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葵マガジン*山に坐す神 13

発行日: 2005/8/27


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      ◇◆◇◆葵マガジン 2005年8月27日号◆◇◆◇

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          ◇◆◇◆山に坐す神◆◇◆◇

             第13話(全19話)


             いとほしきもの 1


「山神さま」
 私は、山の神の顔を見上げて云った。
「どうぞ山をお取り下さい。私のことなぞは放っておかれて」
 山の神は、私を見下ろした。
 彼は目を細め微笑むと、こう云った。
「お前のその髪に、どうしてもクチナシを挿してやりたいんだ」
 私の胸の中に、そのクチナシの匂いの如く甘く優しい鼓動が起った。
 一瞬私は、天帝の存在さえも意識の外に追い出してしまっていた。
 この世界には、山の神と私しかおらず、そして私たちの呼吸と体温と見つめ
合う眼差しより他に確かなものなどないと思われた。
 気がつくと私は彼の首に腕を回し、かき抱いていた。
 私たちが唇を合せずにいたのは、そうして抱き合って立っている足の裏から
ごろごろと不吉な地響きが昇り始めたからに他ならなかった。
 天帝は今まさに、持てるすべての雷をこの山の大地に、木々に、そして生き
物たちに向けて振り下ろそうとしているのだ。
 山の者たちがおろおろと不安に身を苛まれているだろう姿が目に浮かぶ。
 それは山の神も同様であるはずだった。
 彼の黒い瞳の中に、私は身を切られる痛みに耐えるのと同じ表情を見た。
「やめろ」山の神は云った。「山に、手を出すな、天帝」
「では私に寄越せ」天帝は委細構わず、杉の大木を三本まとめて雷にて打ち、
裂いて倒した。
「お前などには渡せぬ」山の神は怒鳴った。
「ではこうだ」天帝はさらに檜を三本、そして大地を逃げ惑っていた四つ足の
三匹を、雷で打った。すべてのものは一瞬にして焦げ、命を失った。
「やめてくださいまし」私はついに叫ばずにいられなかった。「天帝さま、わ
たくしがあなた様の元へ戻りまする。それにてどうか、山への仕打ちはお止め
くださいますよう」
「リ=リ=ツェル」山の神が茫然とした声で私の名を呼んだ。
「ふん、烏」天帝の言葉はしかし、冷たさを増すばかりだった。「もはやお前
が行くの戻るのなど関係ないのだ。自分を買いかぶるな、烏の分際で」
 私は恥に身をすくませた。
 山の神はいよいよきつく私を抱き締めた。「もう、そんなことは云うな、リ
=リ=ツェル。お前は山に、ここにいればいいんだ」
「けれど」私は首を振った。「わたくしは、どうすればいいのか」
「俺に力を貸してくれ」山の神はそう云って私から手を離した。「共に、戦っ
てくれ」
「──はい」私は決意を固め、山の神と並んで立つと天帝をぐいと見上げた。
「山よ、起て」山の神は宣り叫んだ。「地よ、禍もたらすものを封じ呑みこめ」
 私もまた山の神の宣る言の葉と同じものを胸に思い、気を大地に向けた。
 これまで向けてきた中で尤も特別な意識を山の大地を為す砂の粒、土くれ、
石のかけらたちに向けた。
 すると山の大地は低く鳴動を始めた。
 天帝はまた雷を打ち下ろした、それは木々を倒した。
 山の大地はついに立ち上がり、空に浮かぶ天帝めがけて砂が、土くれが、石
ころたちが腕を広げつかみかかった。
 天帝は呑まれ、地中に引きずりこまれて消えた。
 大地は震え、大きく揺らいだ。
 山の神は厳しくその揺れを見つめ、天帝が封じ込められた場所を歯を食いし
ばって睨んだ。
 私もさらなる気を送った。
 地が、山の大地が天帝に負けぬことを祈った。
 だが天帝の抗いがついに勝った。
 天帝を封じ込めていた大地の部分が突如山のごとく膨れ上がり、そこが避け
て、黄金の槍が凄まじき速さで空に昇った。
 私は衝撃を受けたけれども、もはや天帝に山を攻めつづける力は残っていな
いようだった。山の大地に吸い取られたのだ。
 それで天帝は、ほうほうの体で天界へと翔け戻っていくのがやっとだった。
 山には静寂が戻った。
 私はがくりと膝を突いた。
「大丈夫か、リ=リ=ツェル」山の神が私を支え、助け起こした。
「は、はい」私はそう答えたけれど、すっかり疲れきっていた。
「ありがとう」山の神は私に礼を云った。「おまえのお蔭で、助かった」
「何を仰います」私は少し笑った。「わたくしの力など──」
「おまえの、おかげだ」山の神は、ゆっくりと云い、私の額に唇で触れた。
 私はとろりと山神の胸にしなだれかかった。とても心地好く、ずっとこうし
ていたいと思った。
「いわくら磐座の中の、柔らかな草の寝台でしばらく休むといい」山の神はそ
う云って私の体を両腕に抱え載せると、空へ飛び上がった。


