口にくわえたまま、窓からヨンベの家の庭を見下ろした。
「ねえ、もうキャビッチは収穫してるの?」食べながらヨンベに訊く。
「うん、昨日からね。でも父さんが、あんまりよくないって、ぶつぶつ言って
た」
「えー、そうなんだあ」私は同情した。それから、母の言っていたことをふと
思い出し、振り向いた。「ねえそういえば、ベベロナおばさんが、いいキャビ
ッチを手に入れたって、聞いた?」
「ベベロナおばさんが?」ヨンベは目を丸くした。「へえー、初耳」
「うちのママが言ってたの」
「いいキャビッチかあ……でも」ヨンベは言いかけて止まった。何を言いたい
かは、わかる。私は吹いた。
「まあ、ベベロナおばさんだし」私たちは笑い合って、頷き合って、構わずク
ッキーを頬張り続けた。
「あーあ、あたしもキャビッチ、欲しいな」少しして、ヨンベがそう言った。
「えー?」私は笑った。「だってお庭に、あんなにたくさんあるじゃない」窓
から下を指差す。
「あれは……父さんのだもん」ヨンベは口を尖らせた。「あたしには、自由に
使わせてもらえないもん。一週間に三個までって、決められてるし」
「あ、そうかあ」私は、口に運びかけていたプィプリプマーマレードクッキー
を止めた。「でも、あたしもそうだよ」
「そう? 一週間に三個?」
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
今週号から新連載『魔法野菜キャビッチ』をお届けします。
これはもう、児童文学、といっていいかと思います。
着想を得たのも、わたくし葵の実の娘が小学校低学年の頃、親子でゲームをし
ていた時のことでした。
「世界観の説明不足」が葵むらさき作品の欠点であるという定説(?)にもれ
ず、この作品も、ちょっと設定がわかりにくいかも知れません。
とりあえず舞台は、現代地球ではない、とだけ、ご説明申し上げておきます。
(ううむ説明不足だな……)
それにしても、暑いです。わたくしこの夏、生れて初めて「日傘」というもの
を使用しはじめました。
バスを待つ間とかにも、立ったまま本が読める優れグッズですよ♪(多少、注
目はされるかもですが)
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それでは次回をお楽しみに。
発行者:葵むらさき
aoi@xi.peewee.jp
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