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それは、1701年のことでした。晴れて徒弟から職
人に昇進したベットガーは、師のツォルン夫妻を招いて
錬金術の実験を行いました。いつもやってる、銀貨を坩
堝で溶かして謎の粉末と混ぜると金になるという実演で
す。このときの金はちゃんと検査され、本物であると確
かめられています。
このニュースは、たちまちプロイセン国内に広がり、
かの有名な哲学者ライプニッツもこの事件に言及して
いるということです。
当然ながら当時のプロイセン王フリードリッヒ1世
の耳にも入りました。そこでフリードリッヒは、自ら
ベットガーの出頭を命じ、自分の目の前で金を作れと
迫ったのです。もちろん失敗したりインチキがばれた
ら、命さえ危ない話です。
恐れをなしたベットガーは隣国ザクセン公国のヴィ
ッテンヴルクに逃れます。しかしそこで彼を待ってい
たのが、強王と仇名されるザクセンのアウグスト1世
でした。
時はあたかも、スウェーデンとの北方戦争の真っ最
中、いくらでも戦費が必要な時期です。
ベットガーの素性と、プロイセンから逃げてきた理
由とを知ったアウグスト強王は、内心しめたと思った
かもしれません。アウグストは錬金術で金を作らせる
ため、ベットガーを首都のドレスデンに連れて行き、
城内に閉じ込めました。
このときベットガーはまだ19歳。鋼の錬金術師こ
とエドワード・エルリックと、それほど違わない年齢
だったのです。
ドレスデンでは、ベットガーは、3人の助手と毎日
実験を繰り返す日々です。助手の他に顔を会わせるこ
とのできる人間は看守と、お目付け役の役人2人だけ、
こうした厳しい環境の中で毎日飲んだくれては暴れ出
す始末。もちろん、期待の黄金などできる気配はあり
ません。
そこで王も考えを改め、1703年になると庭の見
える一角を彼にあてがいます。
この頃、ベットガーの運命に大きな影響を与えたも
う1人の人物との出会いがありました。その人物はエ
ーレンフリート・ヴァルター・フォン・チルンハウスと
いう貴族で、王から磁器の作成を依頼されていました。
当時のヨーロッパでは、中国や日本で作成されるよ
うな硬質の磁器を造ることはできず、せいぜいが磁器
に似せた白い陶器か、軟質磁器と呼ばれるもろいもの
しかありませんでした。そこで東洋の磁器は高い値段
で取引され、磁器の杯から飲めば毒や熱から身を守る
ことができるとか、毒物の入った食事を磁器の器に盛
ると砕けてしまう、などといった迷信まで生まれまし
た。
したがって磁器を自分の領土内で作成できれば、金
ほどではないにしてもかなりの儲けが期待できます。
それにアウグスト強王自身も、マ・クベではありま
せんが、東洋の美しい磁器が大好きだったのです。
とはいえ磁器の製造もかなり難しい仕事です。チル
ンハウスもなかなか成功しませんでした。
一方チルンハウスはベットガーと会ったとき、その
化学知識には並々ならぬものがあることを見抜いてい
ました。
時は1705年のことです。いつまでたっても黄金
を作ることのできないベットガーに、アウグスト1世
もキレかけていました。そのとき、ベットガーを磁器
の製作に従事させるよう進言したのがチルンハウスだ
ったのです。
自分はもう歳なのに、磁器製造への道のりはまだま
だ遠い。自分の後継者を選ぶとすればあの男しかいな
い。
チルンハウスはそう王に申し出たのです。もちろん
ベットガーには、この提案を受け入れる以外の選択は
ありませんでした。(つづく)
今回の参考:ジャネット・グリーソン『マイセン−秘法に
憑かれた男たち』集英社
0界通信オンラインNo.129完−
関連HP:www016.upp.so-net.ne.jp/o-world/
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