 眠っている内、磐座の外で不意に雨の音が聞こえ始めた。
 天帝が、今度は氷の粒の多大なるばら撒きによって山を攻めようとしている
のだ。
 私にはそれが判ったけれども、体はまだ癒えておらず、再び深い眠りに落ち
た。

 次に目覚めたとき、山の神が磐座の裂け目から外を眺めている後姿が最初に
目に入った。
「雨は──」私はそっと声をかけた。
「起きたのか」山の神は振り向いて微笑んだ。「雨は、もう大分になる」
「大地は──山は大丈夫なのでしょうか」
「うん……」山の神はまた外を見た。「降りそのものはそれほどでもないのだ
が、いつまで続くものか」
「──」私は立ち上がった。
 今、山の神と二人でいるのだと、思った。
 山の神が振り向く。
 私は衣を足許に落した。
 けれど、山の神を見ることができず、顔は横に向け、眼を閉じたままだった。
 山の神は、わざとのようにゆっくりと、一歩一歩私に近づいて来て、その吐
息が感じられるほど近くに来た。
 彼の指が、私の頬に触れた。
 私の顔を彼の方に向かせると、私の髪を梳いて、それから腕を回して、息が
止まりそうになるくらいゆっくりと唇を近づけてきた。
 私の全身が、彼を求めて火照っていた。

                      
                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇


ひとこと感想ノート
http://blue.candybox.to/murasaki/phello/phello.cgi

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         ◇◆◇◆BOOK in POCKET◆◇◆◇

ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、
とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。
その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。

サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状
態にあった。
もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──
ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

●葵むらさき著「魔法野菜キャビッチ2・キャビッチと聖なる雫」連載中

            EZweb公式コンテンツ
EZメニュー>カテゴリで探す>TV・メディア>マガジン>ブック in ポケット
            http://www.bookin.jp/

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         ◇◆◇◆葵マガジン文庫L◆◇◆◇

「そんなこと、云っていません」真は頬を膨らませた。
 それを見た途端、秋那は無意識に、ぷっと吹いていた。竹林に、彼の笑い声
が木霊した。
「な、何が可笑しいの」真は赤くなった。
「どっちが『子どもみたい』なんだよ」秋那は横を向いてくすくす笑いつづけ
ながら云った。
 もう、水音の忠告のことなど、忘れてしまっていた。

●和風恋愛ファンタジー「雪虫」連載中 ※R18 月額100円
http://aoi.peewee.jp/aomgl.htm

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         ◇◆◇◆葵マガジン文庫◆◇◆◇

私は我が脳内におけるドーパミンの大量一斉放出を感知した。
「ちょっと、坂本」ルルドールが横目で私を睨んだ。「あんたすごい、嬉しそ
うな顔してるわよ。いい加減にして」

平和な銀河に突如として現れた謎の怪物。生き物が、ヒトが次々に襲われ始める。
そして宇宙の運送屋・坂本たちに、その捕獲が依頼されたのだった──
長編スペースドライヴアクションストーリー。

「スペースドライヴァー坂本」(2004年6月〜2005年5月連載)
ISBN 4-902525-10-0 
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4902525100/
(お近くの書店でもご注文いただけます)

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       ◇◆◇◆葵のおすすめメールマガジン◆◇◆◇

★☆★ 妄想武勇伝 ★☆★
妄想武勇伝のメルマガです。現在、武士道をテーマにした小説
「銑鉄の竜騎兵」をお送りしています
小説の書き方なども説明しているのでご一読ください
http://melten.com/osusume/?m=21197&u=11489

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

前にちらっと途中経過をお知らせしました「電撃大賞」応募作品の拙作「王様
ロボット」が、なんと……二次選考にまで通過いたしました!

http://www.mediaworks.co.jp/3taisyo/12/12.php
今回は下から数えて13番目です。

正直、「なんで、あんなのが」という気持ちが、ないでもないです。
いやでも、間違いなく、他の作品とは毛色違うだろうな、とは思います。
だって……並んでいるタイトルを、ずらーと見ていっても、あれですよ……
なんちゅうか他のはすごい、ライトノベルらしいというか、幻想的で個性的で、
「うわ、面白そうなタイトル……どんな話なんだろ」と興味をそそられてしま
うのに引き換え、「王様ロボット」……コンパのゲームじゃないんだから……

いや、まあ、でも、本当に嬉しいですし、心から感謝感激であります。

何より、自分の一番好きな「SF」というジャンルでここまで来ることができた
というのが、本当に生きる希望を与えられたことでした。

SF書くの諦めないでよかったです。これからも、負けずに書いていきます。

ところで、来週の本マガジンをお届けする頃、わたくし葵むらさきは、新居に
移転している予定です。
そのため今は無茶苦茶で──むしろ真っ白な灰状態です──

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊展示室◆◇◆◇
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