葵マガジン*多重人格の急須 23
発行日時: 2008/5/10*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v
◇◆◇◆葵マガジン 2008年5月10日号◆◇◆◇
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やつらは「何か」に取り憑かれている──
オムニバス・ホラーコメディ
「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」(作/葵むらさき)
連載中!
おりおん☆
http://de-view.net/pc/
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◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇
第23話(全32話)
舞子、使役する 3
舞子は我知らず立ち上がり振り向いていた。
先ほどと何ら変りない、大石のままの大石が、再び現れていた。
「大石くん――」舞子の眼から、また涙が溢れてきた。
それを見た大石は、さっと視線を横にそらし、居心地悪そうに眼鏡を押し上
げたり白衣のポケットに手を突っ込んだりした。
「私はそういうのには不慣れですので」大石はちらと舞子を見た後、またばつ
が悪そうに目をそらした。
「一緒にいて欲しくて――」舞子はそれだけ言うと後は言葉も続かず、泣きじ
ゃくりながら大石に抱きついた。
すぐに舞子の肩に、ふわりと温かい腕が巻きついてきた。
「大石くん――」舞子には意外だったが、それはすぐに悦びに変った。
「ああハニイ、君がそんなに傷ついていたなんて」鼻にかかった甘ったるい声
が、舞子の耳元で柔らかく響いた。
「あ?」舞子は顔を起こした。
それは、正吾だった。
舞子が抱きついたのは、すんでのところで大石と入れ替わった正吾だった。
「なっ――」
「ちょっとあんた!」舞子の驚愕の声をはねのけて、遥香の怒号が轟き渡った。
真央子がびくっと遥香の腕の中で跳び上がり、それから火のついたように泣
きはじめた。
「何やってんのよッ、この浮気者! そういうところ、全ッ然変ってないじゃ
ないのさ!」
「う――」正吾は目の下をぴくつかせ、恐怖の表情で遥香を見た。
「あんたねえ、あたしがドビンを手放そうと決めた本当の理由を、まだわかっ
てないわけ?」遥香は犬のように唸り、正吾に噛みついた。
「あ、いや、だからこれはその」正吾は舌をもつらせながら、必死で何か言い
繕おうと試みた。「ボクはホラ情緒専門だから――」
「何が情緒よッ、あんたのその浮気癖が原因で別れたんでしょーッ」
遥香は身も世もなく金切り声で叫び、真央子は――恐らく生れて初めて見る
であろう母親の、嫉妬に狂った鬼女のような形相にさらに泣きわめいた。
「えっそうなんだ、正吾さんの浮気が原因なんだ」
舞子も、今しがたまでの涙をすっかり忘れ、男と女の事情に盛んに興味を示
した。
「や、やだなあ舞ちゃん、ぼくはそんな」
「何よしらばっくれる気?」遥香は片手で真央子を抱いたまま、もう片方の手
で正吾の胸ぐらをぐッと掴んだ。
正吾の、ひッと息を呑む音と、ぼん、という例の急須の爆発音とが、ほとん
ど重なって聞えた。
「はいはいっ、そろそろあたしたちの任務ってものを思い出しましょうねえ」
優美が、勇ましく叫びながら巨大な手をバンバンと打ち鳴らした。「あたし
たちはこの地球から遠く離れた星まで、一体何しに来たんだったかしらあ?」
「あ――」舞子と遥香は"主"を見た。
“主”は、皺に呑まれた目を瞬きもせずこちらに向けていた。
その姿勢のまま死んでいるのかと思うほどに固まっていたが、身にまとうロ
ーブの微かな震えが、彼(彼女?)の生存を告げていた。
「えーと」舞子は後頭部を掻きながら遥香を見た。
「な、何の話してたんだったかしら?」遥香も、いまだ泣きやまぬ真央子をや
たらゆすってあやしながら、赤い顔で言った。
それから“主”は、またゆるゆると目を伏せていき「あなたは」力なく呟い
た。「その急須の人格たちの――」
「制御をする者だけど“統合者”ではないわ」優美は後を引き取って言った。
「あなたみたいな、ね」
“主”は、はッとしたように再び目を開け、真正面から優美を見た。
舞子の足は、びくっとすくんだ。
「大丈夫よ」遥香が、耳元で囁く。「あの光線が出たらすぐ、木多丘くんが出
てくれるわ」
「う、うん」舞子はびくつきながらも頷いた。
「あなたは――“統合者”ね?」優美は、妖艶ともいえる微笑を浮かべて“主”
に問いかけた。
「――なぜそれを――」“主”はそう答え、あとは絶句した。
「とう、統合者って、さっきこの人が“なる”の“ならない”のって言ってた
やつ?」舞子は"主"を指さしながら優美を仰いだ。「急須の統合者になってや
るとかって――」
「舞子、この“主”さんはね、急須の統合者になるならない以前に、もともと
この星の統合者なのよ――つまりこの星ブライドの生き物たちの」
「それは分ってるわ、だから“主”なんでしょ?」遥香が口を挟んだ。
「この場合の“統合者”というのはね遥香、“複数ある人格を統べる者”とい
う意味の存在なのよ」
「複数――多重、人格?」遥香が訊く。
「そう」優美は頷いた。「この星そのものが多重人格なのよ」
「ええ?」遥香は叫んだ。
優美は“主”の方に向き直り、言葉を続けた。「だからあたしたちがここに
いる間中、彼の“手下”どもは誰一人としてこの部屋にやって来ない――なぜ
なら今は“彼が稼動しているから”」
「部下って、いうのは、じゃあ――」遥香は少しずつ、ことの真相を噛み砕き
かけていた。
「ほええ?」舞子の方は、まだてんでわけがわからずにいた。
「つまりさ舞子、この惑星ブライドそのものが、あたしたちの急須をもっとで
っかくしたような“多重人格の星”だってことよ」
「えええ?」舞子は激しく眉をしかめた。「多重人格の星ぃ?」
「そうそう。地球で殺人を犯してたエイリアンたちも、真央子ちゃんをさらっ
てきた奴らも、この星でさっきまで見張ってた奴らもみんな、この“主”さん
と――」優美は大きな手を“主”の方へ差し伸べた。「同一人物なのよ」
「いー」舞子は目をまん丸く見開いて“主”を見た。
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
またしても1ヶ月間が開いてしまいました。申し訳ありません。
ゴールデンウィークも非無事に過ぎ、また執筆というものに目を、鼻を、耳を
そして人生を傾けてゆこうと思います。すべては取材であると。
仕事にばっかり追われていて運動不足だなあと思い、思わず衝動買いしてしま
ったのが任天堂のWiiフィット。へへへ。
Wii Fit
http://www.nintendo.co.jp/wii/rfnj/
これのコンテンツで気に入っているのが、ヨガなんですね。
骨盤矯正だとか、自律神経を整えるだとかいう触れ込みの「ポーズ」を取り、
バランスを崩して床の上をでんでんでんでんッと片足横飛びしつつも、それで
もやっぱり、気持ちいいんです。
他にフラフープとか、筋トレとか、ジョギングなんてのもあるんです。
そんなわけで、バーチャルインストのお兄さんに「毎日つづけて体のゆがみを
改善しましょう」と何度も爽やかに小馬鹿にされる昨今なわけですが、現実の
同僚たちからは、
「外に出ましょうよ」
「そんなのに支配されてどうすんですか」
「別にゲームソフトでジョギングしなくても、普通に走ればいいと思いますけ
ど」
と、どういうことなのか大馬鹿にされます。
くそっ、そんなこと言うんなら、三日坊主になってやるからな!(復讐)
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