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創立35年の老舗「三島由紀夫研究会」の会報を兼ねた、あらゆる角度からの総合研究メルマガ




三島由紀夫研究会メルマガ

発行日: 2007/10/26


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『三島由紀夫の総合研究』 
(三島由紀夫研究会 メルマガ会報)
       平成19(2007)年10月26日(金曜日) 
           通巻 第177号  
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平成徒然草             
井川一久



  ▼ 「特権的」と「至福」と。

 三島由紀夫の諸作品を読み返していて、最も頻繁に目につくのは「特権的」という漢語系形容詞である。
この言葉は同じく頻繁に登場する「至福」と背中合わせになっていて、どちらも常識とは相当に異なる意味を持つ。相対性という人間の存在枠を突破して、あえて絶対性を一気に獲得しようとする自己投企の行為、したがって常人にはいかなる形でも参与することができず、理解することすら容易には許されない行為、それを三島がいうのが「特権的」な、それゆえ「至福」をもたらす行為なのである。

 人間にとって唯一の絶対的行為であるところの自他の生命の抹消につながる行為、つまり自殺または他者殺害。
もっと美しい言葉でいえば、いささかナルシスの相貌を帯びた英雄的人物の、非英雄的大衆によっては永遠に了解されることのない自己犠牲的闘争と、その結果としての聖別された死(聖別とはまさに特権化である)。

このイメージは少年時代から三島の心理に刻印されていて、七○年十一月二十五日の事件はその必然的帰結だったように思われる。
彼のあの壮絶な自死の形は、今なお常人の透視を許さぬ鉱物質の塔のように、この情報化大衆社会の波間に「特権的」に聳えている。

 透視できる人もいるだろう。そういう人は、しかし三島と同じく、絶対性を一気に獲得しようとする自己投企とはどういうものであり、しかもそれを自己の胸中で少々ナルシス的に飾るとはどういうことなのかを理解しうるだけの知的・情念的資質を持たなければならない。


 ▼ アポロン

 三島が最も好んだギリシャの神はアポロンである。
彼はアテネ(アテナイ)のパンテオンに代表される古典ギリシャをあれほど愛したくせに、そのパンテオンの主神でありアテナイの守護神でもあったアテナには関心を示さなかった。彼はあの「嘆きのアテナ」のレリーフを見たとしても、それについて何かを書こうとはしなかったろう。
なぜなのか。
それがわかれば三島の、少なくとも五分の一は理解できるかもしれない。

 三島の小説には、ときどき極めて異様な文語調のフレーズが現れる。
「さるにても」はその代表格だろう。
三島ほどの作家が、かなり砕けた語法の目立つ大衆向けの作品に、なぜこんな言葉を頻繁に使ったのか不思議である。
虫の「すだき」を鳴き声と思い込んでいたらしいところも同じく不思議である。


 ▼ アラン・ポーと三島

  三島はポーを好んだことはもはや読書家の常識である。
しかし彼が、同じポーでも誰の訳本に親しんだのかまったく研究されていないのは問題だろう。

ポーのような人物の作品(小説も詩も)が、昭和戦前期の日本の読者に与えた印象は、訳者によってまったく異なっていたはずだからである。

私は彼が少なくとも少年期に、臙脂色の布表紙で親しまれた講談社世界大衆文学全集(『大衆文学』と銘打たれながら実はインテリないし半インテリ向けだった)の、江戸川乱歩訳の短篇集に猛烈に親しんだに違いないと考える。題は忘れたが、「プロスペロ」という人物の出てくる三島の最初期作品の一つには、乱歩訳の『赤き死の仮面』の影響が明瞭に認められる。時に怪奇や酷烈を通り越して陰惨に堕する三島の作品傾向は、乱歩訳の情調と彼独自の性向との共振をひとつの遠因とするもののように感じ取れる。

