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葵マガジン*多重人格の急須 16

発行日: 2008/1/26

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年1月26日号◆◇◆◇

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やつらは「何か」に取り憑かれている──
オムニバス・ホラーコメディ
「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」(作/葵むらさき)
連載中!

おりおん☆
http://de-view.net/pc/

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          ◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇

              第16話(全32話)


             “主”、現れる 2


「近づくと、どうにかなる?」遥香が訊いた。「攻撃されちゃう? よね」
「もちろん入室にはIDの提示が必要とされていますが、不法侵入に対する警
戒はそれほど厳しくないようです」大石は所見を述べた。
「真央子は、何か痛い思いをさせられてはいない?」遥香は涙ぐみながら訊い
た。「あの子は、たった二歳なのよ」
「今のところは大丈夫です」大石はこくりと頷いた。「それからこの、地球進
出プロジェクトを司る長たる者はここにいます」大石はもう一度、球体に手を
かざした。球体の内部、先の二点からは大分離れたところに新たなランプがと
もった。
「地球進出プロジェクト?」
「司る長?」
 舞子と遥香は同時に声をあげた。
「彼は、この星の住人たちから“主”と呼ばれています」大石は説明した。
「"主"?」
「神さまってこと?」
「“主”の実体は明らかではありませんが、他のブライド人と性質を異にする
存在であることは確かです」大石は“主”を表すランプを指で差しながら話し
た。「恐らく超能力ないし魔法の使い手であると思われます」
「ぶっ」舞子は吹き出した。「魔法だって! バカみたい! 超能力ならまだ
わかるけどぉ、魔法の使い手だなんてそんなの、あはははは」
「――」大石は冷たく細めた目でじっと舞子を見た。
「はは、は」笑う舞子の目に、足元の急須が映り、そのまま舞子は凍りつかざ
るを得なかった。
「あなたも」大石は、催眠術師のように舞子を指差した。「“魔法の使い手”
だということを憶えておいて下さいね」
「じゃあ、どうするの? “主”とかいう人のところへ行って、交渉をすれば
いいのかな?」遥香は球体のランプを見、大石を見、そして舞子を見た。「私
としてはそりゃ一刻も早く、真央子を救い出しに行きたいとこだけど……」
 三人の間に少しの間沈黙が訪れた。
「でもここからこの地面の下へって、どうやって行けばいいの?」舞子が大石
に訊いた。
「それはもちろん“物理力稼動”ですから木多丘の出番ということになります
ね――うまくいけば、ね」
「何それ」舞子はまた訊いた。「うまくいけば、って」
「うまいこと、あなたの望み通りに木多丘が現れれば、という意味です」
「ええ?」舞子は少し混乱した。「ど、どういうこと?」
「あのね舞ちゃん」遥香が舞子に説明した。「この急須はね、要するに……多
重人格の急須なの」
「多重人格?」
「そう。聞いたでしょ? 物理力は木多丘くん、理論構成は大石くん、情緒が
正吾で、制御が優美さん――」
「あ、うん聞いた」舞子は頷いた。
「二回お辞儀をすると、その中のどれかの“人格”が出てくるわけ」
「人、格――?」
「そう。でもただし、どの人格が出てくるかは、急須の側の都合によるのよ」
「マジぃ?」舞子は裏声で叫んだ。「でもそれって、ご主人様のいうこと聞い
てないってことじゃない?」
「命令の遂行自体はね、逆らうことなく行われるのよ。でもただこの仕事を行
うのは誰それの役目だとかいうのを決めるのは、急須の方なの」
「あ……そう」
「まあだから例えば“この大きな岩をどけてちょうだい”っていえば、その前
に誰が出ていようと、木多丘くんに入れ替わってくれるという感じで」
「なるほどね――なんだ、じゃあ結局はこっちの思い通りの人が出てきてくれ
るんじゃないの。アンタが脅かすから」舞子は大石を叩いた。
 大石はびくり、と大仰に身を縮ませ、目を閉じた。「ぼくは暴力は嫌いです
っ」
「よくいうわよ人の髪の毛ぶっつり引っこ抜いたくせに」舞子はいきり立った。
「まあまあまあ」遥香はまたもや苦笑しながらなだめ役をした。「先を急ぎま
しょうよ」
「そうだね」舞子はふんと鼻息を吐いて気を取り直した。「じゃあひとつこの
あたしが“魔法の使い手”として命令するわ。一番最初に、真央子ちゃんを救
出するのよ。それからその“主”とかいう偉い人のところへいって、二度と地
球に手を出さないっていう約束をとりつけるわ。もし破ったらヒドイ目にあう
ぞって、少し脅してもいいわね」
「……」大石は、聞き取れぬほどの小声で何事か呟いた。
「え? 何?」舞子は耳に手を当て、大石の顔にずいと近づけた。
「かしこまりましたといったんです!」大石はでかい声で繰返し、舞子は悲鳴
を上げた。
「もう、本気で怒ったわよ!」舞子が叫んだときには、しゅッと音がして大石
は消えていた。代ってまたもや木多丘が出て来、鬼のように怒った顔の舞子と、
苦笑する遥香とを左右の肩に乗せ、ふわりと飛び上がったかと思うと、足の爪
先から土壌に潜り込んで行った。
 岩石の粒たちは舞子たちの周囲に渦を巻いて飛び散ったが、舞子たちには砂
粒ひとつ当たらなかった。それでも周囲の景色はたちどころに土くれだらけの
ものとなり、ほどなく光も届かぬ深層に到達したらしく真っ暗になってしまっ
た。
「ねえ」舞子は木多丘に不安そうな声で聞いた。「ほんとにわかるの? 真央
子ちゃんのいる場所って――ひろみちゃんには」
「いやわからねえ」木多丘は爪先から魔法を出してでもいるのか、滞りなく地
中に潜りながらあっさりと答えた。「だからしっかりナビしてくれよ、ご主人
様」
「ええっ、あたしがぁ?」舞子は自分を指差して叫んだ。「冗談じゃないわよ
ぉあたしなんか知らないわよそんな」すっかりパニック状態である。
「さっき、大石から聞いたんじゃねえのか?」木多丘が意外そうな口ぶりで訊
ねた。「それとも聞いてなかったのか?」声に凄味が滲む。
 舞子はひッと息を呑んだ。「だっだって無理だよあんなさらっと一回いわれ
ただけで記憶なんてできるわけないっしょあっそうだ大石さん呼べばいいじゃ
ん!」急須をかざす。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

ヘッダでも宣伝させていただきましたが、このたび携帯小説サイト

おりおん☆
http://de-view.net/pc/

にて、拙ホラーコメディ小説「ハーイ皆死んだ魚の目でチ〜ズ」の連載を始め
させていただきました。

小説を読むには、↑のリンクから携帯にURLをお送りいただきアクセスしていた
だきまして、「ホラー・オカルト」カテゴリの中より作品名クリックをして下
さい。

ちょっと不気味で大層間抜けな、葵的霊体質人間模様を、どうぞお楽しみ下さ
いませ。

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
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