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葵マガジン*多重人格の急須 21

発行日: 2008/3/11

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年3月11日号◆◇◆◇

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※配信が飛びましたことをお詫び致します。すみませんでした。
                             葵むらさき

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          ◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇

              第21話(全32話)


              舞子、使役する 1


“主”の瞳が、再び光った。「私はただ、生きたいと」
 舞子はとっさに、木多丘にしがみついた。
“主”の目から発せられた光線はまっすぐに舞子と木多丘の方を目がけて伸び
てきたが、木多丘のかざす掌の手前で放射状に広がり、空中へ散って行った。
 舞子は息を呑み、目を見開いた。
「それは大それた望みなのだろうか」
 さらに光は発せられ、やはり木多丘の手の前に散らされた。
「そ」舞子は、木多丘の体の後ろから顔半分だけを覗かせながら答えた。「そ
んなことはないけど、でも地球では無理だよ、そのビームじゃあ」
「そうよ、地球じゃなくて他の星へ行ってよ」遥香の声がすぐ近くに聞えた。
 舞子が振り向くといつの間にか遥香は、真央子を抱っこしたまま木多丘の背
後、つまり安全地帯に避難してきていた。
「地球ほど資源に恵まれた星はない」“主”は言い、目から光がほとばしり出
て、木多丘の手により散らされた。しかしやっぱり舞子は息を呑んで身をすく
めるのだった。
「私は&#8212;&#8212;私たちは地球に行きたいのだ、だからあなた方と共生する方法を、
あなた方の組織を分解せずにすむ方法を探求していたのだ」
「&#8212;&#8212;」舞子と遥香は、押し黙った。
「&#8212;&#8212;真央子の、体を……使って……?」遥香が小さく呟いた。
“主”は、何も答えなかった。
「もしあたしたちの来るのがもう少し遅かったら」遥香の声は、低く掠れた。
恐れと、怒りを、舞子はその声音の中に感じ取った。「真央子は&#8212;&#8212;殺されて
た?」
“主”は、やはり答えなかった。
「あんたたちを地球で生きのびさせる手段のために、真央子は実験台にされる
ところだったのね」
「あなた方は無傷で生きている」“主”は言った。
 殺人ビームはやはり出てきたが、それは心なしか弱々しくはかなげな光だっ
た。
 それは木多丘の手でやはり散らされたが、何とはなし“惨い”という感じを
舞子は受けた。
「それこそ私にあなた方を傷つける意思のないことの証明ではないか」
「よっくいうわよ都合のいいこと」舞子は切り返した。
「あなた方がここに来るまでに、そうしようと思えばあなた方を抹殺するくら
いは、たやすくできたのだ&#8212;&#8212;私はあえてそれを“させなかった”」
「ふん」遥香の怒りはますます募ったようだった。「生かすも殺すもあんたの
腹ひとつってわけ? お偉い方ですこと」
 しゅッ、と音がした。
 両手を“主”に向かって伸ばし突っ立っていた木多丘は、一瞬体の筋肉を強
ばらせ、固まったポーズのまま約三十センチほど後退した。
「な、何?」舞子と、真央子を抱いた遥香は同時に、木多丘の背を支え&#8212;&#8212;よ
うとして一緒に後方に引きずられた。
 それから二人は目を見合わせ、戦慄した。
 今までにない"何ものか"が、今の“主”の一撃に感じ取られたのだ。
 それが何かは、判らない。
 邪心?
 憎悪?
 怒り?
 悲しみ&#8212;&#8212;悲しみ?
 舞子は木多丘の背に押しつけていた体を少し離し“主”の方を見た。
「舞ちゃんっ、危な&#8212;&#8212;」
 遥香が止めようとするのには応えず、舞子はそろり、そろりと“主”に近づ
いて行った。
“主”は、俯いていた。
 ぴくりとも動かない。
 &#8212;&#8212;死んでるの?
 舞子は一瞬、どきんと胸を打たれた。
 しかしそうではないことは“主”のまとっている透明なローブが微かに震え
ていることから判じ取れた。
「あんた……」舞子は注意深く、相手を責めたてる口調にならぬように気を配
りながら話しかけた。「自分が、もどかしいのね」
「舞&#8212;&#8212;ちゃん……?」遥香も、木多丘の背から覗いて見ていた。
「私を受け入れてくれる星は、どこにもない」“主”は俯いたまま呟いた。
 光線は出されなかった。
 ただ思念の震えだけが舞子の耳朶に届いた。
 本当に耳のすぐ傍でひそひそ話をしているような、か細い風の囁きだった。
「それは&#8212;&#8212;」舞子は返答してやりたかったが、答えられなかった。
 そんなことはない、などという言葉は、舞子の気持ちそのものに反する。
 確かにこの目の前のエイリアンは、もはやこの宇宙のどこの誰からも歓迎さ
れないかも知れない。
 誰からも&#8212;&#8212;
「あたし、あんたの気持ち、わかるかも知んない」舞子は我知らず、声を張り
上げていた。
“主”の顔がふと、持ち上げられようとした。
 しかし彼(彼女?)はそれを止めた。
 舞子を見ることを&#8212;&#8212;舞子を傷つけ、あるいは抹殺してしまうことを“主”
は避けたのだ。
「あたしも、自分が誰にも受け入れてもらえないって、ずっと心のどっかで&#8212;&#8212;
ううん、心全部で思ってた」
 舞子は“主”をまっすぐに見つめながら話した。
 恐怖心は、不思議なほどになりをひそめていた。
 同時に、怒りも憎しみも。
 今の舞子には、目の前の“主”が、何だか小さく見えた。
「あの、多重人格の急須に出会うまではね」舞子はそう言って、肩越しにいる
木多丘を親指で差した。「それまでは、学校とか、人の集まるところに行くの
がすごく嫌で&#8212;&#8212;自分がそこで孤立しちゃうってわかってるから&#8212;&#8212;あたしは
誰にも受け入れてもらえてない、本当に心から愛されてはいない、必要とされ
ていないって、そう思ってた」
「それはあなたが自分の中だけで作り上げた幻想だったのでは?」だし抜けに
大石の声が背後で聞えた。
「へ?」
 舞子は飛び上がって振り向いた。
 果して、つい今しがたまでそこにいた木多丘の存在は、眼鏡を白く光らせた
大石に取ってかわられていた。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

二週間以上も配信が飛びまして、本当に申しわけありません。
書き物用パソコン(年代物)を立ち上げるゆとりすらありませんでした──メ
ールを開くのがなんだか恐くてドキドキしています──

仕事。
コレの調整というものに、てんやわんやのわらわらです。
年末年始にどっっぷりと“ゆとり”をもらったおかげなわけですが、やっぱり、

休暇とは、必要であるが、取るべきではない。

ということかなと……ああ、病理的ですねえ、生きるって!

まあでも、ちょっと“休む”ことは、やっぱりいいことですよ。
体も心もユルムしね。ゆとり太りみたいなね。
イロイロと手に入れた新情報を、自分の元いた場所のために役立てることもで
きるし。

たまには「逃げ」も、いいもんです。と、わたくしは個人的にそう思います。

……って、これは決して配信が飛んだことへの言い訳じゃないですケド……
すみませんでした。

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             発行者:葵むらさき
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