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◇◆◇◆葵マガジン 2008年5月17日号◆◇◆◇
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やつらは「何か」に取り憑かれている──
オムニバス・ホラーコメディ
「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」(作/葵むらさき)
連載中!
おりおん☆
http://de-view.net/pc/
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◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇
第24話(全32話)
舞子、使役する 4
「とてつもない規模よね」優美は優雅に腕組みをした。「一体何人の“人格”
たちがいるのかしら」
「わずか百二十万と千二百四十六人ばかりです」“主”は細々と答えた。
「わずか?」と遥香が呟いた。
「それが全部、同一人物?」舞子は訊いた。「この“主”が操ってるってわ
け?」
「彼らは好き勝手に生きています」“主”は穏やかに答えた。
本当にその声は、心の平静を取り戻したことを感じさせるもので、まるで優
美に正体を看破されたことで安心したように思われた。
「彼らは基本的に“私が眠っている間は”いつでもどこでも――この時空間の
いかなる座標上においても、自由に現出し、行動できます――単独でばかりで
なく、仲間の、つまり他の人格と連れ立って行動することさえできるのです――
そして私は、統合者として」“主”はその時、ほんの少し目を上方に戻した。
「行き過ぎた行動を取った人格を抹殺する力を持っています」その瞳から光条
が出て“主”の前の床を焦がした。
舞子はびくりと後ずさりしたが、彼女たちには何ら影響はなかった。
しばしの間、静寂が訪れた。
「さてさて」やがて優美が皆への語りかけを再開した。「私たちがここへ来た
目的は、まず真央子ちゃんを救出することだった――これはもう終ったからい
いわよね?」舞子を見る。
「うん」舞子は頷いた。
「それからエイリアンたちの“主”に会って、二度と地球へ来ないという約束
をとりつけるんだったわね」
「う、うん」舞子は少し詰まったが、やはり頷いた。
「そして、約束を破ったら――つまり地球へもし来たら痛い目に会うぞって脅
してもいいと、そういうことだったわね?」
「――」舞子は、ひ、と息を呑んだ。「そ、そ、それは」
「“主”よ」優美は“主”に向き直った。「わが主人舞子さまはかようにおっ
しゃっている。痛い目に会いたくなくば、二度と地球へは近づかぬがよい」
「ひい――」舞子は、真央子を抱く遥香にしがみついた。「ゆ、優美さん、何
てことを」
「あらだってあんたがそういう指令を下したのよ」優美は目を剥いて舞子に振
り向いた。
「そ、それはそうだけどだって」
「さあ“主”」優美はハスキーボイスを張り上げ“主”を指さした。「約束せ
よ。返答如何によっては攻撃も辞さぬぞ」
「ひい――」
「こわっ」
舞子と遥香はいよいよ、真央子を間に挟んで固くしがみつき合った。真央子
は不快げにつぶらな黒い瞳の上の眉をしかめた。
“主”は沈黙を守っていたが、やがて舞子の耳に、ちりちりちり、という、夏
の風鈴の鳴るような音――それを、ごくごく小さくか細くしたような音――が
届いた。
何の音だろう、と舞子は思い、そっと遥香を見た。
遥香も訝しげな表情をしている。
「私の返答はすでに差し上げたはずです――それとも私が心変わりして要求を
取り下げたとお思いになっているのですか?」
ちりちりちり。
また音がした。
「すでにあなた方が勝っているとでも?」
ちりちりちり。
舞子は“主”を見た。
この風鈴の音は“主”が立てているものらしい。
「何が可笑しいのかしら」優美は微笑を浮かべて問いかけた。
「――可笑しい?」
「あれって……笑ってるの?」
舞子と遥香は囁き合った。
“主”を振り向くと、深い皺の奥の瞳は伏せられたままだったが、心なしかそ
こには“笑いの光の粒”が宿っているようにも思えた。
“主”は、笑っているのだ。
しかしそれは、幸福に満ちた笑いでは、決してなかった。
それは、か細いけれどもよく聞けば“凄味”のある笑い声だった。
“主”は、決して友好の情を持ってはいない。
舞子はそう確信した。
「私を傷つけたいならば、そうなさい」
“主”はそう言い、伏せていた目をおもむろに上げて舞子たちを見た。
舞子は光線が放たれるのだと直感した。
しかしそうではなかった。
“主”は顔を真っ直ぐ前方に向けたまま、その瞳をゆっくりと閉じた。
「――?」
「何?」
舞子と遥香は、不安の声を挙げた。
「彼は、眠りに入ったわ」優美が答えて言った。「人格が、閉じられた」
「えっ」
「眠ったの?」
とたん、舞子たちの周囲に、あたかも陽炎が立つように、無数のブライド人
たちの姿が現れた。
「あっ」
「きゃあっ」
舞子たちが悲鳴を挙げるのと、プライド人たちの目から殺人ビームが射出さ
れるのと、優美と入れ替わって出てきた木多丘が舞子たちの周囲に“膜”を張
るのとが同時に行われた。
殺人ビームは木多丘の“膜”に当たって跳ね返り、雲散霧消して行った。
「ひ、ひろみちゃん」舞子は叫んだ。「た、闘うの? あいつらと?」
「ご命令とあらば鎮圧いたします」木多丘はのほほんと答えた。「つうかとり
あえず防御しないと、死んじゃうし」
「あのさ」舞子は木多丘の顔を見上げた。「攻撃は、しないで。あたしここに
来る前にブライド人に、地球に来ない約束をとりつけて、破ったら痛い目見る
って脅すって言ったけど、あれ撤回する。やめる」
「えっ、でも舞ちゃん」吃驚したのは遥香だった。「そしたらブライド人たち
は、これからも地球に来るわよ? そんなことしたら――」
「“主”さんはさ、うまく眼を伏せてあたしたちを傷つけないで話をする方法
を、あみ出してたじゃない」
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
また人とケンカしてしまいました。(またって)
原因は『自己中』。
「世の中あなたを中心に回ってるんじゃない」
と言われたので、
「ええ。そしてあなたを中心に回っているのでもない」
と言い返しました。わーッ大石かよ私は! (でも50%ぐらいは似てる苦笑)
それを皮切りに(?)思ったことですが、そもそも自己中じゃない人間なんて、
存在しないのではないでしょうか。
だから、たとえ他人に「お前は自己中だ」と指摘されたとしても、あんまり気
に病むこともないのです。だってたいがい事実その通りなんだから!
そして勿論、そういう指摘をした人もまた、間違いなく「自己中」なんですね。
人間、自分の自己中的主張がなんらかの形で妨げられるときにだけ、他人の自
己中が目につき鼻につくものなのです。
では、自分の主張が特に妨げられないでいる時、人は他人の自己中が気になら
ないものなんでしょうか?
その通りです。なぜならそういう時ってのは、他人の存在そのものがどうでも
よく思えるからです。うわっ黒いな! 何かあったんかな私……?
ちなみにそのケンカした人とは、翌日ふつーに笑顔でゲームの話を振ったらす
んなり仲直りできました。やっぱガンダム強いわ(意味不明)
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それでは次回をお楽しみに。
発行者:葵むらさき
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