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葵マガジン*みすゞはお花の中に

発行日: 2005/12/3


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      ◇◆◇◆葵マガジン 2005年12月3日号◆◇◆◇

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「ライアス」リーザは息も絶え絶えに、それでも走る速度を緩めることすら叶
わず、必死で叫んだ。「リュートがなければ、あなたはどうやって魔物と戦う
の」
「君は神に祈れ」ライアスは振り向きもせず答えた。「俺は悪魔に祈る。どっ
ちかに助けてもらうしかない」

●「サモンズ・リュート」
http://www.bookin.jp/data.php?gid=0000000230

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       ◇◆◇◆みすゞはお花の中に・前編◆◇◆◇


 よく「歴史上で尊敬する人物」というものを挙げているのを目にする。しか
し、「尊敬する人物」といってしまうとどこか微妙にニュアンスの違う、ちょ
っとそういうのからはずれている感情を呼び起こす人物が、私にとって文学史
上に存在している。
 それが、金子みすゞである。
 童謡詩人。私が現在住んでいる山口県に生まれ生きた人で、我が町の至る所
にみすゞ顕彰碑、文学碑、詩碑が建てられており、みすゞの居た家の跡も我が
家から徒歩で行ける処にある。

 みすゞは娘を遺して死んだ。
 以前テレビでみすゞの娘であるふさえさんを拝見した。その方は長じてから
母の死について聞かされた時「ああ、自分は捨てられたんだな、と思った」と
語っておられた。
 その言葉、みすゞ本人にとっては、まことに痛いものであるだろうなと、私
は思った。
 みすゞは手帖に詩を書いた。
 けれどその手帖の終わりの方で、彼女は詩の文句の代りに、喋り始めた娘の
発するカタコトを、書きとめていたという。
 夫に詩作を禁じられたからだったのかも知れない。
 しかしきっとそのカタコトは、みすゞにとって真の珠玉の言葉の片々であり、
詩よりも詩であり、詩よりも尊いものだったのに違いない。
 形としては確かに、娘を「捨てて」死んだことになろう。
 けれど、みすゞの、娘に対する想いが、そんじょそこらにあるような、あり
きたりのものであったならば、彼女は決して死を選ばなかったのではなかろう
か。
 彼女はそうせねばならなかった。
 娘は彼女にとって我が命と同等のものであったのだ。
 娘を奪われてなお、のうのうと生きていける程自分はあつかましくはないの
だという事を、示す必要があったのだ。
 痛ましい生真面目さと、痛ましい境遇と痛ましい時代──詩は、みすゞに活
力を与えるものだったろう、けれど娘になり代わって彼女を生かすことまでは
出来なかった。

 そう。
「尊敬する人物」ではなく、みすゞは私にとって歴史上の「慰めたい人物」な
のだと思う。
 不遜とわかってはいても「可愛そうになあ」という母性を呼び覚まされ、二
十六歳の人に対して、頭を撫でて守ってあげたいような気持ちになるのだ。

 もちろんみすゞの詩自体も好きである。
 文学的にという意味で、みすゞの詩の一語句一単語を解析してどうこういう
のは私にはわからないが、みすゞは「感性が豊か」というよりも「知能が高い」
という感じがする。
 例えばパズルのように、五七調にぴたりと合う、しかも平仮名で書ける簡明
な言葉を次々に持って来る点。ただ本を数多く読んだだけではできないと思う。
目に映るすべてのことば、活字を、こなして自分のものにしていたのだろう。
 それから世界観。一番好きな詩の一つに「はちと神さま」がある。

 はちはお花のなかに、/お花はお庭のなかに、/お庭は土べいのなかに、
/土べいは町のなかに、/町は日本のなかに、/日本は世界のなかに、/世界
は神さまのなかに。/そうして、そうして、神さまは、/小ちゃなはちのなか
に。

