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ポピーは魔法世界に住む少女。彼女たちは、キャビッチという不思議な野菜を使って魔法を行使する。ある時、親友のヨンベが恐ろしい鬼魔(キーマ)にさらわれてしまう。優しいウールー、どこかずるがしこいユエホワ、そして幾人ものハンサムな神様たちとともに、ポピーの旅が始まる。冒険ファンタジー『魔法野菜キャビッチ』8月2日連載開始!




葵マガジン*多重人格の急須 20

発行日: 2008/2/23

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年2月23日号◆◇◆◇

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          ◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇

              第20話(全32話)


             “主”、現れる 6


「いく重にも分れた人格には、それを統合する者が必要です」“主”はだし抜
けにそう云った。「わたくしが、あなた方の統合者となりましょう」
「はあ?」舞子はあっ気に取られ、大石を見た。
 大石の表情に、舞子は“恐怖”を見た気がした。
 ——急須の、ピンチ?
 守らなければ。
 舞子の中に、使命感が生れた。
 今は私が、この急須の“主”なのだから。
「ちょっと、勝手なことしないでよね」舞子は果敢に声を張り上げた。「あた
しの急須に“統合者”なんて必要ないわ——ていうか、あんたがさっきから必
要だ必要だっていってることって、ぜんぶあんた以外の者にとっては迷惑なだ
けなのよ」
「そうよそうよ」遥香も怒鳴った。
「おわかりになっていないようですので、繰返します」“主”はいった。「私
は今、そうしようと思えば簡単にあなた方を抹殺できるところを、あえてそう
せずにいるのです——あなた方に直接"語りかける"ことをせぬようにね」
「——」ぞくり、と舞子の肌に、粟が立った。「何よそれ、脅しなわけ?」
「我々ブライド人は、思念を送る際それを光エネルギーに変換して対象に照射
するのです」
「光……エネルギー?」舞子は茫然と繰返した。
「なるほどね」大石は呟く。「殺人光線か」
「ところが地球上の有機物の炭素結合は、この光に対し大変耐性の低いものと
なっているようです。我々の思念ビームを浴びた人たちの細胞を構成する分子
は瞬時に反応を起こし、彼らの体組織は機能を停止せざるを得なく——」
「わかんないんすけど……」舞子はぽつんと言葉を挟んだ。
「つまりブライド人たちの目から出る“思念ビーム”を浴びると、地球の生き
物たちは焼け死んでしまうと云うことです」大石が云った。
「そう——しかし今私は、あえてその"やり方"をしていません」“主”は言っ
た。「だからあなた方は、生きていられるのです」
「お情けでそうしてやってるんだって言いたいわけね」遥香が、真央子を抱き
ながら肩を竦めた。
 真央子は指をくわえて“主”をじっと見ている。
「しかしどうしても、あなた方が我々の話を聞かないというのなら、私も不本
意ながら実力行使に移らざるを得ません」
「なるほどすばらしい正義の論理だ」大石も両手を上げ肩をすくめて言った。
「それじゃひとつ、行使していただきましょうか、ためしに」
「でっ」舞子は信じられず、大石を見た。「ちょっと大石っちゃん、あんた——」
「誰が“おおいっちゃん”ですか」大石は冷たく横目を送り返してきた。
 この人は、正面から人の顔を見るのが苦手なのかも知れない、舞子はふとそ
う思った。
「さあ」大石はすぐにまた“主”の方向に目を戻し、声を張り上げた。「全然
構いませんよ。私たちを存分にお焼きになるがいい。そしてまた足繁く地球へ
通っては人々を殺して回り、あの青く美しい惑星を阿鼻叫喚に満ち溢れさせ、
存分に羽を伸ばして居つくがいい」
「な、何言ってんのあんた」舞子はほとんどパニック状態となっていた。「ほ
んとに殺されちゃうよッ」
「——」遥香も大石の真意をはかりかねたように困惑の表情を浮かべ、真央子
をさらにきつく抱きしめた。
「私は地球人類を抹殺しようなどとは思っていない」“主”の声、思念の声が、
か細くなったように舞子には思えた。「殺すつもりなどなかったのだ——」
「さあさあさあ」大石はだし抜けに、舞子の腕をむんずと掴み、ぐいと引き寄
せた。
「えっ?」舞子は一瞬の後、大石の手に背中を押され、ずいずいと“主”のい
る方向へ向かわされていた。
「ちょっとーッ、大石! 何してんのあんた!」舞子は慌てて立ち止まろうと
したが、大石は物も言わずに勢いよく舞子を背後から押しつづけた。
 舞子の目に、今やはっきりと、巨大な椅子に埋もれている“主”の姿が映っ
た。
 それは、テレビのニュースで見たエイリアンの似顔絵に、少し似ていた。
 大きなはげ頭に無数の皺が刻まれ、黒い目がその中に埋め込まれている。
 鼻と口も恐らくその皺の内のどこかに隠れているのだろう。
 体は細く、ぬらぬらした感じの不気味なペールピンク色で、やはり多くの皺
が刻まれており、白く透明なローブ様のものをまとっている。
 はっきり言って、気味が悪かった。
 舞子の喉の奥から、いや腹の底から、悲鳴がほとばしり出た。
「舞ちゃん!」遥香の叫ぶ声が後ろで聞える。“主”は、ゆるりと首をもち上
げて、舞子を真っ直ぐに見た。
 黒い瞳が、舞子を見据えた。「私は——」その瞬間、舞子はその瞳が白く輝
くのを見た。
 ——殺人ビーム。
 舞子は大石が言ったその名称を脳裡に反復しながら、瞼を閉じた。
 自分の胸もしくは腹に、穴が開いたのだと思った。
 しかし、痛みはかけらも感じない。
 舞子は約三秒後、目を開けた。
 そこに見えたのは、大きな背中だった。
 木多丘のものだった。
「ひ——ひろみちゃん?」舞子は呟いて、木多丘の後頭部から垂れ下がるお下
げをのろのろと見上げた。
 木多丘は何も言わなかった。
 まさか、自分の身代わりに殺人ビームを浴びた——?
 舞子は慌てて、木多丘の体の前方に回り込んだ。
 木多丘は両の掌を真っ直ぐ前方に伸ばしたまま、別段苦しげな表情でもなく
——さりとて機嫌のよさそうな顔でもむろんなかったが——突っ立っていた。
「だ、大丈夫なの? ケガは?」
「光を拡散させましてございます」木多丘は前方を見たまま返答した。「わが
幸多きご主人さま」
「拡散——?」舞子は茫然と繰返して“主”の方を見た。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

