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ぶんぶん便 No.276

発行日時: 2005/8/30

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■■■    「ぶんぶん便」  2005/8/30  No.276
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  作/者/か/ら/

今度の選挙、難しくないですか?

わたし、どうしたらいいか全くわからないんです。

「郵政民営化を国民に問う選挙です!」と小泉サンは言います。

なら、選挙が終わって答えが出たら解散し、もう1回、
選挙すべきじゃないですか?

郵政で選んだ議員に憲法まで決められたらたまりません。

デザート選べるのにメインディッシュ選べない。みたいな。

わかりにくい? そうなんです。

今度の選挙、難解なんです。



――C―o―n―t―e―n―t―s――――――――――――――――


□ 今週のコラム : 母の夢・わたしの夢

○ シネマ de ぶんぶん : 『深紅』



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□ 母の夢・わたしの夢

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子どもの頃、母はいつも家にいた。

鍵を使って帰宅した記憶が私にはない。1度も、ない。
嫁に行くまで、ずっとだ。

家は「ただいま」と言って帰る場所であり、
「おかえり」という母の声は『付きもの』だった。

母は、夕方になると小学生の私を同伴して商店街へ買い物に行く。
中学生になって、私が同伴を断わると、
「呼び鈴が鳴っても無視しなさい。けして出てはいけないよ。
 子どもだとわかると、危険だから」と、
7匹の子ヤギのおかあさんのようなことを言う。

母は子どもに留守番させるのが心配なのだ。

だから母は、ひたすら家にいた。
縫い物や洗濯や料理をしたり、テレビを観たりしていた。
本を読んで聞かせてくれることはなかったし、
人生を語ることもなかったが、
家にいて、いることで、身体をはって、人生を投じて、
子どもを守っていた。

母の、生命に対するピリピリとした緊張感は、時に私をうんざりさせた。

怪我をするからと、包丁を持たせてくれない。
不衛生と言って、お祭りの食べ物を禁じる。
農薬が心配で、りんごもトマトも皮をむく。

私は給食のとき、驚きのあまり叫んでしまったよ。
「このトマト、皮ついたままだよ!」
みなが叫び返した。
「皮、むくの?」

父は週末、たびたび仕事仲間とゴルフに行き、賞品を持ち帰った。
女性向けの小物や衣類が多かった。
留守番妻の機嫌取り系ラインナップなのだろう。
男どもの考えそうなことだ。

賞品には下着もあった。
それはデパートの箱に入った高級かつ清潔そうな白い下着で、
当時はシュミーズと言った。今で言うスリップだ。

母は箱を開けて「あら綺麗!」とうっとり眺め、
そうっと蓋を閉めて、押入れにしまう。
「これはJUNKOがお嫁に行く時に持たせるの」と言うのだ。

中元・歳暮に贈られるシーツや食器類も、結婚式の引き出物も、
すべてが「JUNKOがお嫁に行く時に持たせるもの」として
押入れにしまわれた。

物心つく頃からそのフレーズを聞かされて育った私は、
「私はいつかお嫁に行くんだなあ」と思った。
女の子は家を出て行くものなのだ。
乳歯が抜け永久歯が生えるくらいに当然の成りゆきなのだ。

同時に「お嫁に行かないと、親の予定が狂うんだ」と感じた。

小学校高学年の頃だと思う。
私は居間で本を読み、母は縫い物をしながら、
徒然なるままに、話をしていた。
そのとき、母は私に「娘の将来の理想像」を語った。

「あんたは将来、短大の家政科に進学するのがいい。
 家庭に入ったとき、役に立つからね。
 二十歳の成人式には婚約者が迎えに来るの。
 短大を卒業したら、2〜3年、社会勉強のためにお勤めをして、
 後はかわいい花嫁さんになるといい」

それはもう、うっとりと語るのだ。
これほどの幸福は他にない。という感じ。

それは母自身が歩みたかった女の道なのだ。
母は幼い頃に父親をなくし、働きながら夜間高校を出て、
兄妹の家に居候しながら働き続け、姉の勧めで見合いし、結婚した。
ただ居場所が欲しくて結婚したと言う。

母はそこで「おかあさん」という任務を見つけ、ようやく身分が安定した。
私の目にうつる母は、いつも幸せそうだった。
ずっと家にいて子どもを待つ生活をこれ以上ない安定と感じている。
安定は母にとって、幸福そのものなのだろう。

母の理想は父の理想であり、私の両親の娘への夢は一致していた。
私が4年制の大学に進学したいと言った時の両親の当惑は、
予想通りだった。

「4年も勉強したら、歳をとって、嫁にいけなくなる」だの、
「勉強して生意気になって、かわいげのない女になる」だの、
「見合いで不利」だの、やいやい言うのだ。

当時「女子大生」という言葉がはやり、時代はすっかり変わっていたが、
わがやの価値観は時が止まっていた。

両親の夢と自分の夢とのギャップを私は不幸だと思わなかった。
両親には両親の育った時代や環境があり、
それが彼らの娘への愛情の形なのだ。

親の意に反して、私は大学に行かせてもらったが、
二十歳の成人式には婚約者が迎えに来たし、
卒業して1年たたずに結婚することになった。

親にすり込まれた理想をなぞっていたのかもしれない。
無意識のうちに。

私の結婚が決まると、母は嬉しそうに、
押入れから『古い新品』をごそっと出した。
「好きなものを持って行きなさい」と言う。
鍋やコーヒーカップやシーツや…わがやで使ったことのない
ブランドものが勢ぞろいだ。

