花岡信昭メールマガジン524号
発行日時: 2008/1/28
<<やはりダメだった「ねんきん特別便」>>
【日経BP社サイト「SAFETY JAPAN」第94回・24日更新】再掲
このメルマガ511号(昨年12月22日配信)で「首相官邸は『ねんきん特別便』を見たのか」と書いた。未統合記録5000万件問題で、厚生労働省が発送した「ねんきん特別便」の内容があまりに分かりにくく、お粗末極まりなかったからだ。
案の定、というべきか、これが問題化した。厚生労働省は分かりにくかったことを認め、100万人に修正したものを再送することにしたという。これによって1億7000万円の経費がよけいにかかる。
厚生労働省、というと旧労働省のひとたちには申し訳ないから、旧厚生省と言い直したほうが妥当かもしれないが、この役所はほとほとどうしようもないデタラメ官庁であることがこれで裏付けられた。余分にかかる費用は旧厚生省の役人たちが自腹を切って負担すべきである。
舛添要一厚労相には、愚鈍な役人たちを相手にしなくてはならない立場を同情する以外にないが、担当大臣なのだから、ここは寝食を忘れ、すべての書類に目を通し、とりわけ国民との接触の部分については詳細にいたるまで把握してほしい。通常の感覚、常識が通用しない役所であることを、すでに身を持って味わってはいるだろうが、「日本の官僚は世界一優秀」などという通説が通らない役所もあるのだということを、改めてわきまえてほしい。
年金5000万件問題を旧厚生省に任せていては混乱を招くだけということが、この再発送問題で改めて鮮明になった。戦後最大級の役所の不始末であり、年金制度という国家の基幹政策の根幹が揺らいでいるのだから、首相官邸が直接、担当すべきだ。
とはいえ、首相官邸の幕僚機能が十分に発揮されているのかとなると、これもまた危うい。米サブプライムローンの焦げ付きに端を発した世界同時株安という緊急事態に対し、福田首相はただちに明確なメッセージを出すことはしなかった。効果はともあれ、ブッシュ米大統領が日本円で15兆円を超える緊急景気対策を打ち出し、曲がりなりにも政権の姿勢を示したのとは雲泥の差がある。
「首相官邸は『ねんきん特別便』を見たのか」と提起したのは、それと同様の危惧を感じたからである。憲法上の規定では首相には、衆院の解散権や自衛隊の最高指揮官といった権能はあるものの、実態としては閣僚をたばねる閣議の議長ぐらいの権限しかない。これを「クラス会の級長さん」と言ってのけた首相経験者もいたほどである。
官邸の中で首相は孤独な存在だ。閣僚のお膳立てに乗って分刻みの日程をこなすことを要求されるが、米ホワイトハウスのように、忠誠心を持った有能なスタッフが「いま、国民に向けて何を打ち出すべきか」といったテーマを四六時中、検討しているというかたちにはなっていない。
だから、年金問題解決への重要なポイントであったはずの「ねんきん特別便」がどういうものであるか、おそらくは官邸の内部で詰めた論議などなかったに違いない。国民意識を常に把握しているパブリシティーやメディア対策のプロが集結していたら、こういうぶざまな展開にはならなかっただろう。
「ねんきん特別便」がなんともおぞましいといわなくてはならないほどの内容であったのは、社会保険庁のずさんな仕事の結果によって生じた未統合記録を、わざと隠しておいて、年金加入者に確認させようとしたところにある。加入記録に欠落部分があっても、「この部分については記録未統合の可能性があります」などと指摘してはいないのだ。役所仕事の通例なのだが、加入記録をただ羅列してあるだけで、空白期間があっても詳細に点検しないと分からない仕掛けになっていたのである。
こういう代物をしれっと国民に発送する。それを官邸がチェックできないというのでは、この国の行政システムの致命的な欠陥を指摘しないわけにはいかない。
