トップ > 地域情報 > 海外 > ヨーロッパ・中東 > アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活

国際結婚して15年。中東アラブのとある首長国に住んでいます。結婚前は世界を股にかけて自由奔放な生活をしていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。

  • 最新号:2008-09-26
  • 発行周期:不定期(月3〜4回)
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  • 創刊日:2005-05-04
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アラブからこんにちは〜Vol.135 育てる努力と難しさ(6)

発行日: 2008/5/15


Vol.135 育てる努力と難しさ(6)


その次の週は、次女の英語インタビューが控えていました。
英語の授業で学校の代表に選ばれ、首長国一を決める
最終審査に出るのです。
自宅で英会話の練習をしてみると、いい加減な性格の次女は
「お父さんの職業はポリスマン、お母さんは看護婦です」
と平気で嘘をつく。
驚いて、「なんでそんないい加減を言うの」と訊けば、
「ポリスマンだったら、それ以上訊かれないじゃない。
 ビジネスマンって言ったら、どんなお仕事ですかって
 訊かれちゃうよ。どう言うの。」
「工場を経営してるって言えばいいでしょ。」
「何工場って訊かれるよ。」
「プラスチックと言えばいいでしょ。」
「そんな難しいこと言えないよ。ポリスマンでいいんだよ。」
「ばかな。ママだって看護婦じゃないでしょ。」
「いいの。うちにいるって言ったら、何しているのか
 訊かれるよ。」
「おうちの仕事をしているって言えばいいじゃない。」
「おうちの仕事は何ですかって訊かれるよ。たくさんあるから
 言いたくないんだよ。」
「ばかな。嘘はすぐバレるでしょ。」
いや誰もわからないはずだと娘は言い張ります。
「あんたね、首長国内でパパを知らない人なんていないんですよ。
 パパの名前を出してポリスマンなんて言ったら、
 どんな嘘つきの子供かすぐわかっちゃうんだからね。」
娘の顔は蒼ざめます。
「それからここに日本人は一人しかいないんだよ。
 首長国に病院がひとつしかなくて、日本人の看護婦が
 いないってことは誰でも知ってるでしょ。嘘つきは
 優勝しないと思うよ。」
困った困ったと娘は言い、また最初から練習のやり直しです。
こうして私は家の中でインタビューの練習ばかり繰り返し、
4月はインタビュー専門家になれるくらい訓練を積みました。

それにしても時代は変わって、子どもといえども本当に忙しい。
展示会、発表会、プレゼンテーション、インタビュー、
ステージ、競技会、オリンピック。勉強もアクティビティーも
生半可の努力では足りず、時間の管理をしっかり出来なければ
とても24時間では間に合わない。
30年前の自分はどうやってあんなにのんびりした
子ども時代を送れたのかと不思議で、また幸運な思いで
いっぱいになります。

幸運という意味では、確かにUAEの子どもは今
いい時代にいると言えるでしょう。産油国でGDPも高く、
教育程度も進み、政治は安定し、自由を謳歌できる
時代にある。そして中東に住む子どもは、それがいかに
稀有でかつ幸運であるかを知っています。自分の幸運を
当然と思っているわけではない。
この一連の行事を通して、私が最も驚き感銘を受けたのは、
こうした最優秀の生徒たちに与えられる訓示でした。
選抜制度の合格者や奨学生には、必ず次のような
言葉が添えられます。
「より多くの才能を持った人間は、より多くの責任を
 果たさなければいけない。より多くのチャンスを
 もらった人間は、より多く社会に還元していく義務がある。
 きみたちの仕事は簡単ではない。これからも長い間
 続いていくのだ。」

ザカート・アルアルムというイスラームの教えには、
「ザカート=喜捨」は、お金だけでなく
知識(Knowledge)も含まれるとあります。
大金を持っている人は、1年に一度定められた割合を
社会に還元していく義務があります。同様に知識を持つ人は、
それを知識のない層にも伝えていく義務を持つ。
それが本人の大変な努力の結果であるとしても、
知識を自分だけのものにして私利を得るだけでは
いけないのです。知識は決して私有物ではなく、
社会に共有され役立つものでなければならないと。

世界のどこを見ても、どの歴史を見ても、知識を得る
ことができるのは限られた人間だけです。
生まれる時代、場所、国状、社会的ステータス、家庭の事情、
健康状態というさまざまな要因が整って、初めて可能となる。
もちろんその上に本人の努力が加わり実っていきます。
つまり知識はまさに神様からの恩恵であるから、
それを社会や人に還元していくのは、持つ者の当然の義務
となるのです。
そう考えれば、難関を越えてきた選抜試験の合格者に対して、
あのような高い敬意を払い、手厚いもてなしと
大きな投資をすることは、つまり国全体の知識を
増やしていくことにつながります。

それにしても自分の子どもを育てるだけでもこのように
大変なのに、自国民を育て知識を増やしていく努力が
国にとっていかに大変かということを、
つくづく考えさせられる出来事となりました。


育てる努力と難しさ(了)


ハムダなおこ

 
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発行者プロフィール

ペンネーム : ハムダなおこ

  • 国際結婚して17年。アラビア湾岸にあるアラブ首長国連邦に住んでいます。結婚前は自由奔放に世界を駆け巡っていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。

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