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ぶんぶん便 No.259
発行日時: 2005/5/3■■■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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■■■ 「ぶんぶん便」 2005/5/3 No.259
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作/者/か/ら/
ささやかな夢があるんです。みんなそうですよね。
それが叶うまでと髪を伸ばしていたら、すっごく伸びちゃったんです。
ささやかでも、なかなか叶わないものですね。
うっとうしいから、髪をふたつに束ねてきゅうっと、
耳の上で結んでみました。
するとびっくり。12歳の私がそこにいるんです。
「まだ夢追ってるの?」12歳の私は言いたげです。
「もうちょっと待っててね」と、ナレノハテは答えます。
――C―o―n―t―e―n―t―s――――――――――――――――
■ 今 週 の コ ラ ム : 聴こえて悪いか?
□ シネマ de ぶんぶん : イン・ザ・プール
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■ 聴こえて悪いか?
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ぶんぶん便で、あまり触れてこなかったけれど、
私はかつて手話を勉強していた。
週に1回、4年間、教室に通った。
やめてしまって長い。ずいぶん単語も忘れてしまったが、
手話で会話している人を街で見かけると、つい目がいってしまう。
「これから病院に行くのか」なんて読み取ってしまい、
イカンイカンと目をそらす。
他人同士の手話を読み取ることは、盗み聞きに値する。
けしてやってはいけないことだ。
4年間の勉強で残ったものは、手話そのものより、
そういった、マナー系知識の方が多い。
初級から上級コースを経て通訳養成コースへと
一見すると順調に進んだが、
4年間で達成感を感じたことは一度もない。
すごく疲れた。精神的にキツかった。
手話教室は全国にある。
カルチャーサークルから自治体の通訳養成まで、
それぞれが様々な方針で運営されている。
私が通った教室は、自治体が運営しており、
「みなで仲良く楽しくやりましょう」ではなくて、
手話への取り組み方に明確な方向性を持っていた。
教師は聴覚障害者(聴こえない人)と健聴者(聴こえる人)が半々だ。
まず手話は聴覚障害者のものだと教えられる。
手話ブームでやたらと勉強する人は増えたが、
聴こえる人たちの趣味や教養となってしまい、
自己満足の材料として広まるのは好ましくないと言われた。
なかなか上達しないので、有志で集まって
自習しようという話になったが、禁止された。
聴こえる人の間で、手話がひとり歩きして
聴こえない人の実情に合わないものになってはいけない、
ということだった。
「手話で歌う」のもハヤリだが、音のない世界の人にとっては
違和感がある。と言われ、びっくりした。
言われてみれば、そうかもしれない。
聴こえない人全員が同じ意見ではないと思うが、
そういう感覚は説明されないと気付かない。
私自身は、歌うのも踊るのも教養でも自習でもなんでも、
手話を少しでも理解している人が増えるのは、
聴こえない人にとって、便利な世の中への第一歩だと思うんだ。
教室では生徒が間違った手話の使い方やふるまいをすると、
「差別的」と注意される。
「あなたは今差別をした」と指摘されるのは、結構辛いことだ。
その夜も生徒はそれぞれが厳しく注意された。
教室の帰り道、一緒に勉強していた年下の友人と、
反省しながら星空の下をぐったりと歩いていると、
彼女はボソっとつぶやいた。
「聴こえて悪いか?って、つい思ってしまった」
ハッとした。
その時、私にも同じ思いがあったから。
彼女も私も昼間は仕事があり、夜の教室で勉強していた。
会うとお互いいつもくたびれていた。それでも続けたのは、
「いつか人の役に立てるかも」という、
口に出すのも恥ずかしいような気持ちが根底にある。
なのに勉強すればするほど伸ばした手が縮こまり、
「聴こえて申し訳ありません」という思いになっていくのは、
とても寂しい。
それからすぐ彼女はやめて、半年後に私もやめた。
やめたら妙にスッキリして、体が軽くなった。
自由を手に入れて、ニガさが残った。
そんなある日、私は近所の病院の待合室で本を読んでいた。
午前と午後の間の休診時間で、待合室には私ひとりしかいなかった。
予約を入れていたので、通常の診療時間より早めに診てもらえるのだ。
すると高齢の女性が待合室に入って来た。
受付に誰もいないので、不思議そうに、
診療時間が書かれているプレートを読んでいる。
座っている私に気付くと、
プレートを指差しながらこう尋ねた。
「3時からなの?」
声に出したのではない。
ジェスチャーと、口の動きでそれとわかった。
仕草の中に、手話特有の動きがチラっと見えた。
おそらく聴こえない人で、普段は手話を使う人だとわかる。
私は手話で答えてみた。
「3時からです。私は予約しているので
ここにいるけど、まだ診療は始まりません。
看護士さん呼びましょうか?」
すると女性はびっくりして走ってきた。
「あなた聴こえないの?」と手話で言う。
「聴こえるけど、手話を勉強しました。
下手だけど少しできます」と手話で答える。
彼女はにっこり笑って「なかなかうまいわよ」と手話を出す。
