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◇◆◇◆葵マガジン 2006年12月30日号◆◇◆◇
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昔好きだったアイドルが、突然隣に引っ越してきた。甘酸っぱい青春時代の思
い出を胸に蘇らせながら透は訊いた。「どうして突然引退しちゃったの……?」
妖しく微笑みながら彼女は答えた──「私のレコードにオバケが出るからよ」
●「アイドルの秘密」
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◇◆◇◆サモンズ・リュート◆◇◆◇
第3話(全39話)
第一章 三つの秘薬 3
「ああ喰った喰った」白熊はすっかり満腹になった後、山積みになった竜の骨
の横でごろりと転がり昼寝をし始めた。
「おい、智恵の茨の葉を、試してみないか」ジュリスは白熊に提言した。
「んあ?」スノウィは眠そうな眼をかろうじて開いた。「ああ、いらん。もう、
腹に入らん」それっきり、熊は高いびきで眠り込んでしまった。
「そ、それじゃバートン、君がこれを使ってみてくれ」ジュリスは振り向いて
神官に言った。
「ん?」神官の手に持つ乳鉢からは、もくもくと煙が立ち昇りつつあった。
「ああ、私もそれはもう、いらないよ。すでに新物質は出来上がってしまった。
余計なものは加えたくない」
「余計なものとはなんだ」ジュリスは呆れた。「これこそが秘薬、これこそ君
が調合すべき材料の一つなんだぞ。そんな、わけのわからない材料ばっかりう
れしげに混ぜ合わせて、一体何の役に立つというんだ」
「──」バートンはゆっくりと顔を上げ、剣士を見た。ジュリスはそこに、バ
ハムートなど足許にも及ばぬほどの強烈な邪悪さをはっきりと見た。「試して、
みようか」
「え?」そう言ったジュリスの口の中に、神官は目にも止まらぬ素早さで乳鉢
の中のものを放り込んだ。「あがッ」ジュリスは慌てて身を引いたが神官の移
動の速さにとてもついていけなかった。バートンは次の瞬間にはもう、彼の顎
をつかんでおり、巧みにその忌まわしき薬をその体内に飲み込ませてしまった
のだ。
少しの間は、何事も起こらなかった。
だが突如として、ジュリスは体が抗いがたき力によって変形されていくのを
感じ始めた。彼の腕と脚は短く引っ込み、腹はみるみる膨らんできて、目玉も
どうにかなったらしく周りの景色がぐらりぐらりと揺れ出した。
「うわあああ」ジュリスは悲鳴をあげたがそれもついにはおしつぶされて聞こ
えなくなってしまった。
最後に彼は自分の体がばしんと空高く跳ね上がるのを感じ、それからばたり
と大地に倒れ落ちた。
「ほう」頭上遥か彼方で、バートンの感心したような声が聞こえた。「黄金の
魚だ」
ジュリスは両の足首をバートンに掴まれ逆さに持ち上げられた。体をねじっ
て己をかえりみてみると、確かに彼は黄金の魚に姿を変えられていたのだ。
「なんてことだ」ジュリスは焦りと哀しみに嘆いたが、声に出すことはできな
かった。
魚だからだ。
「時宜を得るとはこのことだ」バートンは嬉しそうだった。「さて白熊が目を
覚まさぬうち、我らの必要とするところの『黄金の魚の脂』というものを手に
入れておこう」彼はそう云って足元に携帯していた瓶を置き、その上に魚と化
したジュリスの体を差し出した。
そうして力任せに彼をしぼり始めた。
「ぎゃああああ」ジュリスは苦痛に叫んだ、だが声を発することはできなかっ
た。
魚だからだ。
やがて瓶には黄金色の脂がたっぷりと取れ、ジュリスはすかすかの干物のよ
うになって大地に放り出された。
それから日が暮れるまで、バートンは入手したジュリスの脂を少量ずついろ
いろな他の材料と混ぜ合わせ、スノウィはぐうすか眠り、ジュリスはというと
地面の苔の上で打ちのめされたままじっと転がっていた。
月が昇ると同時に、バートンの呪われた薬の効果は切れ、ジュリスはどうに
か人間の姿に戻ることができたのだった。
リーザは岩の冷たき肌に手を宛がい、涙の乾ききった頬に新たなる涙を零す
ばかりだった。一体自分が今ここに囚われているという事実を、誰が知り得よ
うか? 父に伝えてくれるものならば精、小鳥、虫たち、或いは風に雨、なん
でもいい、自分の持てる宝すべてを捧げもしようものを!
