国際結婚して15年。中東アラブのとある首長国に住んでいます。結婚前は世界を股にかけて自由奔放な生活をしていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。
- 最新号:2008-09-26
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アラブからこんにちは〜Vol.136 アラブ人として生きる(1)
発行日: 2008/6/18
Vol.136 アラブ人として生きる(1)
15歳になる長女は、ふと部屋をのぞくと、机の前で
ぼんやり前を見つめていることがあります。
沈思や瞑想は青春にはつきものだから、私は何も言わない。
でも心をよぎっているだろうことは、少し想像がつきます。
彼女は先月も書いたように、UAE代表としてワシントンDCに
行くはずだった。でも行かなくなりました。
それは夫が断ったからです。
これには長い、しかし単純な話がついています。
娘が代表に選ばれたとわかったのは、選考試験から何日も
過ぎたあとでした。あまりに長い間教育省からの
連絡が来ないので、半ば諦めていたところに、
夫に電話が入りました。
文字通り私と娘は飛び上がって喜んだけれど、
直接電話を受けた夫は、その瞬間から疑り始めていたのです。
最初におかしいと感じたのは、代表として選ばれた高校生なのに、
米国へ行くための観光ビザを自分で取るよう
指示されたときです。
アメリカ政府からUAE教育省へ正式に招待された
留学であるはずが、教育庁が一括してビザをとらず、
各自で大使館に行けと言うのです。
夫は異を唱えたけれど、これがテロ戦争に備える現在の
アメリカの姿勢だといわれれば仕方ありません。
指示通りドバイの米国大使館に電話をかけました。
すると、
「このプログラムに関してはアブダビの大使館が一任
しているので、アブダビへ行くように」
と言われました。
夫が片道3時間もかかるアブダビの大使館まで出向くと、
ビザ申請書類をすべて受け取った後で、翌日
「アブダビの大使館はアブダビ居住者だけを対象に扱うので、
それ以外の首長国に住む人間はドバイでビザを取るように」
という返答が戻ってきました。
夫はここで再び教育庁に電話をかけ、いったいどうなって
いるのか、直接高官に訊きました。
すると事実はこんな形で現れたのです。
アメリカ政府が、優秀な高校生をワシントンにあるカレッジに
語学研修させる招待状を送ったのは、UAEだけでは
ありませんでした。湾岸諸国ではカタール、クウェート、
サウジ、オマーンなどすべての国に届いていた。
それぞれの国はプログラムを吟味して、安全でかつ
意義深いものなら自国の優秀な高校生を送ってもいいと
返答をしました。
ところが米国側はいつまでも、日程とカレッジの名前しか
教えてこない。たったひとりで渡米する高校生を
どこに滞在させ、誰が世話をし、どのようなプログラムに
参加させるのか、何も提示してこないので、
UAEをのぞくすべての国は、
「そんなプログラムに、自国の財産ともいうべき優秀な学生を
送れない」と最初から断ったのだそうです。
けれどもいろいろな政治的背景があってUAEは断りきれなかった。
その後、教育省は何度も米国側に問い合わせたのですが、
結局2ヶ月たってもはっきりした答えをもらえなかった。
最後に分かったことは、
「どうやら米国側の交渉相手はテキサスのカウボーイらしい」
ということだけでした。
これには私も驚きました。教育庁が総力を挙げて理解したことが、
「相手はカウボーイ」だけとは。
そして教育省は方向転換したのです。つまり選考試験以後の
努力をすべて放棄した。
「残念ながら教育省としては、このプログラムの責任を
まったく負えない。行くと希望するのは自由だが、
できるなら選ばれた子ども自身の決断で、行かないで欲しい。」
そこで夫はすぐに返答しました。
「自分の娘をそんないい加減なプログラムに参加させられない。」
「そうですか。実は選ばれた生徒のうち、行くと決めた子は
ひとりもいないのです。」
それを聞いた時の私の呆れ返りと腹立たしさを、どう説明
できるでしょうか。あれだけの努力と期待をかけさせておいて、
そんなお粗末なプログラムがあるのだろうか。
やる気がないなら、なぜ最初からこんなお膳立てをしたのか。
せっかく選抜試験をしたなら、別なプログラムに参加さたらどうか。
ここまで努力した娘の気持ちをどうしてくれるのか。
しかし何を言っても始まりません。
時計は動き、そして止まってしまった。
アラブ人として生きる(2)に続く
ハムダなおこ
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