 すごいと思う。「ホーキング宇宙を語る」的である。こんな捉え方、見方を
する人が、大正時代にもいたんだなあ(当然だろうが)と感服する。
 また、よく知られている「大漁」。

 朝焼小焼だ/大漁だ/大羽鰮の/大漁だ。/濱は祭りの/やうだけど/海の
なかでは/何萬の/鰮のとむらひ/するだらう。

 ただ可愛らしいだけではない、どこか油断のならぬ雰囲気。
 ふっくらとした少女的な観察や憧れを詠んだかと思うと、最後の最後でドス
ッと鉛を上から落っことしてくる。しかもそれは私などにとっては「うわ、嫌
だな」ではなく「あはは、そうだよねえ」と頷かされる。
 端的にいえば、面白い。
 面白いながらもまたそこに金子みすゞが金子テルとして背負ってきた哀しみ
や寂しさの凝りを見る気がする。それだから彼女の詩が初見の瞬間から心に貼
りつき、特別気に入ったわけでなくとも何かの拍子にフッと影を落とすのでは
ないだろうか。苦しんで生きるのは自分だけではなかった、という、今風にい
えば癒しとして。
 ということは私は、慰めたい人物である金子みすゞから、同時に慰めてもら
っているというわけだ。
 女は子どもを産んで育てると、絶対に変わる。厚かましくもなろうし、細か
いことを気にせぬようにもなろう。いわゆる可愛げよりも実用性を重んじるよ
うになったり、何よりも小さきものを守らねばならないという守護本能の権化
となるのだ。
 みすゞが子育てというその試練をくぐり抜けたとき、彼女はもしかしたらこ
の二十歳代のときのような詩は二度と書けていなかったかも知れない。けれど
それよりももっとある意味で深い、もっといろんな要素を取り込んだ、更なる
「面白い詩」が書けていたに違いない。
 惜しいなあ、本当に惜しいなあと、詮なきことながらもつい思ってしまう。


                              後編へ

参考資料:
「わたしと小鳥とすずと」金子みすゞ/JULA出版局
「金子みすゞ全集」金子みすゞ/JULA出版局
「金子みすゞノート」矢崎節夫/JULA出版局
「金子みすゞの世界」詩と詩論研究会/勉誠出版

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「ふむ」ホキはますます興味を覚えたらしく、二、三秒考えた後、椅子から立
ち上がった。「どら、あの世への土産話に、ひとつその最強生物の姿を拝ませ
てもらうとするかな」

●「スペースドライヴァー坂本」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4902525100/

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

先々週号でわたくし「エッセイ書くのはツライ」的な発言をしたものでありま
すが、エッセイの何がそんなにヤなのか、つらつら考察してみますに、やっぱ
し、エッセイを書きますと、小説以上に自分の「バカさ」が、みごと露呈して
しまうからなのだろうなと……

同じバカなら小説でいっそ破綻をきたした方が、呼吸が楽であろうと。
こういう感覚が伝わりますかどうかはまたアレですが……

そう、エッセイというと、どうも固定観念で「柔らかくて、優しくて、日常的
で常識的な文章」であらねばならぬ気がして、それで、親元にたった二、三日
泊まったときとおんなじように、居心地のあまりの良さに吐き気をもよおした
りしてしまうんだろうなと……つまりは、どっか破けていないとダメな人間な
のでしょうね。

まあそんなアタシ語りはともかく、再来週からは読書感想文の方を書いていこ
うかなと思っております。

なお新規長編小説の連載開始は、来年の4月末〜5月頃になる見込みです。

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「眼鏡は、手放さないよ」ジェネローペは口を引き結んでさっさと眼鏡を元通
り鼻の上にかけた。「これがないと、どうも目に指を突っ込まれそうな気がし
てしかたないんだ」そう云いながら、ちらりとイオラスを見る。

●「闘人サヴィニウス」
http://aoi.peewee.jp/long_story/phyria2nd/phyria2nd01.htm

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
         http://murasaki.aoi.peewee.jp/

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