そして隣に座り、手を動かし始めた。
「娘が長野で出産したの。これから孫を抱きに行くんだけど
その前にここで薬をもらっていきたいの。車を運転するから
直前には飲めないんだけどね」という話だった。
ゆっくり手話を出してくれるので、よくわかる。
わからない単語が出てくると、私は「その単語、何?」と手話を出す。
すると彼女は私の手をとって、てのひらに指で文字を書いてくれた。
どれくらい話していただろう。
疲れなかったし、楽しかったんだ。
手話が通じたからではない。
手話をきっかけに楽しい会話ができたからだ。
手話はきっかけであって、「伝えたい」思いがあれば
どんな手段を使っても会話できるんだ。
手話を学んでよかったと思えたのはこの時1回だけだ。
この時1回だけのために4年間勉強していてよかったと思う。
「聴こえて悪いの?」
心に浮かんだこの言葉があまりにニガくて、私は手話から逃げていた。
逃げずに考えてみれば。聴こえて悪いんだと思う。
もし私が10人のエスパー(超能力者)と近所付き合いをしていて、
私以外の全員がテレパシーで会話できたとしよう。
「明日7時に不燃ゴミ回収よ」という伝達事項を
テレパシーで連絡されたら、私ひとり情報が遮断され、
わがやにゴミがたまり続ける。
「声に出して話してくれ」と私は叫ぶだろう。
するとみな私のために声を出すようになる。
私がいなければテレパシーでしゃべれるのに。
「いっそみんながテレパシーを失ってくれれば」と私は思う。
思わない人もいるかもしれないが、私だったらそう思う。
現実には、社会は聴こえる人前提に作られている。
電車内のアナウンス、病院の呼び出し、バスの停車アナウンス、
大学の講義、映画の音声、車のクラクション、
それらがすべて聴こえないとしたら、世の中はとても不便だ。
多くの人が聴こえるから、そういう社会になっている。
みなが聴こえなかったら、聴こえない前提で情報は伝達され、
聴こえないゆえの不便はなくなる。
聴こえて悪い。このことばを素直に受け入れたら、
その先へ進んでいけそうな気がする。
私の聴こえる能力も、聴こえない人の生活へ
なんらかの形で還元できるはず。そう考えれば、
もっと楽な気持ちで、手話という言語に近付けるかもしれない。
過去、聴こえない人々がしいたげられていた歴史がある。
聴こえない人が社会に出るには、発音しなければならなかったのだ。
ろう学校では手話が禁じられ、教育は「発音する学習」が中心だった。
聴こえる人がラクしたかったんだね。
その時代、手話は聴こえない人同士のコミュニケーション手段であり、
聴こえない人たちのものだった。
それは本当に、そうなんだ。
でも今は違う。
手話は、聴こえない人だけのものではない。
聴こえない人としゃべりたい聴こえる人のものでもあるんだと
私は思い始めているんだ。
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□ シネマ de ぶんぶん 『イン・ザ・プール』
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奥田英明著『イン・ザ・プール』(文藝春秋)が映画になった。
原作を読んだ方、どうでした?
私は原作を読まないまま、映画の試写を観た。
映画の設定をサラッと説明すると、
精神科医と、そこを訪れる患者のそれぞれの物語だ。
患者は3人。
そのうちのひとりが、強迫神経症の女だ。
家を出る時に、鍵をかけたかどうか、火の元は消したか、
カーテンは閉めたかなどが気にかかり、
何度も家に戻ってしまって、外出できない。
そんな不自由な生活をしている。
私にも心当たりがある。
もし○○だったら!と悪い方へ悪い方へと思考がなだれ込み、
ナンニモ起こってないのにジタバタ騒いで、
返ってコトを起こしてしまう。なんてことをタマにやる。
「わたしみたいな女だな」と思い、深く感情移入しつつ観ていると、
彼女はなんと、精神科に行く。どう診断されるか、わくわくしていると、
行った先の精神科医が、その女より3倍くらい変なんだ。
ふたりの会話を聞いていると、女がフツーに見えてくる。
なーんだ私もフツーじゃん。
強迫神経症気味の人が見ると、不安が排除される。
「まじめでやさしい人ほどなるんだよ」という
あたたかいメッセージすら感じる。
そういう意味で、とても感じのいい映画なのだが、
癒しがテーマの映画というわけではない。
この映画の見どころは、なんといってもオダギリジョー扮する
「継続性勃起症の気弱なサラリーマン」だ。
彼は人が良すぎ、マトモすぎる。
彼を見ていると、人をうたぐるのはよそうとか、
油断したまま生きていこうとか思うし、
肩のチカラが抜けて、ヘラヘラと笑えてくる。
これもまた、そういうテーマってわけではないけど、
そういうふうに思えてくるから、結果的に元気になれる。
「そんなフィーリング」の映画だ。
あれこれのらくらと書いてしまったが、
つかみどころのない映画なので、これは実に正しい紹介文なのだ。
非常にうまく「感じ」を伝えられたと思う。
もうじき全国で公開するが、限られた劇場だけってとこが、残念だ。
でもこれを『ハリー・ポッター』みたいに大勢で観るのも
ちょっと変な感じなので、気が置けない友人と
暇つぶし的に観に行くのがいい。
観た者同士で「あのシーン、おっかしいよねぇ、くくく…」
とヒソヒソと笑い合うのもお楽しみだ。
『イン・ザ・プール』5月〜公開
http://www.inthepool.jp/
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