映画『Mr.ビーン』を観て参りました。劇場版を観たのは、初めてです。

昔のTVシリーズ『ビーン』の、あの非現実的かつ非人道的かつ非生産的なドギ
ツイ行為の繰り返しを観ていた者には、やっぱりちょっと、物足りないという
か歯がゆい感じがするのではないかと思います。

ううっ、なんでビーンがこんなにまろやかなんだよぅ! と、ハンカチを噛み
しめたい思いにとらわれたり。
でもところどころではやっぱり、いや、そこまではアンタ……というビーンら
しさもありました。
主役のローワン・アトキンソン氏みずからがかつて語っていたように「迷惑こ
の上ない存在」としての、ビーンです。

でもそれはやはり副次的で、メインテーマはヒューマンストーリーなんですね。
ううっ、なんでビーンがヒューメンドラマやってんだよぅ!

劇場に、少し遅れ気味で駆け込んで席を探して座り込むまで、上映時間中腹を
抱えて笑い転げっぱなしであることを信じて疑わなかったわたくしでありまし
たが、爆笑ではなくほほえましさの方が勝っていた、というのが、多少残念だ
な〜と思いました。

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             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
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ペンネーム : 葵むらさき

  • ネット小説屋。2002年8月より小説を公開。オンデマンド書店「e-ペンギン」より「葵マガジン文庫」発売中。

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