 三島にホフマンを好む契機を与えたのも、恐らくは乱歩訳のこのポー短編集だろう。
この訳本には、ホフマンの小説二篇も収録されていた。
『砂男』と『スキュデリ嬢の秘密』である。私自身も小学生時代にこの乱歩訳に魅了され、今に至るまでホフマンの虜であり続けている。
 
ポーのものにせよホフマンのものにせよ、訳文の語学的正確さはともかく文学的正確さでは、乱歩は戦前戦後を通じてほかの訳者すべてを圧倒している。それが若き日の三島を捉えたのである。
例えば『アッシャー館の崩壊』を見事な象徴性をもって飾る詩の乱歩訳と日夏訳を比べると、語学的には日夏訳が断然正確だが、戦前の日本でも知る人の少なかったはずの雅語を理屈っぽくちりばめた高尚過ぎるーー高尚を気取ったーー文体はまるで孤高の老人のようで、美しくも憂愁に満ちた原詩の情調を効果的に伝えたという点では乱歩訳がずっと上である。

 講談社世界大衆文学全集の乱歩訳ポー短篇集は、もはや三島邸の書庫には存在しないだろうが、仮に存在するとして、誰かがそれを調べてみれば、幾つかのページの余白には、少年期の三島の筆跡が見つかるかもしれない。

それは三島研究には有用な作業だろう。
少年期に外国文学の何に誰の訳本で親しんだかは、少なくとも文学を志すほどの人間の個人的無意識の領域に、決定的といってもよいほどの影響を残すのである。


(いかわかずひさ氏は「憂国忌」発起人。元朝日新聞サイゴン支局長。朝日ジャーナル副編集長を歴任。評論家)。
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「憂国忌」
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 三島由紀夫氏が憂国の諫死を遂げる直前、開催された「三島由紀夫展」は「小説の河」「演劇の河」「肉体の河」「行動の河」と四つに展示が分けられた。そこで憂国忌も一昨年は肉体をテーマに細江英公氏の「薔薇刑」を、昨年は「演劇」で村松英子さんに「薔薇と海賊」の予告上演をしていただいた。
ことしは「行動の河」に焦点をあてて次の要領で開催します。
         記
と き    11月25日 午後二時(一時開場)
ところ    豊島公会堂 (池袋東口、三越うら)
       ことしのテーマは、『行動の河』です!
 
   第一部 シンポジウム「あれは楯の会事件ではなかったのか」
       パネリスト 堤 堯(元文藝春秋編集長)
中村彰彦 (直木賞作家)
司会 花田紀凱(WILL編集長)
   第二部 記念講演 「武士道の悲しみ  最後の特攻としての三島由紀夫」
             評論家 井尻千男(拓殖大学日本文化研究所所長)
  代表発起人 井尻千男、入江隆則、桶谷秀昭、嘉悦康人、小室直樹、佐伯彰一、
篠沢秀夫、竹本忠雄、中村彰彦、細江英公、松本徹、村松英子。(当日、会場では入手しにくい奇観本などの頒布会も行われます。会場分担金はおひとり千円)
 ◎どなたでも、予約なしで直接会場へおいでください!

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◎招待券の応募方法!
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 きわめて簡単です
 〒番号、おところ、お名前、を
 「憂国忌」@ホットメール。ドットコム」へ。
 yukokuki@hotmail.com
 招待券発送をもって当選通知に替えます。11月6日までにハガキが到着しないときははずれたと考えてください。
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(編集部から)小誌は「三島由紀夫研究会」(昭和四十六年創設)の会員に限定せず、三島研究の論文、エッセイを常時募集しております。
比較文学論(たとえば「吉本隆明と三島」とか)、作品論(たとえば『仮面の告白』に新解釈)、読後感、政治論、芸術論。まるで分野を問いません。三島先生自身が古典から前衛まで、映画からシャンソンまで万能の作家でしたから。
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皆さんからの御投稿を広くお待ちします。原則として実名。簡単な肩書きをつけて下さい。ただし三島文学批判も構いませんが誹謗中傷のたぐいの投稿は採用しません。ゲスト寄稿者コーナーも常設しております。
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