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ぶんぶん便 No.131
発行日時: 2002/11/5■■■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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■■■ 「ぶんぶん便」 2002/11/5 No.131
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作/者/か/ら/
秋から冬にかけ、お肌はカサカサしますが、心はウェットになります。
紫外線量が減るからかもしれません。
ソバカスやシミ。女の大敵って言われがちな紫外線ですが、
お日さまの光はすばらしい。程よく浴びると、元気になります。
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■ 初めの一歩は嘘だった
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去年、舌を切った。
ちょっと気になる症状があって、細胞診査のため医者が切開して3針縫った。
幸い良性だったけど、しばらく痛かったし、モノが食べられなかった。
目を潤ませ考えた。
「わたヒ、なんかウホ(嘘)ついたっけ。バヒ(バチ)かな」
すると、あったあった。人生賭けて大嘘ついた。と、思い当たる。
私には離婚歴がある。
23歳で結婚し、十周年を迎える直前に夫にフラれた。
「つき合ってる人がいる。君とはやっていけない」
そう言われた私は、夫の気持ちを取り戻すべくセッセと努力したが、
家事を熱心にやるとか、愛想笑いをする類いで、そういう努力は実らない。
で、あきらめて娘と家を出た。職にありつき、ふたりで暮らすメドもついた。
別居してからは時々夫と会い、離婚の手続きや親権問題を話し合った。
そういう時、娘を実家の両親に預けた。
私たちが何を話し合っているかを娘は知っていた。
祖父母のもとで、絵を描いたり宿題したりしながら、
どういう気持ちで私を待っていたのだろう。
私が戻ると娘は走って出迎えた。
「おかえり! 今日はオジイちゃんと折り紙したよ」と
笑顔で楽しい1日を報告してくれた。
夫の申し出から2年近く経過して、母子家庭も準備万端、
さあもう後は届けを出すばかり。という段になり、
夫は高級ホテルの仏料理店に私ひとりを招待してくれた。
夫婦最後の晩さんである。ひとり8000円のコースを選んだ。
もう財布は一緒ではないのに「もったいない」と思ってしまう、
妻としての名残りがあった。
そこは一階で、ガラス張りになっており、ライトアップされた庭園が
目の前に広かっている。
注文して料理が来るまでの静かな時間に、
夫は小さな包みを差し出した。
「もうずっと、何もしてあげられなかったから」と言う。
開けると、ダイヤモンドのピアスが光っている。
私の誕生石である。くだいた粉くらいの、小さいものほど美しい。
それは昔もらったものと酷似していた。
彼はもういろんなことを忘れてしまったのだ。
若干の寂しさを感じながら「ありがとう」と言うと、
夫は「やり直さないか?」と言い出した。
どれほど待っただろう。
靴を磨き、鍋を磨き、窓を磨きながら、この言葉を待っていた。
待って、待って、「もうダメだ」と見切りをつけたのはいつだっけ。
その決断は、軽くない。すごく重たい踏ん切りだった。
夫の言葉の、あまりの唐突さに黙っていると、夫はさらに続けた。
「家を買おう。3人で暮らす家を買おう」と。
夫は好きな人と別れ、家を買い、自分を家庭に戻そうとしている。
彼の言葉も瞳も、責任感にあふれている。
年貢を納める。に似た責任感だ。それは誠意というものだ。
誠意は良いものだ。しかし「好きだから一緒にいたい」感情とは違う。
今こうしていても、彼にその感情がないのは痛い程わかる。
あいにく私はこの時、まだ彼を愛していた。
愛しているから、私を愛してない夫と暮らすことは難しい。
青臭いかもしれないけど、私は、
「好きだから一緒にいたい」この一念で結婚する。
この一念が叶わなければ、結婚には意味がない。
情熱ほど激しいモノじゃないんだ。
ただ一緒にいたくて結婚して、ずうっとそうしていたいから
別れるのが嫌だった。別れるって決めたのは、
互いにそう思っていないと辛い。って、わかったからなんだ。
私は笑って答えた。
「もう私はあなたを好きではない。やりなおせない」
本当は好きだった。人生最大の嘘をついた。
かけひきではない。きちんと別れるためである。
彼は頬を紅潮させ涙ぐんだ。
久し振りに見た彼の人間らしい表情だ。
一緒に過ごした学生時代を思い出す。案外泣き虫なんだよね。
私にはわかっている。2分もすれば彼はホッとするだろう。
本当に望んでいる未来に踏み出せるのだから。
悲しいのは私のほう。
望んでいた未来をたった今、自分の手で消してしまったのだから。
息苦しくなった。苦しくて、
「これは私じゃない、私の体じゃないんだ」と思ってみる。
そこにウエイターが珈琲を注ぎに来た。
「私はこのヒトなんだ。ウエイターなんだ」と思ってみる。
するとカップルが見える。
「やり直そう」と言う男は、目の前の女を愛していない。
「別れましょう」と言う女は、その男を愛している。
人はこのように、相手の望む言葉を発し、自分の気持ちを相手に言わせ、
物事をややこしくしている。
最後の晩さんは終わった。
最後に「やり直そう」と言ってくれた夫に感謝している。
紙屑から再生紙に復活したくらいに、花を持たせてもらった。
その夜、実家に寄ると、待ちくたびれた娘はもうすうすうと寝ていた。
その柔らかな寝顔に「ごめんね」と謝った。
両親の離婚。あなたの災難は、今日私が決めたこと。
娘のためではなく、夫のためでもなく、自分のために離婚を決めた。
この責任を忘れずにいようと思う。
この日初めて、涙があふれた。
責任の重圧が苦しくて、ヒトリという実感が肌寒くて、
ただもう、ほとほと、悲しかった。
翌朝、ひとりで離婚届を提出し、その足で出勤した。
会社の人に「とうとう提出? おめでとう」と言われた。
きょとんとした。ご愁傷様の気分だったから。でもスグ納得した。
そうよね。とにかく始めの一歩なんだもの。
それからなんだか、くすくす笑いが止まらなかった。
嘘は、今の私への始めの一歩なんだ。
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「ぶんぶん便」2002/11/5 No.131
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