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ぶんぶん便 No.51
発行日時: 2001/9/25■■■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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■■■ 「ぶんぶん便」 2001/9/25 No.51
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作/者/か/ら/
ぶんぶん便はもともと「JUNコラム」と「ぶんぶん特急」の2部構成が
基本でした。メインコラムとおまけのエッセイというわけです。
でも決まりごとが苦手な私。構成は形骸に過ぎず、書きたい放題。
もういいや、ってことで、今回から構成をなし崩しにします。
自由にぶんぶん腕を振り回し、ぶんぶん頭をフル回転。
文職人JUNKOのくり出す元気、よろしくお受け取りください。
――C―o―n―t―e―n―t―s――――――――――――――――
1 『これでいいのだ』
2 『娘が子どもに戻る時』
3 プレゼント送付のご報告
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■1 これでいいのだ
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気になる人がいる。
名前も住所も年齢も知らない深紅の他人だが、気になるのだ。
チャンスがあればいろいろお伺いしたいが、
チャンスがあってもしないと思う。
気安く話し掛けられないオーラを感じるの。
【気になる人 A】 〜マジックヘアの君〜
たぶん近所に住んでいるのだ。
いつも犬を散歩させているから、そうだ。
犬を散歩させながら大阪から東京まで来る人もいるまい。
どんな犬だっけ。
いつもその人にばかり視線がいってしまって、犬の色すら記憶にない。
中年男性である。太っている。背は低い。
つるつるの頭に「髪」を描いている。
んー、たぶんマジックインキの黒だ。テカテカしているもの。
七三の分け目をくっきり地肌として残し、
後は全部、いさぎよく塗りつぶしている。
1本1本描くのではなく、平塗りというヤツ。
そして颯爽と軽快に歩いている。
誰が見てもそれとわかる仕上がりだ。あれを髪だと見間違える人はいない。
証言:頭を黒く塗ったオジサンを目撃し、友人と固まってしまいました。
油性マーカーみたいな色でした。犬を連れていました。 −娘−
何故マジックで髪を描くのか。
○推測
1、ハゲを気にしている。
2、はえ方が気に入らず、そり落として好きなスタイルにしている。
1は、カツラと同じ発想で、一種のカモフラージュである。
すると、ハゲは気になるのに、マジックインキは気にならない。
ということになり、いささか矛盾だ。
2は、女性が眉を描くのと同じ、お洒落である。
でもお洒落ならば、カツラを買うとか、いっそ潔く剃って
かっこいい禿げ頭でキメるだろう。…これまた矛盾だ。
3、おまじない
かもしれない。
【気になる人 B】 〜安全ピンの君〜
電車に乗っていた老紳士。推定85歳。
濃紺のスーツに白い開襟シャツ、パナマ帽をかぶっている。
ステッキの持ち方もイキで、なかなか洒落た老紳士である。
唐突だが、べっこうの眼鏡のちょうつがいに、安全ピンを留めている。
ちょうつがいのボルトの穴に、安全ピンを通して、留めているのだ。
安全ピンはしっかりと、地面に対して垂直に刺さり、きちんと留められ、
老紳士の背筋同様、ぴーんと正しく、姿勢が良い。
○推測
1、途中で壊れたため、今、取りあえず留めている。
2、1のことが以前にあったが、調子が良いので、そのままにしている。
2だと思うのよね。安全ピンと紳士には、馴染んだ風情があった。
気になる人A氏もB氏も、堂々としているのが特徴で、
堂々と、あまりにも当然のように、そういうふうであるから、
そういうふうであることが、正しく見える。
驚いてるコチラが、小さく馬鹿馬鹿しいものに思えてくるから、不思議だ。
私はね。
古い、流行遅れの、年齢不相応な、安物の服を着ているの。
見る人が見れば、妙な、ビンボったらしい格好であるが、
長年馴染んで着心地が良く、愛着があるので、着てしまう。
街へ出る時、ほんの少し、引け目を感じそうになる。
そんな時、彼らの手法を思い出す。
「堂々と、背筋を伸ばし、これが正しいという顔をして」歩く。
だんだん「これでいいのだ」という気になるから、ありがたい。
(ぶんぶん)
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■2 娘が子どもに戻る時
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朝起きるとまず珈琲を飲む。
食事の時も、仕事の時も、寝る前も、家ではよく珈琲を飲む。
カップはいつも同じものを使う。
白い陶器で、黄色い縁取りがあって、花模様が遠慮がちに
ちりばめられている少女趣味のカップ。ノリタケの製品だ。
漂白剤を使わず、ゴシゴシ、スポンジや指の腹で洗う。
