自分のアタマで考えるというシンプル手法を貫き、ぶんぶん頭をフル回転。文職人JUNKOの職人芸を御賞味ください。常識のウソ、社会の矛盾、笑いと元気と、ついでに自分も、発見しよう。映画紹介や記者会見レポもあります。
- 最新号:2008-10-14
- 発行周期:週一回
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ぶんぶん便 No.232
発行日: 2004/10/26■■■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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■■■ 「ぶんぶん便」 2004/10/26 No.232
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作/者/か/ら/
小千谷市に、夫の友人が住んでいます。
こんなときは、じっと待つしかありません。
一夜開けて夜、本人から電話がありました。
こんなにうれしい電話はありません。
欲しいものは「電気」だそうです。
ラジオや電池や懐中電灯を箱に詰めます。
ハブラシ、靴下、パンツ、ティッシュ…もろもろ詰めます。
便利よ届け!と送ります。
すべての方が暖かくしていられますように。心をこめて祈ります。
――C―o―n―t―e―n―t―s――――――――――――――――
■ 心臓が平行四辺形になるとき
□ シネマ de ぶんぶん
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■ 心臓が平行四辺形になるとき
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幼い頃、春は落ち着かない季節だった。
ある朝突然、平日なのに父は出勤せず、ばたばたと家中をひっくり返す。
母はせっせとそれを手伝う。
家中に段ボール箱があふれ、それがいきなり消えると夜が来て、
家族4人タクシーに乗り込んで、真っ暗な街を走る。
昨日友人と遊んだ公園がちらっと目に入る。
もう2度とここへは戻らないことを私はぼんやりと知っている。
両親は小学生の私に引越を事前に説明することはなかった。
だから3学期のぎりぎりまで私は脳天気に学校へ通った。
ある日突然それはやってくる。
タクシーの中で、教室の黒板を思い出す。
「日直 大山」という文字が目に浮かぶ。
文字だけ残して明日から私はそこへは戻らない。
幼い頃から「あきらめる」ことが上手だった。
ゴネたり泣いたりしない。
それはよくも悪くも、私の精神に根付いている。
幸せを手放すのに抵抗しない癖だ。
今は世の中に単身赴任という文化が広まり、
「父親の異動ごときで家族が余計な苦労をせずとも良い」
という感覚が浸透し、すんばらしく平和だ。
もうちょっと遅く生まれてきたかった。
だって私、小学校を5回変わった。
兄は布団をかぶって不登校になった。
兄が憧れの高校に受かった翌日、父の転勤が決まった。
毎年春はほぼ転校だが、万が一、ってことに期待していた兄は
ひどくがっかりし、初めて自分の意見をふてくされずに言語化した。
「ここに残る」
すると母は「じゃあ、いいよ」と言って、さっさと下宿先を見つけ、
兄をひとりアパートの3畳間に残し、家族でさっさと引越してしまった。
兄15才の春。
当時兄も私もそれを当然のことと受け止めた。
一ヶ月でひとり暮らしに白旗をあげた兄は、
憧れの高校を去り、わが家の近くへ転入したが、やはりというか
そこで不登校になった。
両親は兄に同情せず「困ったものだ」となげいていた。
家は父の仕事の都合第一主義でまわっていた。
それは権威とか男性優位とかの問題ではない。
「おまんまを食べる」ことの難しさ、有り難さが
身に染みていた父と母の、疑問の余地のない価値観なのだ。
そういう緊迫感は子どももちゃんと理解して、我慢する。
私と兄はくるくる変化する環境の中で
心にいっぱい怪我をしながら大きくなったものだから、
そういう苦難をすっとばした「単身赴任」というシステムが
まぶしくて、うらやましくて、ねたましい。
転勤は唯一の家族旅行の思い出でもある。
夜行列車や船で移動する。船底での雑魚寝は記憶に鮮明だ。
他人と一緒に寝転がる。って、子ども心にかなり抵抗があり、
カルチャーショックだった。
考えてみれば。
子どもは日々カルチャーショックなのだ。
船底にしばらくいると、ずんずん気分が悪くなる。
どうにも我慢できず甲板に出ると、
ますますユラユラして、目がぐるぐる回る。
船酔いは車酔いよりタチが悪い。
降りられないもの。
不幸からの抜け道がなかなか見つからない時、
「船酔いみたいだなぁ」と思う。
あれはどこだったのかしらん。
旅の途中、国立公園ぽい場所で展望台に昇った。
昇り着いたら、一面の空と山、見事な景色だった。
