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葵マガジン*ガアラムの流れる島 2

発行日: 2005/12/24


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      ◇◆◇◆葵マガジン 2005年12月24日号◆◇◆◇

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 老人は細くて小さく、前かがみの姿勢で一歩一歩ゆっくりと踏みしめつつ、
私に近づいてきた。
 そのスピードは、ゴールダーに勝るとも劣らぬ遅さだった。

●「スペースドライヴァー坂本」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4902525100/

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         ◇◆◇◆ガアラムの流れる島◆◇◆◇

              第2話(全38話)


 父や母が聞けば、一六歳の娘には早すぎる問題だと、笑われたしなめられる
かも知れない。
 けれど、恋人に出会いたいという想いもまた、その時の私にとってはごく自
然な感情であり、そしてどちらかというと、重要な関心事だったのだ。
 光条は、無言のまま、その輪郭を震わせて立っていた。
 もしかすると、神でさえ、その私の質問は、可笑しかったのかもしれない。
 私はというと、ごく真剣に、ただひたすら、神の姿を見詰め続けていた。
 もちろん、その光条がおもむろに質問の答えを喋り出したりするわけではな
い。
 神は、いずれ、さりげない形で、答えをもたらして下さるのだ。
 或いは、質問者の足を、それとなく答えの在る方向へ、お導き下さるのだ。
 光条を見つめるうち、私の心は、大いなる歓びに満たされて来た。
 無意識のうちに、微笑がこぼれた。
 きっと、神が私の質問を、受け入れて下さったのだ、と、私には感じられた。
 私の胸のうちに、感謝の気持ちが溢れた。
「ありがとうございます」
 私は、また呟いた。
「わたくしに遭いに来て下さいまして、本当にありがとうございました。どう
ぞ、お帰りください」
 光条は、一と際眩く耀いたかと思うと、跡形もなく消え失せた。
 元通りの、浜辺の景色が、私の目の前に戻って来た。

 出し抜けに、ガアラムの音の中から、砂を踏みしめる音が聞こえ始め、私は
飛び上がるように頭を上げた。
 一人の少年が、近づいて来ていた。
 たちまち私の中に緊張が走り、無意識のうちに、石を強く握り締めていた。
 少年は、私から数歩分離れたところで立ち止まった。
 見かけない顔だった。
 私は、背を向けて駆け出そうかと、一瞬思った。
 けれど、そうしてみても、その少年が追いかける気であれば、たやすく追い
つかれるだろうし、その方が却って我が身の危険を高めることになるかも知れ
ない。
 私は、多少身を引き加減にしながら、その少年を見据えた。
 恐らく、ひどく攻撃的な目つきであっただろう。
「こんにちは」
 少年はそう言った。
「こんにちは」
 私も、仕方なくそう返した。
 少年は、私の手許に視線を落とした。
 私は、その時初めて石を強く握っていたことに気付き、その手を緩めた。
 桃色の海が、恒星の光の下に姿をさらけ出した。
 少年が、さらに二、三歩近づいて来た。
「いい石だね」
 彼は日焼けした顔で笑った。
 片手には、魚を捕る為の銛が握られている。
「石の事が、わかるの?」
 私もつい微笑んだ。
 白い砂に放射光が跳ね返り、様々な色を散らしていた。
 うすいピンク、濃いピンク、うすい紫色、空の色…。
 はるか昔に生きていた貝たちの、小さなかけらの色だ。
「昔、俺の母さんが持ってた」
 少年は、砂からぽっこりと突き出た岩の上に、銛を握ったまま腰掛けた。
 片方の膝を折り曲げて突っかい棒にし、顎を載せる――本当に突っかい「棒」
という表現がぴったりの、よく日に焼けた、細い脚だった。
 無駄な肉が一片も付いていなかった。
 あんな脚で、走れるのかしら、と私はふと思った。
「お母さんって、ジェノイ族の人?」
 私は訊いた。“石”を持つのは、ジェノイの一族だ。
「うん。だった」
「だった?」
「大分前に死んだから」
「ああ、そう――」
 私は何と言うべきかわからなくて、彼の、突っかい棒にしていない方の足先
が触れている、小さな色の粒をきらめかす砂の辺りに、目を落した。
「母さんのも、すごく奇麗な石だったよ。すごく透明で、ほんの少しグリーン
がかってて」
「強かったのね、お母様」
「さあ。俺は小さかったから、そういうのはよくわからなかった」
 ジェノイ族の持つ石は、その者の魂の力が高まれば高まる程、透明になって
行く。
 私の持つそれはまだ、ピンクの海の向こうに辛うじて相手の目が透けて見え
る程度のものだった。
 私はまだそれほど、神との邂逅を体験していないのだ。
「いつお亡くなりになったの?」
「――」
 彼は、ひとつ溜息をついた。
 辛い事を訊いたのか、と私の胸は痛んだ。
「もう、十年になるんだなあ」
 彼はそう言って、海の彼方へ目をやった。
 そこに、懐かしき母の姿を見出そうとしているのかも知れなかった。
「俺が五つの時だったから」
「ふうん」
 私も水平線を、その向こうの空をみつめた。
「お母様の石はどうしたの?」
「埋めたよ、亡骸と一緒に。――ビオスの丘の上にね」
「ああ、あそこ」
「今でも透明なのかなあ、あの石」
「――」
 これは私にも答えられない問いだった。
 死したジェノイ族の持っていた石は、故人と共に地中深く埋められるか、砕
いて海に流されるかするのが普通なのだ。
 埋められたものを再び掘り起こしてみたという者の話など聞いた事がない。
 ただ大っぴらに発表されないだけで、誰かがどこかでは、やっているのかも
知れないが。
 私は黙したまま肩を竦めた。
 少年は、何だか可笑しそうにくすくすと笑った。
 恒星は私たちの頭のほぼ真上辺りまで来ていた。
 穏やかな海面に、無数の銀色の光がちらちらと絶え間なく、そして音もなく
現れては消える。
 ガアラムの旋律が、今も静かに流れていた。
「魚捕らなきゃ」
 少年は、だし抜けにそう言って、岩から立ち上がった。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇


