国際結婚して15年。中東アラブのとある首長国に住んでいます。結婚前は世界を股にかけて自由奔放な生活をしていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。
- 最新号:2008-09-26
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アラブからこんにちは〜Vol. 139 アラブ人として生きる(4)
発行日: 2008/7/7
Vol. 139 アラブ人として生きる(4)
今から3年前の夏、長男のクラスメートが中学卒業を機に、
故郷のパレスチナに戻りました。
UAEには他の中東諸国に劣らず、多くのパレスチナ難民が
生活しています。彼らの多くは難民という言葉とはほど遠く、
大金持ちで自由闊達で、教育程度も高くリベラルな思想の
持ち主が多い。
その友だちも生まれたときからUAEに暮らしていましたが、
何年も自国に戻らないとイスラエル政府から通行証が
おりなくなるので、パレスチナの親戚の家に移って、
高校に通学することになりました。
壮行会をやった晩、息子は12時過ぎに戻ってきてこう言いました。
「僕たちね、あいつに死ぬなよって言ったんだ。死んじゃったら
もう会えなくなるから。お金に困ったら、みんなで
2000ディラハムずつ出して送金するとも言ったんだ。」
その時、私は自分の体から心臓だけが落ちたかと思うほど
驚きました。
確かにパレスチナとは、いつ流れ弾が飛んでくるか、
タンクに踏み潰されるかわからない国です。けれど、
それが昨日まで我が家に訪ねてきた少年の身に起こる可能性は、
この平和なUAEで考えたこともなかった。
私は小さな声で訊きました。
「どうしても戻らなけりゃいけないの。もっと大人に
なってからでいいじゃない。まだ高校生なんだから。」
「戻らなきゃいけないから、行くんでしょ。」
「それなら闘うなって言った? 兵士に逆らうな、
武器を持つなって、ちゃんと友達に言ったの。」
「だってママ」
と息子はため息を吐きました
「それは僕たちが言うことじゃない。」
「でも命が一番大切なんだよ。生き延びて大人になったら、
次の時代を見ることが出来るかもしれないんだから。」
息子はそれに返事をしませんでした。
私はその日、息子の友達の家に電話して、出国を思い留まるよう
話すべきか迷いました。しかし受話器を握っても、
結局言うことが見つからなかった。
パレスチナ人として生まれ、生きるとはどういうことか―――。
神から授かった運命を生きることが自分の使命だとしたら、
その時代の最も出来る限りの「生」を生きるしかないのだ、
と考え続けました。
また、おととしの夏、長男のクラスメートが故郷スーダンに
戻りました。
スーダンでは大学システムがちがい、高校2年を終え、
ある程度の試験に通れば入学できるのだそうです。
ですから友達は、経済的事情なのか、父方の部族の事情なのか
わかりませんが、高校3年をとばして大学に入学することになった。
そこでまた壮行会をやりました。
今度のはなむけは「夜に外を歩くな」「騒いで人を怒らすな」
「騒動の近くに寄るな」です。
スーダンはある種無法に近い社会があって、金持ちは
武器を持った警備員を必ず自宅の屋根に待機させているそうです。
夜中に騒ぐ人がいると、警備員はうるさい方角に平気で
銃をぶっ放す。誰がどんな事情で怪我をしようと、
怪我をした人間が一番損をするのです。
だからスーダンでは、「スーダンなりの常軌を逸脱しないで、
スーダンなりの日常安全と思われる行動をとればいい。
そうすれば無事に生き延びるだろう」と。
高校生たちは平気でそんな話題を話してくるのです。
平和な日本で高校生活を送った私には、「へぇ〜」という
驚きばかり。これも、自分の授かった運命を、
つまり生きる場所と時代を、背負うことなのだと
実感した覚えがあります。
またつい先月、娘のクラスメートがエジプトに帰国しました。
娘と首位を争う明晰な子で、エジプトに戻って高校の
最終2学年を過ごし、大学の医学部をめざすのだそうです。
UAEでどれほど好成績で卒業しても、エジプトの
教育レベルはもっと高いから、入試の評価でマイナスされて
(たった1点低くなるだけなのだが)、医学部には
入れないのだそうです。
つまりUAEで98点平均で卒業しても、エジプトでは
97点分しかとれていない評価になる。UAEの大学は
外国人には無料ではないから、経済的に無理なので、
エジプトの大学に入るために帰国していきました。
自国へ帰れば、父親の収入は激減します。(たとえば
学校の教師の給与は、UAEでは最低Dhs4000だけれど、
エジプトではDhs600程度。)だから父親はもう一年だけ
UAEでの仕事を延長してもらい、稼げるだけ稼いで、
家族は一足先にエジプトで生活を始めることになったのでした。
アラブにはさまざまな国があります。
それぞれに国状があり、そこに暮らす人々にもそれぞれの
事情がある。自分がどれほど望んでも、避けて通れない
苦しい時代があるし、いい時代を生きられる可能性もある。
当然ながら誰でも、目指す未来へつながる最大の可能性を
探して生きています。そしてそれに対する希望や主張は、
誰にも否定できないのでした。
アラブ人として生きる(5)に続く
ハムダなおこ
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