法華経と聖書(12)
発行日時: 2005/12/10私が、「仏教教義には遠心力が働いて、後世の仏教思想家の教えもすべて釈迦の教えにしていることに疑問を持つ」と言ったら、かならず反論があります。次がそのひとつです。
法華経が成立したのは、釈尊滅後500年ほど経た紀元100年前後といわれており、さらにその一部は後に順次増補されたと見られています。実はこの年代については、明治期以降に発達した近代文献学研究によってほぼ明らかになったもので、それ以前は実際に釈尊が直接説かれたものと信じられていました。そこで問題となってきたのは、それでは法華経は釈尊の金言でもなければ仏説でもないではないかという疑問です。これは法華経に限らず、華厳経や般若経、浄土教経典など他の大乗経典にも全て当てはまります。いわゆる大乗非仏説です。そうした考えの一端は、早くも江戸時代の富永仲基や平田篤胤といった国学者からも指摘されていました。
しかし非仏ということでいえば、現在伝えられている仏教経典はどれも釈尊が直接書かれたものではなく、全て仏弟子やその後の仏教徒集団が作ったものなのです。最も古いとされている阿含経などの原始経典にしても、釈尊滅後200年頃までに逐次成立したと推定されており、これらは釈尊滅後の教団における信仰的依拠として、弟子たちがそれぞれ釈尊の言葉や教えを記録しようとした仏典でした。その意味では後の大乗経典の作成意図も同じです。ただ初期教団(上座部仏教または小乗仏教と呼ばれる教団)やその経典が組織強化のために戒律重視の禁欲的傾向を強めたのに対し、より自由な仏教思想を求める様々なグループによる大乗経典が誕生したというわけです。
ここで大切なことは「仏説」とは何かという点です。釈尊の教えは「法」と称していますが、それはすなわち普遍的真理とその実践を意味するもので、その発見者が釈尊でした。そして釈尊が説かれた真理と実践を如何に受け止め、どう実現していくかが仏教徒に課せられた使命ということになるのです。従って仏教思想が伝播し受容されていく過程の中で、仏説に込められた意図が究明され論理を深められながら成立した各大乗経典は、釈尊の説かれた真理と実践を高度に受容し実現しているが故に真の「仏説」として認められてきたのです。とりわけ法華経は釈尊の本意を際立って高いレベルで伝えています。
これが佛教なので、キリスト教が「聖書のみ」と主張するのとでは、大きな考え方の差があるのですね。人間が作った佛教ですから、神の啓示に基づいて書かれた聖書とは違って当然といえるのでしょう。
佛教各宗派や創価学会などの宗教団体では、経典に加えて、開祖の語録、指導者の思想などが信仰の基礎となっています。そして基本となる教典の教義を敷衍・拡大されていることも珍しくはありません。聖書に基づかない解釈、聖書教義の拡大解釈、あるいは教義の世俗化は許されないキリスト教とはずいぶん違うという印象を受けます。
例えば法華経を信仰する創価学会では、歴代会長の思想が重視されているようですが、こんな記載がありました。
本来、仏教は、生きとし生けるものを、ひとつの黄金の大生命の個々の現れと観る。それが釈尊の悟りです。それを「縁起」とも言い、「空」とも言い、「妙法」とも言うのです。(池田大作他『法華経の智慧』第3巻、聖教新聞社、p. 129)
「仏とは何か」を追求し抜いて、仏とはほかならぬ自分のことであり、宇宙の大生命であり、それらは一体であるとわかった。 “足下を掘れ、そこに泉あり”という言葉は有名だが、自身の根源を堀り下げていく時、そこに万人に共通する生命の基盤が現れてきた。それが永遠の宇宙生命です。
(同上、p. 328)
ともあれ学会は、生命論に始まり、生命論に終わるといってよい。「仏とは生命なり」──戸田先生の悟達に、創価学会の原点があったのです。同上、p. 40)
「仏とは生命なり」・・私はこの言葉を聞いて戸惑いました。それが創価学会の原点であるとすれば、それが法華経の基本教義であり、釈迦の思想であったことになります。
聖書のみが教義であるクリスチャンにとって、佛教はまことに複雑で、理解できないことが多くあります。
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