そのなんともお粗末な旧厚生省がまたぞろ、あちこちに手を広げようとしている。ダメな役所は仕事をつくり出すことだけは一人前だ。ひとつは「社会保障カード」だ。2011年度の導入を目指しているもので、国民1人に1枚発行、年金手帳、健康保険証、介護保険証を合わせた機能を持つ。それ自体は大いに結構である。だが、導入するからには、旧厚生省任せにしておくと、とんでもない結果を生みかねない。
かつて、脱税防止のために打ち出された国民総背番号制は金丸信氏のツルの一声で立ち消えとなった。埼玉に要塞のようなコンクリートのコンピューター設置ビルまで造ったのだが、その後、統一カードの話は再燃していない。
何種類もの番号を持たせるのではなく、「1人1番号」のカード構想そのものは支持したい。それには個人情報の保護に万全を期す体制が前提だ。旧厚生省の所管範囲内だけで「社会保障カード」をつくるという次元から大きく脱皮させる必要がある。税金、預貯金、医療記録、運転免許証、選挙投票権そのほか、この1枚さえあればなんでも可能というカードが当たり前となる時代に備えるべきだ。
となると、旧厚生省のレベルではとてもではないが任せてはおけない。早急に官邸主導で新時代の国民カードのあり方を検討する必要がある。住民基本台帳問題との兼ね合いも残されている。
もうひとつ、日本経済新聞22日付にこういう記事が載った。生活保護を受けている55万人余の高齢者(65歳以上)のうち、52%が公的年金を受け取れない「無年金者」であることが厚生労働省の調査で分かった、というのである。
無年金者というのは、保険料の納付期間が最低基準の25年未満か、年金をまったく払ってこなかった人を指す。年金と生活保護のあり方をどうするか、これまた旧厚生省の次元に任せてはおけない国家的課題である。
年金問題が浮上して、こういう話が永田町に流れた。「国民年金を払い続けても受給額は月に6万円程度。年金を払わずに来て生活保護を受ければ月16万円」。数字に若干の誤差があるかもしれないが、現行の年金と生活保護の不可解な関係を示している。年金を払わずに生活保護を受けたほうが得策というのでは、公平な行政施策とはいえない。
年金5000万件問題は「福祉国家・日本」の実態を如実に示す契機となった。旧厚生省のやってきた施策のずさんさが、年金のみならず随所に表面化しはじめたといっていい。「ねんきん特別便」の教訓をどう生かしていくか、福田首相は確固たる声をあげるべきである。
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<<読者から>>
★ 民主党は今国会をガソリンを中心にして政府与党を追い込み、解散総選挙を狙っているようです。暫定税率を10年間実施するという政府与党側にも問題があるとは思いますが、ガソリンが一時的に価格が下がっても、法案が成立すれば、また上がるというのでは混乱を招くだけだと思います。各地方公共団体を納得させる暫定税率廃止に代わる財源も明らかにはされていません。
無駄な道路は確かにあるでしょうが、そのことは別の問題として追求するべきでしょう。暫定税率の税率を下げる、あるいは期間をたとえば2〜3年ぐらいとするなどで妥協できないでしょうか?暫定税率関係の法案を一本化しているのも問題だと思います。与野党がよく話し合い、決着させるべきで、この問題で政局が混乱するのは避けるべきだと思います。(Iさん)
★ それにしても福田内閣も、やる気が感じられず、その無策ぶりは目を覆うばかり。一方、民主党も相変わらず党内一致するわけもなく、本気で政権を任せられるかと言えば心許ない現状、経済が二流どころか、三流国家に成り下がるのではないかと危惧しておりま
す。
親子共々の教育はもちろん、政治家の再教育が必要なのではないでしょうか?二世三世、松下村塾と似て非なる松下政経塾出身者が跋扈している政界は異常なんだという意識を持つべきでしょう。もちろん有能な二世三世議員、松下政経塾出身議員もいることを願っているのですが……。10年先の日本、果たしてどうなっているのか? 暗澹たる思いを抱くのは私だけではないと思います。嗚呼。(TKさん)
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