私は5歳の頃に眺めた白いシュミーズを手にとった。
黄ばみもせず、まぶしい白だ。
昔、母がうっとりと眺めながら蓋をしめた光景が目に浮かぶ。

母が人生で1度も着ることのなかった美しい下着を私は着る。
「思いっきりかわいい花嫁になろう」と思った。

私は大きな結婚式場で、華やかなウエディングドレスを着て、
お色直しを2回して、精一杯、かわいい花嫁になってみせた。

母は娘が女として最高の幸せを手に入れたと思っただろう。
母の満足気な顔がうれしかった。
母の喜びは、私の喜びである。

その私が十年後に離婚した時、母がどんな気持ちになったか想像できない。
私はたくさんのものを失って、実家近くのアパートに引越した。
引越当日、父は手伝いに来てくれたが、
母は一度もアパートに顔を出すことはなかった。

1週間ほどした暖かい日、母に誘われて大きな公園に行った。
そこは花見の名所で、その時、コレデモカと桜が咲いていた。
ふるさとは私を歓迎していると感じた。
母の理想を裏切っても、母は私を歓迎していると感じた。

私は母の夢を少々勘違いしていたようだ。
娘が元気に笑っている。それが母の望みの核であり、
私はそれを目指せばいいのだと知った。

私にも娘がいる。
私は娘に対し、将来の夢を示唆したことはない。
進路に口を出したことはないし、
結婚も、出産も、してもしなくてもかまわない。
「こういう職業につけばいい」という理想の形も思い浮かばない。
ただ、仕事は一生持ち続けてほしいと思う。

それってやっぱり私自身の夢なんだよね。

金八先生にこんな名言がある。
「親は、子どもに、自分より幸せになってほしいものなんだ」

本当にそう。が、それも、
親の尺度での幸福観でしかないんだ。

子どもはそこに愛を感じ、でも、とらわれず、
自分の幸せに向かってまっすぐに生きればいい。



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○ 『深紅』  -  シネマ de ぶんぶん  - 

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『深紅』9月17日公開 野沢尚原作・脚本
http://www.shinku.jp/site.html


映画の紹介をするのに、出演者でも監督でもなく
脚本家の名前が1番インパクトある。というのも、スゴいことだ。

宮藤官九郎もそういったスター脚本家のひとりだが、
この野沢尚、知る人ぞ知る名脚本家である。

過去に連続テレビドラマ『眠れる森』、『氷の世界』がヒットした。

全体に流れるミステリアスな暗いトーンと、
「誰もが犯人ぽい」設定は、好きな人にはタマらんだろうが、
私にはちょっと苦しい。
謎と辛気くささを1週間ひきずって、それが10回もくり返されるんだもの。
ミステリーは、連続ドラマ向きではないと思う。

彼の作品では『この愛に生きて』と『青い鳥』が好きだ。
恋愛を軸にした人間ドラマで、とにかく強い。
そう、強いんだ、彼の作品は。突き刺さってくる感じ。

遺作となった『砦なき者』という2時間ドラマも衝撃的だった。
好き嫌いを越えて、名作だと思う。
だってあの、かわいそうなくらい善人顔の妻夫木くんを、
最低最悪のワルに設定しちゃったんだから。
「1本とられた」って感じ。

脚本家に収まらず、小説家としても成功した野沢サンが
自身の小説を脚本化したのが、もうすぐ公開される『深紅』だ。

存命のうちに映像化したという点で、遺作は『砦なき者』とされていたが、
最後に書き残した脚本なので、こちらが遺作となるだろう。

『深紅』は、「ひとりを残して一家惨殺」という残酷きわまりない
殺人事件の被害者の娘と、加害者の娘のその後の人生を描いている。

この作品のすばらしさは、「登場人物それぞれに感情移入できる」点だ。
事件を一方的に描いていない。

どちらの少女の痛みも怒りもズンズン伝わってくる上、
あろうことか、犯人の男の痛みも伝わってくる。

犯人役は緒形直人なんだけど、この人、緒形拳の息子で、
デビュー当時はややアイドル傾向のモテ役だったけど、
ルックスがどんどんモタついてきて、モテ役から遠ざかり、
善も悪もこなせる、面白い俳優になってきた。

この犯人は、罪のない子どもまで殺す。めためたに殺す。
その男の痛みがわかった時、私は当惑した。

「K点越えた」と思ったよ。心のK点ね。

終盤、涙が止まらなかった。感極まったのではない。

こんな作品が書ける野沢サンは、死んでしまってもういない。
それがひどく残念で、悲しかったんだ。


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