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国際結婚して15年。中東アラブのとある首長国に住んでいます。結婚前は世界を股にかけて自由奔放な生活をしていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。

  • 最新号:2008-09-26
  • 発行周期:不定期(月3〜4回)
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アラブからこんにちは〜Vol.121 年末を飾ったもの(3)

発行日: 2008/1/18


◆━━☆アラブからこんにちは〜中東アラブの知られざる主婦生活☆━━◆
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Vol.121 年末を飾ったもの(3)


しばらくすると50歳前半くらいの地味な格好をした女性が、
私たちのテーブルに座りました。
初めてあった人なので自己紹介すると、
「あぁ、黄色い家のマダム・ユーセフだね。
 あんたのことはわかるよ」と。
私は首をかしげて、一体いつの間に自分の噂が広がるのか
いぶかります。
17年前のこの田舎町で、日本からお嫁さんをもらった男性が
いるという事実が確かに広まらない訳がない。
ましてや夫は政府の奨学金で留学したエリートのはしくれです。
地元の娘がこんなにいるのに何故わざわざ日本から嫁を
もらったのかと、結婚当時夫の父親の家には
文句がたくさんきたそうです。
そんな昔のことはどうでもいいが、私が家の前庭を
草むしりしている姿とか、ハシゴにのぼって
玄関の電燈を付け替えている姿とか、ペットのために
シャベルで穴を掘り柵を打ち込んでいる様子とか、
痩せるために庭をマラソンしていたこととか、
知らぬ間に噂になっているのかもしれない。
かといってそれを気にしていたのでは暮らせません。
私にしてみれば、夫の名誉を汚さない行為(つまり酒を飲む、
肌を出した格好をする、男性と外で会う、子どもを折檻するなど)
でなければ、あとは何をやっても自由にさせてもらいましょ、
と考えています。第一そうでなければ結婚する意味がない。
二人の共有する価値観で生活を築くはずが、
片方の生活習慣だけを踏襲するばかりでは、自己否定
されるようで結婚は長続きしません。
それにしても、知らない間にこんなに自分が知られているとは、
随分不思議な気持ちになりました。

隣に座ったその女性は、私に子どもの数を尋ねた後、
自分のことを言いました。
「うちには息子は9人」
「そりゃすごいですね。育てるの大変だったでしょう。」
同情する私に、
「それから娘が3人」と付け足します。
「えっ、じゃ全部で12人ですか。マシャラ!マシャラ!
(驚いたときにすぐこの言葉を言わないと恨まれる。
 神の御意思によってという意)。ひとりでみんな
 産んだんですよね」
「当たり前じゃない。そのうちもう6人結婚してるの。
 孫もたくさんいるわよ。」
彼女の年齢はどうみても、私より10歳くらい上でしかありません。
「とてもそういう風には見えないけれど」
と驚愕とお世辞を交えて言うと、
「なにしろ11歳の時に結婚したから」
と言うではないですか。

え〜〜〜、それでは幼児結婚というchild abuse(幼児虐待)
じゃないか〜と口に出掛かって、慌てて呑み込みました。
絶句する私に、横からアリアが
「彼女は昔の人だからね」と。
なんと! 自分と10歳しか違わない人が「昔の人」とは
一体どういう感覚なのか。いかに凝縮された世代交代が
あったといっても、これでは江戸時代から明治・昭和を
すっとばして平成に飛んだようではないですか。
いやいやこのITのご時世では、2000年まですっとんだと
同じことです。
それにしても私の目の前にいる女性は、我が家の次女より
ちょっと上の年に結婚し、長女の年には2人くらい
子どもがいたことになります。いやはや驚きました。

さらに驚いたのは、あとで挨拶に来た花婿の母親が
自分と同じ歳くらいだったことです。確かに計算上は、
1960年台前半に生まれた女性が17歳くらいで結婚し、
18歳で出産し、その息子が23歳になって結婚したら、
まだ41歳ではないですか。
けれどけれどけれどけれど。私はその現実におののいて、
しばらく考えがまとまらなかった。

ただし驚いたといっても軽蔑しているのではありません。
私は自分の夫がどのような幼少時代を過ごし、
電気も水もガスもないその時代に、彼の母親たちが
どれほど苦労したかをわずかにせよ聞き知っているので、
軽蔑という言葉は当たらない。むしろ尊敬しています。
探検隊にいた頃、自分の面倒は自分で看るという姿勢を
徹底的に叩き込まれた私でも、あの時代のUAE女性
のようには生きられないと思う。

村中の男性が真珠とりの船でいなくなる半年以上の間、
女性は家や社会を自分たちだけで機能させ続けなければ
ならなかった。子どもを8人くらい産み、育て、
老人の世話をし、家畜の面倒をみて、デーツやマンゴーなど
所有する木を管理し、イードには家畜を屠殺して料理し、
娘たちの晴れ着に刺繍をほどこし、さらにお金を稼ぎ、
近所を助け、村社会を動かしていく。
それ以前に生きるための義務、水汲みや火おこしが
毎日あるのです。いつか本で読んだら、水道を持たない国に
住む女性の、水汲みにとられる1日の平均時間は
6時間とありました。
また当時の女性がお金を稼ぐ方法は、魚、マンゴー、デーツ、
清水を売るなどです。清水でいえば、遠洋で真珠採りをする
大型船は沿岸までしか来られないため、女性たちは
井戸から汲んだ清水をヤギの胃袋に入れて、
海岸から大型船まで泳ぎ渡り、波の中に立ち泳ぎしながら
船の人に売っていたそうです。それを何往復もして、
わずかな駄賃を稼ぐのです。
今の私は水汲みだってろくに出来ないかもしれない。
マッチがなければ火も起こせない。この灼熱の下、
家から商店までだって歩ききれないかもしれない。
遠くの船まで泳げと言われたら、もう死を覚悟の身の上です。

メイドもいない時代に、女性たちは妊娠していても、
子どもが病気でも、水汲みや火おこしは抜かせなかった。
読み書きどころか、生き延びるだけで精一杯。
それは100年前ではない。1960年代なのです。
だから学校に一日も行かなくて、読み書きも出来ず、
11歳くらいで結婚して30歳には孫がいても、
それは軽蔑するに当たらないということを、
私は生活の中で学びました。
こうして私の周りに座る地味な姿の婆さんたちは、
皆まさしくスーパーウーマンなのです。


年末を飾ったもの(4)に続く

ハムダなおこ


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発行者プロフィール

ペンネーム : ハムダなおこ

  • 国際結婚して17年。アラビア湾岸にあるアラブ首長国連邦に住んでいます。結婚前は自由奔放に世界を駆け巡っていたのに、ひょんなことから戒律の厳しいアラブの生活に。5人の子どもをアラブ流に育てながら、湾岸中東の風習・文化・生活をエッセイで紹介します。

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