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葵マガジン*多重人格の急須 26

発行日: 2008/5/31

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年5月31日号◆◇◆◇

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孤独を抱えながら日々を送る智美には「クスリ」という逃避手段があった。
自分の記憶の中に眠る、かつての甘美な思い出……夢の世界……

だがある日、「夢」はいつもと違っていた。
今までに見たこともない、錯綜した、淫靡で邪な世界。
そしてその世界で、智美は信じ難い人物と遭遇するのだった──

現代ダークファンタジー
「The Baesty Angel」(作/葵むらさき)
連載中! ※18禁

ケータイ書庫-BooksLegimo(ブックスレジモ)-
http://blegi.jp/

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          ◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇

              第26話(全32話)


              舞子、使役する 6


「それに、どうせやつらは幻みたいなもんだし」木多丘は言葉を続けた。
「幻――」
「そそ、あの“主”ってやつの中の、分裂した人格ってのか? よくわからん
が、要するにあいつら全部を叩きのめしたって“主”が死ぬわけじゃない」
「――そか……」
 舞子の中に、やっと真実の仕組みというものが溶け込んできた。
“ブライド人”というのは結局“主”一人なのだ。
 彼ただひとりが、この惑星ブライドに真実に生きる、ブライド人なのだ。
「けど――それで、いいのかな……本当にあいつらを、やっつけても?」
「それにさ、あいつらを叩かないと“主”が起きないでしょう」木多丘はさら
に言った。「なんかね、もっかい“主”と話す必要があるって、言ってんのよ」
「え? 誰が?」舞子は訊ねた。「優美さん?」
「いや“制御”じゃねえ」
「じゃ……大石くん?」
「うんにゃ、先生坊主でもねえ」
「先生坊主?」舞子は爆笑した。「あはははは! 傑作! 座布団一枚!」
「それじゃまさか正吾が“主”に?」遥香も苦笑しながら訊ねた。
「いや、エロ――」木多丘は言いかけて、はっと口をつぐんだ。
「何?」遥香はぎろりと木多丘を睨んだ。「エロなんだって?」
「い、いや正吾でもねえ」木多丘は空に視線を向けてすっとぼけた。
「ばか、ひろみちゃんはー」舞子は木多丘のもりもりとした上腕を叩いた。
「まあいいけど」遥香は口でそう言い、目では相変わらず木多丘をねめつけな
がら、質問を続けた。「でもじゃ、誰? まさか――急須の中には、あなたた
ち四人の他にも人格が存在してるの?」
「いや――俺にも判らねえ」木多丘は首を傾げた。「俺も、うちには四人しか
いねえと思ってたんだけどな」
「な、何よそれー」遥香は気味悪そうに声を震わせた。
「えー、誰なんだろ?」舞子の方は気味の悪さより、未知の“人格”への興味
が強かった。「んでその“人”が“主”と話したがってるのね?」
「そう」木多丘は答えた。
「っていうかそれってまさか“主”がいつの間にか急須の中に入り込んでるん
じゃないのお?」遥香がなお一層恐る恐るに発言した。
「え――」その意見には、さすがに舞子もぎくりとした。
「だってさっき、私が急須の統合者になりましょうとかなんとかって言ってた
じゃない」
「うえ」舞子は顔をしかめた。「そうなの? ひろみちゃん」
「いや、だからわかんねえって――でも“主”本人ならなんで“主”と話して
えなんて言うんだ?」
「あ、そっか」舞子は簡単に納得した。
「そんなのわかんないわよ」しかし遥香の方は飽くまで疑い続ける。「あんな
わけのわかんないエイリアンだもの、自分が急須の中にいたって、急須の外の
自分と何か話す必要だって、あるのかも知れないじゃない」
「遥香さんの話の方がわけわかんない……」舞子はぽつりと呟いた。
「ま、とにかくそういうわけで、ちっと叩いてくらあ――こっから下手に動く
なよ。結界解けるから」
 木多丘はそう言い残して、上空に跳び上がった。
 ばりばり、と、高圧電流が流れるかのような音がし、次の瞬間木多丘は“膜”
の外へ脱け出ていた。彼はエイリアンたちを引きつけるべく“膜”から数メー
トル隔たった場所に着地した。
“膜”を取り囲んでいたエイリアンたちは一斉に木多丘を振り向き、雪崩のご
とくそちらへ向かっていった。
 木多丘の姿は、エイリアンたちに呑まれて見えなくなった。
「ひろみちゃんっ!」舞子は悲鳴を挙げた。
 エイリアンたちは、木多丘を囲むその輪を縮めてゆき、しまいには文字通り
の黒山と化した。
 そして舞子たちが息を呑んで見守る中、その黒い山はずぶずぶと土中に沈み
込んでいった。
「たちけて」
 その時、遥香に抱かれた真央子が、くわえていた指を離してそう言った。
「大丈夫よ、まおちゃん」遥香は真央子の頬に鼻をくっつけ、優しく囁いた。
「今、木多丘くんがこわいの全部やっつけてくれるからね」
「たちけて」真央子は、別段恐がっている風でもなしにくり返した。「こわい
って」それから、膜の外に向けていた目を母に戻す。「ママー、こわいって。
たちけてって」
「え?」遥香と、そして舞子も小さな女の子を見た。
「たちけてって」真央子はさらに言い、小さな人差し指を膜の方に伸ばした。
「ええ?」舞子たちはまた外を見た。
 黒山はずんずんと地に引き込まれていくが、何も聞こえない。
「だ、誰が?」遥香は真央子に訊いた。
「まさかひろみちゃ――」舞子の声はかすれた。
「カメ」真央子は鈴の音のような声で答えた。「カメのひと」
「はい?」遥香は眉をしかめた。
「カ、カメの人? ――って――まさか、あの、エイリアンのこと?」舞子は
エイリアンの築く黒山を、目を凝らしてよく見てみた。
 エイリアンたちの手や足がその山のところどころから飛び出し、宙を掻くよ
うにもがいている。
 舞子はそのグロテスクな光景に、口を手で押えた。
 エイリアンたちはどうも、その山から離れたがっているように見えた。
 そのために、もがいているのだ。
 つまりあの山は、エイリアンたちが自発的に築いたものではなく、木多丘が
エイリアンたちを何らかの力――魔法で引き寄せて作ったものなのだ。
「まおちゃん――あの、カメみたいな人たちの言ってること、わかるの?」遥
香は娘に問いかけた。
「うん」二歳の娘は淀みもせず頷いた。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

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やつらは「何か」に取り憑かれている──
オムニバス・ホラーコメディ
「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」(作/葵むらさき)
連載中!

おりおん☆
http://de-view.net/pc/

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

ヘッダでもお知らせいたしましたが、このたび携帯小説サイト

ケータイ書庫-BooksLegimo(ブックスレジモ)-
http://blegi.jp/

にて、現代恋愛ダークファンタジー
「The Baesty Angel」

の連載を開始いたしました。
性的描写がありますので、18歳未満閲覧禁止と設定させていただきました。
どうぞ悪しからずご了承ください。

お読みいただくには上記サイト内「SF・ファンタジー」カテゴリよりお選びい
ただくか、または「葵むらさき」などでご検索いただくとよいかと思います。

ぶっちゃけエロですが(それも女視点の)、全体的にいつもながら葵むらさき
的妙世界の意味不明展開が散りばめられている作品です。

と、そんな宣伝してこんなことを言うのもあれかもですが、ぜひお楽しみ下さ
いませ。
よろしくお願いいたします。

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
         http://murasaki.aoi.peewee.jp/

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