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「いやだ! ジッタが存在しなくなるのは、俺には耐えられない」
「──」ジェネローペはとうとう首を振って息をついた。「ウィッチクレイズ
──ここにもあったんだな」

●「闘人サヴィニウス」
http://aoi.peewee.jp/long_story/phyria2nd/phyria2nd01.htm

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       ◇◆◇◆葵のおすすめメールマガジン◆◇◆◇

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

本号が届くのは12月24日、クリスマス・イヴですね。
皆様には楽しくお過ごしのことかと思います。

毎年、近所のケーキ屋さんにクリスマスケーキを予約します。
受け取るのは大体12月24日にするのですが、わたくし、毎年どういうわけか、
この受け取り日の数日前に、ショートケーキを買ってしまいます。
そう、あの生クリームの、白い、イチゴが乗ったりはさまったりしてるやつ。
ぶっちゃけクリスマスケーキの八分の一のやつです。

そして家に帰って家人に「今日何日?」と訊かれるまで、クリスマスケーキま
であと数日であることをまったく失念しているのです。

今年も、受け取り四日前の12月20日、つまりこの号を作成している今日ですが、
買ってしまいました。イチゴショート。
ひどい年は、前日に買ってしまったこともあります。

自分にそういう“呪い”がかかっていることを知っているので、クリスマスケ
ーキ予約の時点で「今年は、ぜったい、イヴの日までケーキ買わない! 買う
としても、イチゴショートだけはぜったい買わない!」と固く深く心に誓い、
自分にいい聞かせるのですが、ええ、ダメです。

思うにケーキ屋さんの側でも、クリスマス前にイチゴショートを買おうとする
客に向かっては「もうすぐクリスマスですけど、今イチゴショートをお買い上
げになって、本当によろしいのですか?」とひと言訊ねてくださってはいかが
なものかと。
親切な量販店などでは、便座カバーを買うときに「本当にU字型でよろしいです
か?」と訊いてくださいますよね。あんな風に。訊くわけないか。

それはともかく、本メルマガは来週大晦日が今年最後の配信となります。
平成18年は、1月7日からの配信となります。
つまり休みなしです。寒いんで、どこにも行きたくありません……

というわけで、Merry Christmas!

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ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。
あ、来たか。
私はバッタ品漁り帰りの友達だとばかり思って、多少不機嫌な表情を作りなが
らドアを開けた。
しかしそこには見知らぬ男が立っていた。

●「レイア」
http://mini.mag2.com/pc/m/M0043222.html

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
         http://murasaki.aoi.peewee.jp/

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