下はどうなってるのだろうと、低いレンガの手すりから下を覗く。
「ぎゃああああ〜!」景色をつんざくスルドい悲鳴。
振り返ると、母が猛牛の如く突進してきて、
私をわしづかみにし、抱き寄せた。
「ああ!落っこちると思った。ああ!ああ!」
鼻息をはあはあさせながら、私をユサユサ揺する。
子供は頭が大きい。
下を覗いた格好が、そのまま落ちるかのように見えたのだ。
普段、激昂することも、べたべたすることもない、ドライな感覚の母の、
その物凄い形相は、脳裏に焼き付いている。
私の生死を、重要とする人がいる。
そのことは私の記憶に留まり、しっかりと根付いた。
私自身が母となり、娘を育てながら、
その時の母と重なる瞬間がある。
娘を幼稚園に迎えに行った帰り、
私は近所の人と立ち話をしていた。すると、
団地の5階の手すりから上半身を乗り出すコドモの姿が目に入る。
「あぶないわねぇ」と近所の人は言う。
娘だ。
心臓がきゅっとスライドし、平行四辺形になった。
娘は下にいる友人にしきりに話しかけている。
体は落ちるにじゅうぶんなほど前に出て、
足は背後にゆらゆら揺れている。
いきなり声をかけると、落ちるかもしれない…。
私、走る。
落ちたら受け止められる位置に立ち、にっこり見上げて、
「そろそろ帰るよ」と言ってみた。
娘はゆらりと頭を上げる。
そしてゆうるりと足を地に付け、とんとんと階段で下へ降りてきた。
にこにこ駆けてくる娘の両腕をひっつかみ、
「落ちたらどうすんのよ!」と強く揺さぶった。
「死んだらどうすんのよ!」とぐいぐい揺すった。
娘はびっくりして、おうおう泣き出した。
周囲の子供たちはカタマっている。
それでも揺さぶり続けた。
いくら揺すっても気が済まない。
私は少しオカシクなっていた。
この子の生死が、私にとりいかに重要か。
魂が壊れてしまうくらいに。
自分より大切なものがある。
それは暖かく切なく、時には恐ろしいことである。
あきらめが早い私だが、失えないものもある。
それは執念といっていい。
娘を生んで、そんな自分を発見した。
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□ シネマ de ぶんぶん
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『海猫』11/13〜 http://umineko.biglobe.ne.jp/
監督/森田芳光 原作/谷村志穂
出演/伊東美咲、佐藤浩市、仲村トオル
【JUNKOの感想】
山猫は猫だが、海猫は鳥である。
駅のポスター、テレビ、雑誌、今あちこちで宣伝しているから
タイトルくらいは知っている人、多いと思う。
「兄貴が、あんたを抱いた。俺はいやだよ」
この仲村トオルの台詞がキャッチコピーになっている。
けったくそわるいでしょ? 座りの悪い台詞を選んだものだ。
下世話興味系設定や、ラブシーンがやたら話題になっているが
これ、ごつごつと固い、骨太の作品である。
伊東美咲が中心にいて、夫役が佐藤浩市、その弟が仲村トオル。
兄弟両方に愛される女の物語だ。
設定そのものは、ありがちな大人の恋愛ドラマなのだが、
大自然と闘う人々の日々の暮らし、喜びや悲しみが丁寧に描かれていて、
「けったくそわるい」どころか、
「わかるわかる。で、どうする?」と素直に感情移入できる。
弟が義姉を好きになる瞬間の、無表情で射るような目、
その後の気持ちの持続や、時にあふれる感情が、びしびし伝わってくる。
義弟のもとに、一度だけ走ってしまう女の気持ちも理解できる。
いや、正直に言えば、一度だけというのは理解できない。
どんどん行け!と思ってしまう。
なんといっても、広大な自然を大画面で観る贅沢に癒される。
ぼんのくぼからツマったものがすうっと抜けていく感じ。
粘り強く自然を待って、コツコツ撮ったのだろう。
日本の風土と、そこに息づく人間が、じっくりと描かれる。
CGで誤魔化すことのない、すがすがしさ。作意のない誠実な映画だ。
森田監督は、「若手」のイメージだった頃、ぴしぴし話題作を作っていたが
今はしっかりと「21世紀の邦画」の基盤を築いているようだ。
彼の作品で『39刑法第三十九条』は印象深い。これにはグサッときた。
もう一度観たいけど、怖くて観られない作品だ。
今回重要な役に抜擢された伊東美咲だが、
芸達者に囲まれて、肩身の狭そうな演技をしている。
かなりぎこちないのだが、とにかく美しい。
「色が白くてすらりと背が高く、ロシア人の血が入った海猫の目をした女」
にぴったりのルックスで、これはもう伊東美咲以外考えられない。
大役を果たしたと言っていい。
海猫というタイトルもいい。
海猫は鳥だが、山猫は猫である。
狙ったのかな。アラン・ドロンの『山猫』の復元版が、
一部の地域でひっそりと公開されている。
3時間6分だって。トイレが心配だ。
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