ポピーは魔法世界に住む少女。彼女たちは、キャビッチという不思議な野菜を使って魔法を行使する。ある時、親友のヨンベが恐ろしい鬼魔(キーマ)にさらわれてしまう。優しいウールー、どこかずるがしこいユエホワ、そして幾人ものハンサムな神様たちとともに、ポピーの旅が始まる。冒険ファンタジー『魔法野菜キャビッチ』8月2日連載開始!
- 最新号:2008-09-27
- 発行周期:毎週土曜日
- 読んでる人:17人
- 創刊日:2003-11-29
- Score!:-点
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葵マガジン*多重人格の急須 22
発行日: 2008/4/12*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v
◇◆◇◆葵マガジン 2008年4月12日号◆◇◆◇
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やつらは「何か」に取り憑かれている──
オムニバス・ホラーコメディ
「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」(作/葵むらさき)
連載中!
おりおん☆
http://de-view.net/pc/
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◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇
第22話(全32話)
舞子、使役する 2
「受け入れなかったのは他の人たちでなく、実はあなた自身だったのかも?」
大石は眼鏡を光らせたまま、すいと人差し指を舞子の方にまっすぐ向けた。
「何、あんた」舞子は思わずむっとした。「何いきなり人のこと指さしてんの
よ失礼ねえ」
「あなたは人と接する時に、はなっから深い堀を自分の周囲に巡らせて、他者
が容易に自分のパーソナリティ内に侵入してこないような措置をとるのでしょ
う」
「あらでもそれは誰だってそうよ」舞子が金切り声を挙げんがため大きく息を
吸い込む間に、素早く遥香が対応した。「最初から、見知らぬ人に心すべてを
許す人間なんていないでしょう」
「けれど人は、その堀を少しずつ埋め、他者の心に近づいていけるよう努力し
なくてはならない」大石は腕組みし、ゆっくりと頷いた。「なぜなら人は皆、
一人では生きてゆけないものだから」
「なんか昔、そういう歌があったような気がする」遥香は苦笑した。
「そしてそういう努力を見れば、外部の者たちも親しく手助けをしてくれよう
とする――ただしその人たちの堀の埋め方、またそのスピードが、堀の所有者
の意にいつも叶ったものであるとは限らない、そのやり方はことによると、当
所有者をひどく傷つけてしまうものなのかも知れない、そしてあなたは」
大石は再び、びしッ、と音がせんばかりに舞子に指を突きつけた。
「哀しいかな、そこまでを見透かしてしまう能力を、お持ちなわけです」
「え――」舞子は、言葉を失った。
「つまり、他者が自分の堀を埋めようとするのが――他者が自分に善意で近づ
こうとしてくるのが、恐い」
「――」
「あるいは、申しわけないけど、ありがたいけど、鬱陶しい」
「――」
「まあいってみれば、自己中心的でわがままなわけです」
「――」
「大石くん」遥香は眉根に皺を寄せて口を挟んだ。「それってひどいんじゃな
いの? 舞子ちゃんせっかく、あなたたち多重人格の急須には自分をさらけ出
して心を開くことができたって言ってくれてるのにさ」
「だからこそ申し上げるのです」大石の眼鏡と言葉と態度は、ほんのひとかけ
らも淀むことがなかった。「これが我々の側としても、舞子さまに何ら隠すと
ころがないことの証明であるのです」
「――ひどいよ」
やっとのことでその言葉をしぼり出した舞子の眼からは、大粒の涙が次々と
こぼれ出た。
「そんなことズケズケ言うなんて、ひどいよ――やっぱりあんたたちなんかに
心開くんじゃなかった」舞子の声は震えた。「あんたなんて――あんたたちな
んて、大っ嫌い!」
大石は、何も言わなかった。
「も、もうこんな急須なんて」舞子はいきなり、急須を拾い上げた。「いらな
い!」そしてそう叫ぶなり、彼女はそれを投げた。
かしゃ――ん……
小気味よい音を立てて、それは割れた。
室内にいる者たちは誰も一言も喋らず、舞子のしゃくり上げる声だけが聞え、
彼女の涙だけが次々とこぼれ落ちた。
舞子はへたり込み、しばらく両手で顔を覆い、肩を震わせて泣きつづけた。
遥香は真央子を抱いたまま彼女の傍に来てしゃがんだが、何も言わずにいた。
"主"でさえ、自分の状況を忘れたかのように、無言でいた。
長い時間が過ぎ、舞子は腫れぼったい目をやっと上げて、のろのろと振り向
いた。
そこには遥香と真央子――そして遠くに"主"がいるのみだった。
――消えた……
舞子は腫れた目で、その光景をぼんやりと捉えていた。
「哀しい、ことです」やがて"主"が、忘れていた言葉を思い出したかのように
ぽつりと言った。「あの多重人格の者たちは――」
舞子はのろのろと"主"を見た。
眼を伏せている。
耳に、病魔に冒された人のような力なき声が届く。
「あの者たちは、あなたを愛しているように見えましたが」
「――」舞子の心も頭も、今は色を失っている状態だった。
「あなたには、愛されているという感覚はなかったのですね」
「――」
「あの大きな男は、あれほどまでにあなたを私の放つ光線から守っていたのに
――」
「――」舞子は音を立てて息を呑んだ。
木多丘の姿が、蘇った。
両腕を伸ばして"主"の光を受け取り拡散し、舞子たちを守ってくれた木多丘。
巨大な手で舞子がせき込むほど叩き、快活に豪快に笑う優美。
切なげに目を細め、しなやかな身のこなしと深く柔らかい声で語りかけてく
る正吾。
そして、少しサイズの大きめな白衣をまとい、縁なし眼鏡をかけ、神経質そ
うに眉根を寄せながら、ずけずけと歯に衣着せずものを言う大石。
ずけずけと――
歯に衣着せず――
「私は、こちらにおわします舞子さまにお仕えするしもべの魔法使いでござい
ます」
そう。
そして間違いなく、常にそばにいてくれた――
急須を、割るまでは。
真っ白になっていた舞子の心に、色が戻って来た。
――そばにいて欲しい――
舞子は両手で顔を覆った。
――そばにいてほしい!
「あ、戻った」
遥香が声を挙げた。
「はえ?」
舞子は赤く腫れた顔を上げた。
遥香の視線の先の床を見る。
急須が、そこにあった。
「――あ?」舞子は思わず、眉をしかめた。「なんで?」
「本心から手放そうと持ち主が思わない限り、急須は消滅しないのです」大石
の声がした。
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
はいっ、おひさしぶりです!(開き直りか!?)
もしかしたら、1ヶ月ぐらい、配信飛んでるんじゃないでしょうか……
思わずカレンダーに向かって「え、そんなに?」と訊ねた次第でございます。
だが紙は、何も答えなかった……
本当に、すみません。
やーそれにしても「打ちひしがれる」って、こんなカンジの状態のことをいう
のかなーと、我が身体感覚に照らし合わせてつくづく想う今日この頃です。
新年度、新学期はじまりまして環境の変化に慌しい思いをされているのは、皆
様ご一緒かと想います。
お疲れ様です。
どうぞお体ご自愛くださいませ。
この殊勝で控えめな葵らしからぬ挨拶をもって、お詫びと替えさせて頂きたく
……申し訳ありません。
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発行者:葵むらさき
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