先日、内側の底に小さなヒビを発見した。
ヒビに珈琲の色素が染み込み、それはあたたかな模様にも見える。
娘が8歳の時に、母の日のプレゼントにくれたものだ。
当時、私はまいっていた。
結婚十周年を迎え、オシドリ夫婦気分の私に、突然夫は
「つき合ってる人がいる」と言い出した。
そりゃあ、びっくりした。天皇の人間宣言くらいね。たぶんね。
彼のいない人生なんて、考えられない。なにせオシドリだもの。
夫の心は戻ってくる、と信じたかった。
だから決めたの。夫が離婚を言い出さない限り、一緒に暮らそうと。
愛人がいることは、双方の親の知ることとなり、黙認された。
「居心地の良い家庭を用意し、夫の心を取り戻す努力をする妻」という
役が私に与えられた。それは唯一、私が救われる道に思われた。
「にこにこ笑顔でいなさい」と言われたが、笑顔はなかなか難しい。
愛人がいる夫との暮らしは、息苦しく、みじめで、
自分がだんだん、紙屑みたいに思えてくる。
ある日とうとう耐えられず、荷物をまとめ、娘と一緒に家を出ようとした。
玄関を出たところで、娘はワッと泣き出した。
私の手をふりほどき、家に駆け込むと、夫の腕にしがみつき、
「わたしは行かない。ここにいる。3人で一緒に暮らしたい」と叫んだ。
振り払われた手が、ゆらゆら揺れた。
娘の言い分はもっともだと思う。
私は出て行くのをやめた。
10年の結婚生活で私が得たものは、娘だけなのだ。
その娘を置いて家を出ることは、できなかった。
翌日は5月の第2日曜。
娘がデパートに行きたいと言うので、3人ででかけた。
フロアは家族連れであふれており、私達も仲の良い3人家族に見える。
娘はまっすぐに食器売り場に行くと、
「これ、買ってあげるね」とノリタケの珈琲カップを指差した。
私がデパートに来るたび足を止めて「綺麗ね」と眺めていたカップだ。
高価なものである。
娘は胸をそらして「キキとララ」の財布を私に見せる。
お年玉をためている、娘の全財産が入ったビニール製の財布だ。
ひとりで買うと言うので、私は数メートル離れた場所から見ていた。
手を振り払ったことに、責任を感じているのかしら、と思う。
珈琲カップを両手でかかえてレジに行く姿を
「落っことして割らないでよ」とハラハラ見守った。
レジの女性が「母の日の包装紙にしましょうね」と言い、
娘の後ろ頭は、うんうんと強くうなずく。
「お箱に入れましょうか? お箱代は百円かかりますが」と聞かれると、
娘は財布をのぞき、ちょっと考えてから、決断するように言った。
「お箱に入れてください」
そこで娘はぴょこんと飛び上がった。
ふふっ。誇らしいのね。
その飛び上がった後ろ姿を、私は一生忘れない。
すべてが満ち足りたような気持ちになって、
娘が笑顔ならそれでもう、いいんだと思うようになって、
自分のことを深く考えないようにして、3人で暮らし続けた。
夫が出て行き、ふたりきりになっても、そのままそこで暮らした。
夫との将来よりも、娘との現在を考えるようになった。
ある日、娘は言った。
「もう頑張らなくていいよ。一緒におばあちゃんちへ行こう」と。
「転校も平気」と笑った。
「ここにいる」と泣いた日から、1年たっていた。
私はささやかな達成感を得た。
ピアノも家具も捨て、実家近くに小さなアパートを借りた。
ふたりで新しい生活を始める時、私達はそんなに不幸ではなかった。
現在、私の背を越えた娘は、母の日が近付いても
「何もいらないよね」と言って、へらへら笑っている。
「ご馳走でも作ったげる」と言いながら、自分の好物を作ったりしている。
私が元気になって、娘も安心して、
自分のことばかり考える正統派のコドモに戻った。 (ぶんぶん)
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■3 プレゼント送付のご報告
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50号記念へのご応募、ありがとうございました。
発送手続きは完了しました。今月中には届くはずです。
応募された方全員にお送りすることができました。
「申し込んだのに届かない」という方はご連絡ください。
「届いたけどなんだよコレ」でもかまいません。
連絡先 執筆者JUNKO RXE01422@nifty.ne.jp
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以上「ぶんぶん便」No.51をお届けしました。いかがでしたか。
また次回お会いしましょう!
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http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000037573
※創刊以前のコラムは、ぶんぶん書庫で読めます。
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「ぶんぶん便」2001/9/25 No.51
執筆者●JUNKO RXE01422@nifty.ne.jp
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