しかしリーザはただすがるばかりのあえかなる存在ではなかった。彼女は、
自分にできることは自分でなすべきものときちんと心得ていたのだ。
姫は白百合の花弁のごとき手で、彼女を閉じ込めるこの忌まわしき洞穴の地
べたに触れてみた。堅い。けれどもそれは岩でなく、砂の踏みしめられたが故
の堅さのようだった。姫は、何か掘るための道具になるものはないかと辺りを
手探りした。いくつかの石くれが見つかり、彼女の手にほどよく収まるものも
中にはあった。
リーザは、彼女を外界から閉ざす大岩の傍の土を、それで掻き始めた。
がり、がり、がり──すぐに爪には泥が埋まり、その白き手は汚れ、傷み始
めた。
しかしそれでもリーザは休まなかった。
必ず、ここから出なければ──
がり、がり、がり──
哀れなほどに微かな試みの音が、虚しく洞穴に響くのだった。
「姫」その時突然、岩の外から彼女を呼ぶ声がした。「リーザ姫」
「あ、あなたは!?」リーザは驚愕して石を取り落とし、直後希望に瞳を燃え
立たせ、岩にはっしとしがみついた。「ここから、出して」
「それはできない」声は小さく細く、だがきっぱりとはねつけた。「食べ物を
持ってきただけだ」
「どうして──」姫は暗闇を見つめながら、それが一層暗く見えるほどに絶望
を感じた。「あなたは、誰、なの」
声は何も答えなかった。
ただリュートの奏でられる音が聞え始めた。
リーザが怪訝な顔でそれを聞いていると、不意に背後に気配が現れ、振り向
けばそこに一匹の、銀白色に輝く狼が佇んでいた。
「──!!」息を呑み手で口を抑えるリーザだったが、狼は口にくわえた籠を
そっと下に下ろすと音もなく姿を消したのだ。籠の中にはパンとワイン、果物
とチーズが入っていた。
呆然としばし佇む姫だったが、突然はっと気付けばいつの間にかリュートの
物悲しげな調べは聞えなくなっていた。
「ああ」彼女は再び大岩に取り付いた。「待って! ここから出してちょうだ
い! お願い、出して!」
だが彼女の願いは石で掘る音と同様、虚しく坑に響き渡るのみだった。
◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
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◇◆◇◆後記◆◇◆◇
葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。
いよいよ本年最後の配信となりました。
皆様におかれましては、今年一年どのような年になりましたでしょうか。
わたくし葵むらさきにとりましては、ひと言で申しますと、囚われて振り回さ
れて自分に負けてばっかりで、ばからしいほど疲れた年でした。
(ひと言じゃないじゃん)
まあでもその分、楽しい年だった、とも言えるかと思います……溜息?
「がんばる」って、なんだろう……とぼとぼと疲れた足をひきずるようにして
街中を歩きながら、ふと思ったりもしたものでした。
そして得た答えは、
「“がんばる”とは、ただ生きてそこに存在するということ──それ以上でも、
それ以下でもない」
というものでした。
来年は、もっといっぱいSFを読んで、もっといっぱいSFを書きたい。
もっと、もっといっぱい。
それをキープするのが、わたくし葵むらさきにとっての「自分に負けない」こ
となのだと思います。
誰かに勝つとか負ける、ではなく、他ならぬ自分に。
どうぞ皆さま、よいお年をお迎えください。
来年も「葵マガジン」をどうぞよろしくお願いいたします。
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それでは次回をお楽しみに。
発行者:葵むらさき
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