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写真家・紀行作家の秋野深(あきの・じん)がお届けする、中国・新疆ウイグル自治区の旅の臨場感溢れる写真と紀行文です。かつてシルクロード上で栄えた街の様子やウイグル族をはじめとするさまざまな民族との出会い等の詳細な旅の軌跡です。




秋野深の新疆ウイグル紀行/Vol.75

発行日: 2008/1/10

2008年より、秋野深の写真教室が「Alt-Focus(アルトフォーカス)」としてリニューアル!
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 私が前日ライラと出会った売店の前に、彼女は約束した12時きっかりにやってきた。店番をしていなかったところを見ると、午前中は別のところで仕事をしていたらしい。
 前の晩にライラと話していた通り、私たちは売店の向かい側にあるウイグル料理屋で昼食をとることにした。

 車やバイク、ロバ車や自転車がせわしなく行き交う道路を横切りながら、右手のほうに視線を向けると、前夜に宿へ戻る途中に通った交差点が見えた。
 私の周囲ではクラクションが鳴り響き、交差点は車やバイクが巻き上げる砂塵でわずかにかすんで見える。私はそこで深夜に出くわした、不思議で美しい光景を思い出していた。

 交差点で止まった車のライトが暗闇の中をスポットライトのように照らす。その光の筋の中では砂塵が浮遊している。そこをロバ車のシルエットがゆっくりと横切っていく。アスファルトをたたくロバの足音が深夜の交差点に静かに響く。

 時間帯や交通量が違うというだけで場の雰囲気がこうも違うものかと、私は道路を渡った後も交差点の方角をしばらく眺めていた。
 同じ場所でも、時間帯によってまるで別の場所に感じられるくらいなら、いつでもありえることなのかもしれない。けれども、日頃はなんとなくそんなことを感じることがあっても、頭を一瞬かすめていくだけだろう。ところが不思議なことに、旅の中での一瞬は、そこでしばらく無意識のうちに立ち止まって何かを思い出したり比較したりしてみたくなってしまうものだ。

 もちろん、旅の中では立ち止まる余裕があって、日本で日常をおくっている時にはその余裕がない……。旅の最中は嗅覚鋭く周囲を観察するけれど、日頃は他に考えなければいけないことが山ほどある……。そんなふうに思えないわけではないけれど、本当にそうなのだろうかと考えてしまうこともある。
 特に旅の中で、日頃はあまり考えないようなことを考えた時。日本での日常で気がついてもいいはずのことに気がついていないと初めて自覚した時。そんな時によく思うのは、実は一見忙しそうに余裕なく日常を過ごしている時のほうが、はるかにぼんやりしているのではないかということだ。それは、忙しい中では大事なことを見過ごしてしまいがち、といった意味合いのことではなく、ほんとうにぼんやりしているから考えが及ばない部分が多々あるのかもしれないということだ。
 そんなことを考えてしまうのも、結局は旅の中だからなのだろうか。

 ライラが薦めてくれたウイグル料理屋はお昼時でほぼ満席だったが、そこで働いているライラの中学時代の友人がわざわざ店の奥のほうにある大きなテーブルをあけてくれた。
 「ラグマンでいい? カワプも食べる?」
 ラグマンはトマト風味でこしの強い皿うどん、カワプは羊肉の串焼きで、どちらも新疆にいればどこででも食べられる典型的なウイグル料理だ。私ももう何度食べたかわからないが、旅の後半になってもその味には全く飽きることがない。
 ライラの薦めもあって私は迷いなくラグマンとカワプを食べることにした。

 ライラは、午前中とは別のところで昼過ぎから仕事があるのだという。あまり時間もないようで、彼女は自分が注文したラグマンを半分ほどかき込んだかと思うと、「御代は払わなくていいからね」と何度も私に念を押して足早に店を出て行った。

