国際結婚して15年。中東アラブのとある首長国に住んでいます。結婚前は世界を股にかけて自由奔放な生活をしていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。
- 最新号:2008-09-26
- 発行周期:不定期(月3〜4回)
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- 創刊日:2005-05-04
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アラブからこんにちは〜Vol.133 育てる努力と難しさ(4)
発行日: 2008/5/7Vol.133 育てる努力と難しさ(4)
見れば私の右隣の少女は、英単語表を握ってぶつぶつ
言っています。
驚いて娘に「今日のインタビューは英語なの」と訊くと、
「知らない。私は何も聞いていないよ。」
その少女に訊ねれば、
「私はアジマン首長国で選ばれた唯一の女生徒で、
遅れないよう交通渋滞を避けて、朝8時にはここに
来ていました。もうすでに一時間半待っています。
今日は英語で面接です。」
と話してくれました。
「英語だって、あんたどうする?」
娘はアラビア語も日本語も問題ないが、英語ならさすがに
心の準備が要るはずです。それなのに平気で鼻をじんじん
かみながら、
「各首長国からひとりずつは選ばれるんじゃないの。
今さら何やっても間に合わないよ」
と高をくくっている。
ところが、そのあと来た女生徒たちが、席に着くなりさっそく
シミュレーションを始めたのを見て、娘は焦り始めました。
私自身も、時間を1分も無駄にしないで行動するUAE人を
初めて見ました。まったく時代は変わりつつある。
感心して
「どの首長国から来たの」と訊いてみると、
「ラッセルハイマからです。朝7時に出てきました。」
「今日は英語で面接なんだってね。そんなこと知っていた?」
「はい」と答えて、少女は流暢に話し始めます。
今日は全国から選ばれた男女15名ずつが、インタビューに
来ること。3人の審査員が英語で約10分間さまざまな
質問をすること。その後男女10名ずつが選ばれて
ワシントンに行くこと、などなど。
「よく知っているわね。」
「はい。私の母はここの面接官なんです。」
驚きました。片やすべての情報を知って面接に向かう者と、
片やインタビューの言語さえ知らないまま面接に来た者と。
結果は雲泥の差にちがいありません。
そこで娘に言いました。あんたはまったく不利な状況にある。
面接時間までの間に挽回する努力をすべきだ、と。
そこから娘は真剣に私の話を聞き始めました。
大きな声で前を見て自分をアピールすること。学業成績、
クラブ活動、年間行事、物理や化学の競技会の結果、
それ以外にも音楽、文学、語学、スポーツ、ボランティア、
さらに地域コミュニティーでの仕事など、印象に残る要素を
簡潔に時間内に答えること。
その間にも面接から戻ってきた女生徒が、母親に話すのが
聞こえます。
「アメリカでパレスチナ問題に言及されたら
どう答えますかって訊かれた」
「イラク戦争は占領ではないと考えるアメリカ人に会ったら、
どう応えるかと訊かれた」
なんと。これではもっと政治問題も含めて考えなければ
いけません。ふたりで一時間近くシミュレーション
したでしょうか。練習を終えると娘はトイレに立ちました。
私ときたら、すでにぐったり疲れている。
トイレで娘はさっそく友だちをつくり、いろんな情報を
集めてきました。今日来た生徒で平均点98点以下の人は
いないこと。誰もが甲乙つけ難く頭の回転が速いこと。
他の首長国ではすでに英語のインタビューが行われ
候補者が絞られてきたこと。政治問題は1問だけ
訊かれること。
延々と時間が過ぎ、名前が呼ばれたのは12時近くでした。
娘が中に入ってから、待つこと10分。あとは本人に
任せるしかありません。
それは何か不思議な気持ちでした。
すでに人生の岐路に立ち、自分の力で歩き始めている娘や息子。
結局私や夫は後ろからほんの少し後押ししただけで、
ここまで来たのは本人の努力に違いない。そして、
その道は一体どこへ延びているのだろうと。
試験を終えた生徒と保護者のために、ホテルから
豪華な食事が用意してありました。こういうところが、
機会平等と知識の平均化ばかりに重点を置いた
戦後の日本の教育とは、随分違うところです。
UAEでは優秀な生徒ははっきりと格別され、その努力に
見合う多大な敬意が払われ、手の尽くした対応と
大きな投資が用意されています。
帰る道々、娘は面接の様子を語りました。
「最初は自己紹介してくださいと言われた。学校の話や趣味、
得意なことなんか。練習した通りうまく答えられたと思う。」
「それからデンマークの風刺画についての意見を訊かれた。
表現の自由を主張されたらどうしますかって。」
(デンマークの風刺画問題:2005年にイスラム教の
預言者ムハンマドを戯画した漫画を、デンマークの新聞が
掲載して国際問題となった。イスラームでは、預言者や
アッラーの偶像化を厳しく禁止している。
2008年初頭、同新聞は再びその風刺画を掲載。
現在イスラーム諸国では、デンマーク製品不買運動が
起こっている。)
「それでどう答えたの。」
「何をどう考えるのも自由だけれど、表現する権利は
相手の立場をリスペクトしなければ成立しないって言った。」
私は驚いて「そんな難しいことを言ったの。」
「うん、同じ記事を新聞で読んだから。あぁアメリカは
好きですかとも訊かれた。」
「それで」
「国は好きだけど、外交政策は嫌いだと答えた。」
「へぇ、いつそんなこと勉強したの。」
「ドバイのムハンマド首長がテレビでそう言ってたよ。」
ふうむ、子どもを甘く見てはいけません。漫画ばかり見て
呆けているのかと思ったら、案外そうではなかった。
娘は娘のやり方で、世界を理解しようと努力しているのだと
考えさせられました。
育てる努力と難しさ(5)に続く
ハムダなおこ
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