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◇◆◇◆葵マガジン 2008年6月21日号◆◇◆◇
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今までのお話はこちらでお読みいただけます☆
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◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇
第28話(全32話)
“統合者”、現れる 2
「わっ」
「きゃっ」
舞子と遥香は、真央子を挟んでしがみつき合った。
かたかたかたかた……
急須は、まだ震えている。
何秒か経った。
急須の震えは、ようやくおさまった。
しかし舞子と遥香は、お互いに掴み合ったまま離れることができずにいた。
出てくるのだ。
ついに、出てくるのだ。
第五の、人格が。
緊張と静寂の、数秒。
「こんにちは」急須が喋った。
誰も、返事をする者はいなかった。
「こんにちは」急須は、蓋をぱくぱくさせてくり返した。「ぼく、急須くん
です」
子供の声だった。
いや、それは必ずしも急須が「子供である」ことの証とはならず、ただ急
須の話す声が舞子たちの耳には、地球人の子供、四、五歳ぐらいの幼児のそ
れのように聞こえたというだけだ。
舞子はいつの間にか、遥香の体から手を離していた。
きゃきゃきゃ、と、真央子が楽しそうに笑った。目をキラキラさせて、喋
る急須を凝視している。よほど興味をそそられたのだ。
「ぼくは"主"さんとお話をするために出て来ました」急須は――急須くんは、
愛らしい声でそう言った。
「それではあなたが」"主"は、別段驚いた風でもなくごく普通に、この状況
を受け止めていた。「その急須の"統合者"なのですね?」
「えっ?」舞子は驚愕の唸り声を挙げた。
「急須の統合者?」遥香も続いた。
「きゅうしゅくん」真央子が、母親に抱かれたまま床の上の急須に小さな両
手を伸ばした。「きゅうしゅくん」
「はい、そうです」急須くんは答えたが"主"に答えたのか、それとも真央子
に答えたのか、舞子には一瞬わからなかった。
「そうですか」"主"は伏せがちの目を一回ゆっくりと瞬きした。「ありがと
う」穏やかな――微笑を含んでさえいる、声。
「舞子さん」急須くんは舞子に呼びかけた。
「えっはい」舞子の体はびくっと緊張した。
「すみませんが、ぼくを持ってもう少し"主"さんの近くへ移動していただけ
ませんか。あんまり離れて話というのも、何だか妙ですから」
「み」妙なのはあんたよ、と言いそうになった舞子は、ぐっとその言葉を呑
んだ。
そして彼女は、仕方なく急須くんを持ち上げた。
「あ、まおたんもちゅ。あ、あ」とたんに真央子が両手を伸ばしてそれを所
望しはじめた。
「だ、だめよまおちゃん」遥香は慌てて娘を急須くんから遠ざけようとした。
「いやあん」真央子はぐずった。「まおたんもちゅー。きゅうしゅくんもち
ゅー。もちゅー。うあああ」
「あ、ぼくはかまいませんよ」急須くんは言った。「よろしければどうぞ、
娘さんに持たせてあげて下さい」親切な着ぐるみショーのお姉さんのようだ。
「え……」遥香は目の下をひくつかせて迷っていたが、その間に真央子は舞
子の手から急須くんをひったくった。
「さあ、では」急須くんは、遠足にでも行くかのように楽しげに先を促した。
「"主"さんの元へ」
舞子たちは、恐る恐る歩を進めた。
"主"は、床の上を見ていた。
"主"から三メートルばかりのところで、舞子たちは立ち止まった。
「"主"さん」急須くんはさっそく切り出した。「あなたが、思念ビームを発
射することなく、地球人と会話をするために編み出した方法って、どういっ
たものなんですか?」
「それは――」"主"は答えようとしたが、なぜか口を(というか思念を)つ
ぐんでしまった。
「それを言えば、遥香さんが怒り出すとお思いなんですか?」急須くんは、
小学生が社会科見学先の工場の職員に質問するような口調で訊ねた。
「え? 私が?」遥香は驚いて、娘真央子が上下する不思議な蓋をつまもう
と無心に試みるその急須を見下ろした。
「遥香さん」急須くんは遥香に言った。「これから"主"さんが何を告白しよ
うと、決して気分を悪くなさらないでくだ――あががが」急須くんは突然苦
しみ出した。真央子がついに、その蓋のつまみをつまむことに成功し、誇ら
しげにその蓋を母の目の前に差し出したのだ。「顎が、顎が」急須くんはわ
めいた。
「あっまおちゃん、だめ」遥香は慌てて真央子の手から蓋を取り上げた。
「急須くん、いやだって。痛いって」少し恐い顔で言い、元に戻す。真央子
はぐずぐずと不平を唱えた。
「す、すみません――ごめんね真央子ちゃん"主"さんとお話すんだら、遊ぼ
うね」急須くんは真央子に謝って、先を続けた。「遥香さん、憶えておいて
いただきたいんです――"主"さんは、ある方法で今までぼくたちと話をして
きましたが、そのやり方はたぶん、ある意味あなたにとっては許しがたいも
のかも知れません。けれどそのやり方のおかげで、ぼくたちは無傷で"主"さ
んとコンタクトが取れる――あなたも、真央子ちゃんも、無傷で。いいです
か、"主"さんは真央子ちゃんに決して苦痛を与えたりはしなかった、という
ことです」
「何、つまりは真央子を使ってどうにかしたってこと?」遥香は鋭い声で訊
き返した。
「そうです」急須くんは弾むように肯定した。
次の瞬間、遥香の手が――真央子のでなく――急須くんの蓋をつまんで天
井高く持ち上げていた。
「あがががが」急須くんはわめき散らした。
「はっ、遥香さんっ」舞子は慌てて、遥香の手からその蓋を取り上げた。
「急須くんが何かしたわけじゃないんだから」
「そうね」遥香は冷静だった。「とりあえず"主"さんの話を聞きましょう」
冷静なだけに、その答えは恐ろしかった。
「私たちブライド人は」"主"は、静かに話しはじめた。「つまり私の中の人
格たちは、地球への移住という目的のために、地球人類の体の仕組みを調べ
ました。けれどどうしても、私たちの思念ビームで地球人を傷つけなくても
すむ方法は見つからずにいた――そこへ真央子さんがこの星に連れてこられ
たのです。私たちは真央子さんの生物学的な機能を調べている時に、ある発
見をしました」
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
また配信遅くなりまして、誠に申し訳ありません。
いろいろと思案した結果、ネットでの小説活動をこの『葵マガジン』一本に絞
ることとしました。
で、今まで連載してきた作品群を、ブックスレジモの方へまとめて置いておこ
うと思います。
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携帯でも、パソコンでも閲覧可能です。もちろん、無料です♪
「おお、懐かしいナ」と思ってくださる方も「おお、こんなのあったんや〜」
と思ってくださる方もいらっしゃったら嬉しいです。
えー、今号もまた配信遅れたりして、まったくいたらない筆者ですが、今後と
もどうぞよろしくご愛顧いただけたら本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
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それでは次回をお楽しみに。
発行者:葵むらさき
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