 ライラはウルムチの高校に越境入学して、卒業後はヤルカンドへ戻ってきた。
 香辛料がたっぷりとかかった香ばしいカワプをほうばりながら、私はライラの日常に思いを馳せてみた。自分の希望がかなわずヤルカンドへ戻ってきた彼女は、今どんな日常を送っているのだろう。

 しばらくすると、店で働くライラの友人が、「冷めてしまったから」と皿の上にあった2本目のカワプを温めなおしてきてくれた。
 

(次号へ続く)

>> お知らせ(秋野深の作品掲載や活動など)
秋野深主催の写真教室が 『Alt-Focus(アルトフォーカス)』としてリニューアルされました
 写真教室アルトフォーカスの新サイトをhttp://www.alt-focus.comにオープンしました。ぜひご覧下さい。
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 また、最新の講座スケジュールや募集開始のお知らせ、講師の活動予定などをメールで毎月お送りする「Alt-Focus News(アルトフォーカス・ニュース)」を発行いたします。ご希望の方はhttp://www.alt-focus.comよりアドレスをご登録下さい。

クラブツーリズム主催 『西部アメリカ 光と地層の幻想風景グランドサークル撮影紀行』
 クラブツーリズム主催・秋野深同行のアメリカ撮影ツアーの申し込み受付中です。通常の旅行ツアーとは違い、撮影を目的とされる方々のために企画された本格的な撮影ツアーです。
 日程:2008年3月10日(月)〜3月18日(火)
 締切:2008年2月9日(土)
 詳細:クラブツーリズム『写真大好き』(2007年秋季号)⇒ パンフレット資料のご請求
     「クラブツーリズム写真倶楽部」スタッフ通信(ブログ)にて紹介されています。
      告知ページへ

 ウズベキスタンのサマルカンドにて作品展示中

 ウズベキスタンの古都サマルカンドの生誕2750周年のイベントの一環として、「ウズベキスタン文化歴史博物館」にて、10点の作品が展示されています。
 展示タイトル : A Journey into Beauty of Architecture of Samarkand"
 展示の詳細とプロフィール、イベントへの祝辞が、ウズベキスタンの新聞Biznes Vestnik Vostoka紙(9月8日版)にて紹介されました。


 2008年も朝日カルチャーセンター横浜校にて講座開講

 朝日カルチャーセンター横浜校にて、2007年1月26日から「秋野深のデジタル一眼レフ入門」(全3回)が開講されます。
  詳細・お申し込み画面へ

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 壁マート(GMOモバイルアンドデスクトップ株式会社)にて、秋野深のデジタル作品集「シルクロード旅情」(10枚800円)を発売中です。 ⇒ 詳細
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>> 秋野深(あきの・じん)について
 1970年生まれ。福岡県出身。会社員生活を経て、現在はフリーランスの写真家・紀行作家。アメリカとアジア(シルクロード、イスラム圏、東南アジア)を主なフィールドとして、自然風景、建築物、人々の生活や文化を撮り続け、雑誌やウェブでは旅のフォトエッセイの連載も手掛けている。
 アメリカ・インディアナ大学研究所を中心とする国際的な芸術と科学の研究・展示プロジェクト「Accuracy & Aesthetics」のオフィシャルフォトグラファーとして、5年にわたって世界5大陸の10都市を訪問・撮影予定。
 ニューヨークアートギャラリー「Renee Fotouhi Fine Art」への作品登録、ナショナルジオグラフィック・WWF(世界自然保護基金)の共同制作ウェブサイトへの写真提供をはじめ、作品は海外の媒体でも紹介されている。
 『イラン・思考の旅』で、第1回文学メルマ新人賞紀行文部門大賞を受賞。アメリカで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・アワード」の2004、2005、2006のプロフェッショナル・ネイチャー/ランドスケープ部門で「オーナブルメンション」賞を3年連続受賞。
 ⇒ 活動や作品の詳細については、Jin Akino Photography をご覧ください。
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